The Romance of Everlasting 〜異聞・白鳥の王子〜



byドミ(原案協力・東海帝皇)



(17)復活・白鳥の王子達



毛利王国王宮の地下牢には、僅かながら日の光が射しています。
今日も、パンとスープの食事が、牢には差し入れられていました。

豊かな食事とは言えませんが、必要な栄養は満たしています。
食事の差し入れは、元々王宮につかえていた者達が行っていました。
ベルモットも、国王夫妻を飢え死にさせる気はなかったらしく、その点に関しては寛容だったのです。

しかし、しばしば牢を訪れていた筈の魔女が、このところ姿を見せていませんでした。

「何だ?ここ数日、あの魔女を見る事もねえ。一体、何がどうなってんだ?」

地下牢に閉じ込められたままの小五郎王は、呟きました。
髪もヒゲもぼうぼうに伸びておりますが、その鋭い眼光は失われていません。

「英理は?子供達は、無事なのか?王国はどうなっている?」

小五郎王が心配するのは、愛する家族と王国の事でした。


その時です。


突然、牢の鍵が、ガチャガチャと音を立てて外されました。

扉が開いて、顔を出したのは、小五郎王が見知らぬ人間の男でした。


「陛下!お助けに参りました!」
「き、貴様・・・い、いや、君は?」
「私は、森に住む、木こりの剣崎と申す者。蘭王女様が静養なさっている時に、お世話をしていた妖精乙女達・アースレディースの・・・まあ、友達です」
「あ?ヨーコちゃん達の友達?お前、まさか、ヨーコちゃんと?」

ついさっきまで、家族と王国の事だけを心配していた筈の小五郎王でしたが、つい、普段の悪い癖が出てしまったようです。
小五郎王は、妖精乙女達の中でも特に魅惑の歌声を持つヨーコの、ミーハーファンだったのでした。

「はあ?あ、いや、別にそのような・・・私が憧れていたのは輝美さんの方ですし、でも今はユキさんとラブラブ・・・って、何言わせんですか!?とにかく、ベルモット達は工藤王国に行っちまいましたし、アースレディース達も魔物達との決戦の為に、工藤王国に向かいました。で、私が国王陛下達をその間にお救いする為に、こちらに伺った次第です」
「それは、かたじけない」

幸い、牢の中はある程度の広さがあり、小五郎王も、足が萎えたりはしておりませんでした。
しっかりした足取りで、剣崎の後に続きます。


英理王妃の牢も、すぐ近くで見つかりました。

が、(剣崎がさすがに憚って)小五郎王が扉を開け顔を覗かせますと、英理に皿を投げつけられてしまいました。


「もう!デリカシーがないにも、程があるわ!」

ちらりと見えた英理王妃は、変わらず美しい姿をしており、やつれていないようで小五郎王はホッとしたのですが。
本人に言わせると、長い事お風呂にも入れず着替えも出来ていないむさくるしい姿で、他人の前に姿を現すなど、とんでもないという事だったのです。


お城に残っていた者達は、国王夫妻が無事解放された事を知ると、喜んで、風呂や着替えの準備を整え。
風呂で垢を洗い流し、髪を切りヒゲを剃り、着替えをして、ようやく人心地がついた国王が、広間に姿を現しますと、英理王妃はまだ身支度中との事で。
そこには、蘭の世話係だったヒカルが控えており、小五郎王に向かってお辞儀をしました。


「ん?オメーは、確か蘭の世話係だった・・・にしても、そのお腹は?」

ヒカルは、どうやら身篭っているようで、臨月らしい大きなお腹を抱えておりました。


「あ、あの・・・陛下のお許しも頂かずに、申し訳ありません。私のお腹に宿っているのは、恐れながら陛下の孫にあたる方です」
「ぬわに〜〜っ!?」

小五郎王達が牢に閉じ込められ、白鳥の王子達が工藤王国へと飛び立ったあの日から、実に8ヶ月もの月日が過ぎていたのでした。
ヒカルは、智明王子との一夜の契りで子供を身篭り、森で妖精乙女達の世話を受けて、無事にここまで過ごしてきたのでした。

「あなた」

やややつれた様子ですが、以前と変わりなく美しい姿の、英理王妃が、姿を現しました。

「英理!」

小五郎王が、数ヶ月ぶりに会う妻を抱き締めました。

「あ、あなた・・・皆さんが見ているのに・・・」

言葉ではそう言いながらも、英理王妃も、数ヶ月ぶりに会う夫を邪険に扱う事など出来ませんでした。


「子供達は・・・どうなったの?無事なのかしら?」

英理王妃が、夫の顔を見詰めながら、言いました。
木こりの剣崎が、国王夫妻のラブシーンに心もち顔を赤らめながら、言いました。

「あ〜、あの、殿下達は、海を越えた工藤王国で、御息災だと・・・今はおそらく、数日前にこのお城を去ったベルモットとの最終決戦が行われているかと」
「あ〜、それでな、英理。どうやら、牢に入っている間に、我等の初孫が、臨月間近らしい」
「な、何ですって!?」
「蘭の世話係のヒカルと・・・で、あ〜、どの王子との子供だ?」
「ヒカル・・・あなただったの。だったら、智明ね?」

ヒカルは、頬を染めてコクリと頷きました。

「あ〜、その、陛下。ヒカルちゃんを責めねえでやって下さい。王子様達は、魔女ベルモットに呪いをかけられて、白鳥の姿になって、毛利王国を離れなくちゃならなかったんだ。連れて行けるのは、蘭王女様お1人だけ。智明王子様が、故郷を離れる前に、ヒカルちゃんを妻となさって、ひと晩だけの契りだったんですから」
「責める気なんか、ないわ。無事に、智明の子供を守ってくれて、ありがとう」

英理王妃は瞳を潤ませ、ヒカルの手を握り締めました。


「さて、こうしてはいられねえぞ。魔女に踏み躙られた王国の建て直しも急務だろうが、魔女との最終決戦が工藤王国で行われているのなら、我等も・・・」
「ええ。でも、どうやって?」


   ☆☆☆


魔物達の姿は消えたものの、優作王の一行は、ゴーレム相手に苦戦を強いられていました。
カタパルト(巨大投石器)で破壊して、一旦飛び散っても、再び形を成して襲って来るのです。

「あれにも必ず、弱点はある筈だ」

優作王が、ゴーレムを見据えながら呟きました。
その優れた指揮のお陰で、今のところ軍の中に大怪我をした者も命を落とした者もありませんが。
次第に疲労の色が濃くなって来ておりました。

「こらあかんわ。キリがあらへんで」
「何とかせんと、味方が疲れ果ててまう」

服部元帥と、遠山近衛師団長は、厳しい顔をして何度も再生するゴーレムを睨みつけました。
元々は司法長官である白馬も、今は戦場で闘う人です。

「人外の者相手だから、破壊しても心が痛む事はないが・・・このままでは我々が・・・」

白馬も、額に汗を浮かべていました。


「陛下」

背後からかかった声に、優作王は振り向く事なく応えました。

「魔法師団長か。どうした?」
「ゴーレムには、核があります。私の魔力でそこを破壊すれば、再生する事はありません」
「そうか、では」
「ただ、核は体の奥深くにあるので、私だけの力で核を破壊してしまうのは、難しゅうございます」
「ふむ。なるほど。師団長、ゴーレムを一旦破壊したら、君の力で核を破壊する事は出来るか?」
「はい」
「では。連携プレーと行こう」

紅子は頷きました。

兵士達がカタパルトゴーレムをで破壊し、再生しようと寄り集まる前に、紅子が魔力を込めた槍で核を突き、止めを刺しますと。
ゴーレムは、完全に土くれに戻り、2度と元に戻る事はありませんでした。

兵士達が歓声を上げます。

「よっしゃ!行けるで!」

元帥が、号令をかけ。
兵士達はトキの声を上げ、ゴーレムに立ち向かって行きました。



「青蘭女帝。これは、話が違うじゃないか」
「ゴーレムを使えば、工藤軍は苦もなく皆殺しに出来る筈だったのに!」

会盟の軍を率いていた京介王・帝二王・公平王は、ゴーレム達が次々と破壊される事態に青くなり、青蘭女帝に迫りました。

「おのれえ!無能者めが!」

青蘭女帝は、ゴーレムを作った美波子を呼び出しますと、問答無用で切って捨てようとしました。
しかし、美波子は素早く飛び退り、それを避けました。

「ふん、無能と言うなら、あんたもそうじゃないのさ。魔物がついてなきゃ、何も出来やしないメギツネが」

美波子の嘲るような言葉に、青蘭女帝は頬をピクピクと震わせました。

魔物達は全て、工藤王国に去って行ってしまい、ゴーレムも全て破壊され、残された兵士達も散り散りになって逃げ去っていました。
そして、残された王達の間で、醜い内輪もめが始まろうとしていました。


   ☆☆☆


蘭王太子妃は、急降下して来るサラマンダーの姿を認め、思わず目を潤ませました。

そして。
とうとう、帷子が編みあがりました。

蘭王太子妃は、編みあがった帷子を空に向かって投げました。
不思議な事に、それは白鳥達の元へと飛んで行き、ふわりと背中に掛かり。

そして、毛利兄弟達は、次々と元の姿を取り戻して行きました。


「らああああああん!!」

「新一様ああああっ!!」

新一王太子の呼びかけに応え、今こそ蘭は、声を限りに呼びかけました。

ペガサスが地に着くや否や、新一王太子は転がるように蘭の元に駆け寄りました。
そして、ひしと抱き締めます。
蘭も、ひしと新一王子に抱きつきました。



「しっかり、しっかりして!!」

美和子の悲鳴のような声が聞こえました。

「わ、ワタル兄様っ!!」

美和子の声に状況を思い出した蘭も、大怪我を負っている兄の姿を見て、叫びました。
美和子を庇って瀕死の重傷を負った白鳥は、ワタル王子だったのです。


周りではまだ戦いが続いていますが、平次公子や秀一も戦いに加わったのもあり、魔物達の勢力は衰えていました。
蘭はワタル王子の元に駆け寄ります。
新一王子も、すぐ続きました。

ワタル王子は、傍に屈み込んでいる美和子を見て、力なく微笑みました。

「美和子・・・さん・・・無事・・・ですか・・・?」
「ええ、ええ!今、手当てをするから、声を出さないで!」

「兄様、ワタル兄様!」
「蘭・・・とうとう、僕達の呪いを解いてくれたんだね・・・」
「兄様!」
「新一王子。蘭は、毛利王国の王女、我等の妹姫です。どうか、蘭を頼みます・・・」

ワタル王子が、新一王子の方を見て、そう言いました。
ワタル王子の顔には、もはや死相が現れています。
新一王子は、蘭の兄であるワタル王子を何とか助けなければと思いながらも、もはや手遅れであろう事も分かっていました。


「ワタル王子、駄目よ、死んじゃ駄目!そんな事、絶対許さないんだから!」

美和子が涙を流しながら叫びました。

「申し訳ありません・・・最期の最期まで・・・」


その時です。
空から羽ばたきの音が聞こえました。

みなが振り仰ぐと、ペガサスの姿がそこにはありました。


「キッド!」
「青子ちゃん!」
「蘭ちゃん、大丈夫、お父様から貰ったこの薬があるわ!」

ペガサスから降り立った青子が、父親から貰い受けた薬のビンを手に、ワタル王子の元に駆け寄りました。
そして、薬を一滴、ワタル王子の口に垂らしますと。


「「「「おおおおお!」」」」

ワタル王子の顔色が見る見る赤味を帯びたものに変わり、傷口が塞がって行きました。

服は破れ、血に汚れていましたが、ワタル王子は傷跡ひとつなく、あっという間に息を吹き返したのでした。

「良かった、間に合って・・・あの薬、どんな重病も怪我も、たちどころに治す力があるけれど、死者を呼び戻す事だけは出来ないから・・・」

青子が安堵の息をつきました。


「ワタル王子!」

美和子が、血に汚れるのも厭わず、ワタル王子をしっかりと抱き締めました。

「ワタル兄様・・・良かった・・・」

蘭王太子妃は、緊張が解けて倒れそうになったところを、新一王子に抱き留められました。


「蘭。もう、口が利けるようになったんだね」
「新一様・・・わたしは・・・」
「そうか。白鳥達と、蘭とが、名にし負う『毛利王家の12人兄弟』だったんだな」
「新一様?どうして、その事?」
「・・・推理する材料は、沢山あった。だけど、父上から言われてたんでね。オレは必死で好奇心を捻じ伏せていたよ」
「新一様?」
「オレが、蘭の夫だから。呪いを解くまでは、オレに知られてしまってはならない。そういう呪いだったんだろ?」
「はい・・・」
「蘭を、ぜってー悲しませたくなかったから・・・だから、オレは・・・」
「新一様・・・」

2人はひしと抱き合って、熱い口付けを交わしました。


「あの〜、邪魔しとうないのは山々なんやけど、そろそろ戦いに加わってくれへんか?魔物の数が多過ぎて、かなへんわ」

平次公子が、激しく剣で魔物と渡り合いながら、声をかけてきました。

既に、白鳥の王子達も(怪我が完治したワタル王子も含めて)参戦しています。


新一王子は、懐から球状のものを取り出すと、それを蹴り上げました。
矢のようなスピードで飛んで行ったそれは、狙い違わず魔物の体に突き刺さります。

「ゴ〜〜〜ル!!」

新一王子が不敵な笑みで言いました。

「くくく、このようなもので我を傷つける事が出来ると思うのか?」

そう言って嘲笑った魔物のジンは、次の瞬間、顔を歪めました。

「な、なにっ!?」
「そいつは、魔力を込めてもらった特別製のヤツでね。オレが蹴った時には、魔を葬る力を持っているんだ」
「ぐ、ぐおおおおおっ!」

魔物のジンは、断末魔の声を上げた後、灰のように崩れて消えてしまいました。

一般市民達は、既に誘導されて避難しており。
今は、男性陣が女性陣を庇うように取り囲んで陣形を敷いています。

新一王子の隣に陣取っていた魔法使いキッドが、感心したように口笛を吹きました。

「ほう、やっぱ、自覚はねえけど魔力はあんだな、王子様。そのボール、他の者が蹴っても魔を葬る力は発揮しねえだろ?」
「抜かせ!王家の者は、大抵、何らかの力を持っているものだろうが」
「かも知れねえな。でねえと、王国を守る事も出来ねえ。ま、王家の者でも力がない者や私利私欲に走ってしまう者も多いがね」
「ああ、今の騒乱は、その私利私欲と魔物の力が結びついた結果だ。せめて早く魔物を排して、平和を取り戻さねえと・・・おし、行けえ!」

新一王子が、更に球を蹴りますと、また一体、魔物が消え去りました。
キッドが再び口笛を吹きます。

「おー。百発百中」
「オレ、剣よりこっちの方が得意なんだよな〜」
「苦手なもので無理をせず、得意なもので勝負する。うん、そういった開き直りが出来るのが、オメーの良いところだって思うよ」
「・・・生憎とオレは、オメーのような天才タイプじゃねえもんで」
「んだよ、皮肉か?」
「事実を指摘したまでさ。ソレッ!」


再び、新一王子の蹴った球が、魔物の1人にヒットしました。

勿論、キッドも手をこまねいている訳ではなく、他の皆もそれぞれに戦っています。


ベルモットは、配下の魔物達が次々と倒されて行くのを、じっと見ていました。
見捨てるとかそういう事以前に、この器の魂の抵抗が強くなり、新一と蘭が揃った事でベルモットの魔力は弱まり、動けなかったのです。


そしてとうとう、ベルモット以外の魔物達は、全て倒されてしまいました。


有希子王妃が、怒りに顔を赤く染めて、ベルモットに詰め寄りました。


「シャロン。あなたが、元凶だったの?この世に破滅と戦乱をもたらそうとしたのは、あなただったの!?」


有希子王妃が、低い声で問い質しました。



(18)に続く

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(17)の後書き座談会

蘭 「あ〜、ようやく口が利けるようになったわ」
新一「長かったよなあ、うん」
智明「あの・・・ひかるさんが臨月という事は、私達が旅立ってからそれだけの月日が流れたと?」
参悟「う〜、まあ、そういう事になるんじゃないか?」
園子「原作の新出先生は、手が早いイメージはないけど、まあ、この話では非常事態だったからねえ」
和葉「ところで、アンデルセンのお話では、蘭ちゃんの立場のエリサ姫は、最後まで妊娠せえへんのやろ?」
平次「せやけど、グリム童話に似たような話があんのやけど、そっちでは姫は何人か出産してんで?」
和葉「ホンマなん!?」
新一「アンデルセン童話自体が、元々語り継がれている民話を元にして作ったりしてるからな」
快斗「元々が、夫婦としてやる事やってるって話なんだから、いつ子供が出来てもおかしくねえよな」
真 「あの。そろそろ、際どい会話を止めていただきたいのですが」
平次「なんや、アンタも同じ穴の狢やないかい」
志保「醜い争いは止めなさいよ、みっともない」
紅子「そこら辺は、童話設定だからという事で、矛を収めた方が宜しくてよ」
青子「本当はエッチな○○童話、ってとこかな?」
恵子「ま、そうなんだけど、青子、あんたが言うと何ていうか・・・」
新一「さて、やたらと年月がかかったこの話も、いよいよ大詰め。後はラスボスとの戦いを残すだけか」
有希子「シャロン・・・本当にあなたなの?」
優作「原作と違い、シャロンとベルモットは別存在のようだよ。けれど、どうなるのかねえ?」
志保「次回は、シルバーブレッドが発動、となるのかしら?」
小五郎「新一、貴様、俺が閉じ込められている間に!」
英理「あなた。だから、これは童話設定なんだから」
元太「そうだぜ、この話ではおっちゃん達はオレ達の親でもあるんだぜ」
光彦「そうですよ。蘭お姉さんばかり、ひいきしないで下さいね」
小五郎・英理「「・・・・・・・・・・・・」」
智明「まあまあ。それでは、また、近い内にお会いしましょう」


(16)「決戦」に戻る。  (18)「シルバーブレット発動」に続く。