First Love,Eternal Love



byドミ



(12)工藤家の未来設計



「父さんたちが、明日帰ってくる」

夏休みも半ば以上を過ぎたある晩、新一がそう言った。

コーヒーを淹れかけていた蘭の手が止まる。

新一に愛され、幸せいっぱいの日々を過ごしてきた蘭だが、本来の自分は工藤家の家政婦だったと、思い起こして呆然とする。

「蘭?」

新一の訝しげな声にはっとして、慌ててコーヒーを淹れ、リビングまで運んで行った。

「新一、私どうしたらいいかしら」
「別に何も。ただ、帰って来るって事を頭に置いててくれれば、それだけでいいよ。あと、御飯は4人分な」

蘭は、穏やかに微笑んでいた優作と、気さくな笑顔で迎えてくれた有希子を思い浮かべる。
優しくて、昔からの知り合いのように思えた2人。

けれど、蘭が2人の大切な1人息子と深い関係になってしまったと知ったら、彼らはどう思うだろう。
それも、信頼して新一の身の回りの世話を任されたというのに。

ソファーで隣に座っていた新一が、ふいに蘭の肩を抱き寄せ、もう片方の手で蘭の顎を持ち上げ、目を覗きこむ。

「バーロ。なんて顔してんだよ」
「え?」
「おめーが不安になる事なんて、何もねーよ。何があっても俺はおめーを手放す気なんてねーし。あいつらもおめーの事、すっげー気に入ってっからよ、大丈夫だって」
「私、そんなに変な顔してる?」
「おめーはすぐ顔に出っからな」

新一を信じていない訳ではないが、蘭の不安はなくならない。
新一の口付けを受け止めながら、いつまでこんな事が許されるだろうと、蘭は思わずにはいられなかった。







「たっだいま〜、新ちゃーん、蘭ちゃーん、元気だった〜?」

久し振りに響く有希子の明るい声。

「お帰りなさいませ」

蘭は玄関で出迎え、荷物を受け取ろうとするが、さっと優作の手がのびて、蘭が持とうとする荷物を抱え上げた。

「新一くんはどうしたのかね」
「先ほど目暮警部から呼ばれて警視庁の方に」
「そうか・・・。まあ、帰って来ることを言ってなかったから、無理ないかな」

優作の言葉に、蘭は驚いた顔をする。

「えっ?新一・・・新一さんは、ご両親が帰って来られる事、ご存知でしたよ。昨日、そう言われてましたから」
「おやおや。なかなかに調査能力も上がってきたようだ。といっても、親が帰って来るのに事件となると飛んで行ってしまうとはねえ」

有希子がからかうように言う。

「あら、優作だって、似たようなものじゃない。新ちゃんのあの性格、あなたそっくりよ」
「やれやれ。過去を知られている人にはかないませんねえ」

会話しながら、一行はリビングに向かい、工藤夫妻はソファーで一息入れ、蘭はお茶を淹れにキッチンに行った。


ソファーに座った途端に、優作の携帯のコールが鳴った。

「ちょっと野暮用が出来たようだ。有希子、出かけてくる」
「行ってらっしゃーい。新ちゃんによろしくねvvv」

有希子の言葉に苦笑いすると、優作はたった今入ったばかりの玄関を出て行った。



  ☆☆☆



蘭が2人分の紅茶を淹れて戻ってくると、優作の姿は既になく、蘭は戸惑ったように言う。

「え?あ、あの・・・おじさまは?」
「帰って来た途端に呼び出しよ。蘭ちゃん、せっかくだから、一緒にお茶頂きましょう。おいしいお菓子も買って来てあるのよ」

有希子に言われ、蘭は有希子の向かい側に腰を降ろす。
有希子は嬉しそうに目を細めて蘭を見る。

蘭は元から綺麗で可愛い少女だった。
けれど、ちょっと見ない間に見違える程美しくなった、と有希子は思う。

「ねえ蘭ちゃん。新ちゃん・・・新一と何かあった?・・・恋人同士になった?」

蘭は真っ青になり、蘭の手からカップが滑り落ち、床に落ちて音をたてて割れた。
有希子は蘭に駆け寄る。

「大丈夫、蘭ちゃん、怪我しなかった!?ごめんね、突然変な事聞いたから」
「申し訳ありません!」

蘭は俯いて肩を震わせて言った。

「蘭ちゃん?」
「家事を預かる身で、お給料だって頂いているのに、私、私、こんな・・・」
「蘭ちゃん、蘭ちゃん何を言うの?ちゃんとお給料に見合う以上の仕事はしてくれてるじゃないの。この家を見てたら、その事が良く判るわ。新ちゃんとの事は、新ちゃんが望んだ事でしょ」

蘭は顔を上げる。

その目は涙で潤んでいた。

「蘭ちゃん、辛い思いはしていない?新ちゃんに無理強いされてる事なんてない?」

蘭は激しくかぶりを振った。

「いえっ!とんでもないです!新一さん、すごく良くしてくれて、優しくしてくれて・・・私、私なんかに・・・」
「蘭ちゃん、私なんかって言わないで。蘭ちゃんは新ちゃんには勿体無いくらい素敵なお嬢さんよ。だからね、蘭ちゃんが新ちゃんを選んでくれたなら、こんなに嬉しい事はないの」
「おばさま・・・」

有希子はにっこり笑うと、お茶を淹れなおしましょうねと言ってキッチンへと向かった。



  ☆☆☆



「新一くん、疲れて帰ってきた父親に、家で寛ぐ暇も与えないとは、薄情な息子だねえ」
「うっせーな。予告なく突然帰って来たくせによ」
「わざわざ警察に呼び出されたと嘘までついて、こんな所で私を待ってた理由は?」
「・・・・・・」

工藤優作と新一親子は、何故か喫茶店で向かい合わせに座ってお茶しているのであった。

「ここのコーヒー、悪くはないが、家で有希子が淹れてくれるのには敵わないね」
「悪かったよ。けど、蘭が母さんと会う時、俺がその場に居ない方がかえって良いかと思ってよ。それに父さんと2人で話したい事もあったし」
「ほう。『蘭』と呼び捨てか」
「混ぜっ返すなよ。どうせ見当はついてんだろうが。俺が父さんたちに日本に帰ってきてもらった理由」
「そこまで買い被ってもらうと困るね。・・・で、どうやって私達が帰って来ることを知ったんだい」
「・・・ちょっと航空会社のコンピューターにアクセスして・・・国際線は偽名を使えねーからな」
「新一、あまりな事をやると犯罪者だよ」
「犯罪にならない程度にやるさ。・・・で、見当ついてんだろ?」

優作はやれやれといった風に肩を竦める。

「まあ、君が私たちに何らかのお願いをするときはほぼ百%蘭くん絡みだって事は、判っているがね」
「・・・蘭さえ嫌と言わなければだけど、俺が18になったら、即入籍したい」

優作は軽く目を見張る。

「ほお、いきなり直球勝負で来たね」
「父さんと駆け引きしたってしゃーねーだろ」
「・・・そこまで言うって事は、もう一線を超えたって事だね、新一?まだ君は高校生なんだよ。判っているんだろうね」
「確かに、責任とれる年齢でもねーのに、手を出したさ。でも、蘭を抱いた事、後悔はしていない。あいつにとっても、必要な事だったからな」
「まあ今時、高校生位なら恋人とそうなるのが当たり前のようだから、うるさい事を言うつもりはないが・・・。18で結婚とは、いくら法律上結婚できる年齢とは言え早くないかね?」
「高校生探偵の俺が、女と同棲っつったら、すげースキャンダルになるよな。今んとこ何とかマスコミは遠ざけてるけど、蘭をなるべくスキャンダルに巻き込みたくない。だからと言って、俺は蘭を手放せない。せめて正式に籍だけでも入れれば、少しは風あたりもマシになると思う」
「生活はどうするね?それに、結婚式は?何もなしという訳にもいかんだろう」
「まだ俺は高校生だし、自分で稼いでる訳でも無いから、父さんたちに甘える事になると思う。俺が本当にひとり立ちできるまでは、父さんたちに援助して欲しい。自分で虫のいいこと言ってんのは、判ってっけどさ。式は身内で簡単に。披露宴は、俺が高校卒業後だな」

優作は煙草に火をつけた。

しばらく黙って天井の方を見る。

新一も、優作の答えを急がせなかった。
自分で言った通り、虫のいいお願いだとは思っているのだ。

しばらくして、優作は口を開く。

「新一。私たちも君の親として、何が君にとって一番大切かを考えて、必要な援助はしていくつもりだよ。――君が私たちに自分の弱さをさらけ出して頼ってきたのは、全部蘭くん絡みだったね。今更、節度を保てとか、一人前の社会人になるまで待てとか、野暮を言うつもりは毛頭ない。
ただ――たとえ籍を入れても、君が高校卒業するまでは、やはり世間は厳しいよ?ばれればスキャンダルの渦に巻き込まれる。充分注意しておく事だね」
「父さん――」
「君の人生で、蘭くんを失ってしまう事が、どれ程の痛手になるかは理解しているからね。思うとおりにすればいいし、必要な援助はしていく。いずれきちんと返してもらうがね」
「・・・ありがとう、父さん」
「ただし、プロポーズは自力でやってくれ。私たちの援助をあてにするなよ」
「ったりめーだろ、バーロ」

新一が顔を真っ赤にして言い、優作は余裕の態度ではっはっと笑った。



  ☆☆☆



有希子が改めて淹れた紅茶を飲み、蘭はようやく落ち着いてきた。

「ねえ蘭ちゃん、新ちゃんがなんで日本に帰って来たか知ってる?」

蘭は赤くなってかすかに頷く。

「蘭ちゃん、新ちゃんから聞いたのね。でもその為に、新ちゃん、ものすごく努力したのよ」

えっと声を出して蘭は顔を上げた。

「もうロスに着いてすぐ位からかしら。新ちゃん、日本に帰りたいって言い出してねえ。それは大変だったのよ。最初はねえ、新ちゃんが何でそんな事言い出したか、判らなかったのよ。新ちゃんだって、すごくロスに行くの楽しみにしてたんだし。新ちゃんの能力と探偵になりたいと言う希望からすれば、むしろ日本にいるよりあっちで学べること多いと思ったし、事実そうだったしね。でもその内、私達にも判ったのよ。あの子のホームシックは、恋煩いだってね」
「おばさま・・・」
「新ちゃんが、探偵になるという事以外に、こんなに執着心を見せたのは初めてでねえ、でも、まだ小学生だし、いずれその気持ちも思い出になるかと思ってたんだけど、新ちゃんは違ってた。もうそれは病気になりそうなほど苦しんでたから、私達も見ていられなくなって。だから、新ちゃんに色々条件を出してね、それを全部クリアーすれば、高校は日本の高校に行かせてあげると約束したの」
「・・・・・・」
「新ちゃんは、学業でもスポーツでも、元々能力が高かったけど、それでも私たちの出した条件は半端なものじゃなかった。新ちゃんがどれだけ本気か試すという意味もあったし。新ちゃんはねえ、あっちでスキップして、高校の課程は終わってるし、大学にも1度入学してるのよ。日本ではスキップ制度がないから、普通に高校に入ったけどね」

蘭は息を呑む。
新一からは1度もそんな話を聞いた事はなかった。

「おまけに、サバイバル能力とか、戦闘能力とか、家事能力に至るまで、様々な事をクリアーさせたわ。まあ、探偵になるつもりなら、全部いずれ新ちゃんの役に立つ筈だからね。そうやってあの子は日本に帰ってきたの」
「そうだったんですか・・・」
「あ、そう言えば蘭ちゃん?最初に私達、あなたにまだ嘘ついてたわ。新ちゃんが1人暮らし初めてって言うのは嘘。高校入学してからほぼ1年間、あの子は1人暮らしだったわ。私達は時々帰って来てただけ」
「えっ、じゃあ、家政婦なんて、必要なかったんですか?」

思わず蘭は声をあげる。

「家政婦さんがいた方が新ちゃんがちゃんと3食御飯食べて、片付けとか掃除とかに煩わされなくて、楽になるだろうなって思ったのは本当よ。あの子は料理も含めて家事は一通りはできるけど、どうしても探偵活動とかの方を優先させるでしょ?」
「・・・・・・」
「せっかく日本に帰ってきたのに、新ちゃん1年以上も蘭ちゃんと再会できなくて、だんだんと元気がなくなっていってたからねえ、何とかしてあげようと思って。蘭ちゃん呼ぶ口実は、別に何でも良かったんだけど、優作とあれこれ考えた挙句に、蘭ちゃんが家事が得意だった事を思い出してね。蘭ちゃんの性格から言って、まずバイトを探すだろうし、探す時はおそらく大学の学生課に頼むんじゃないかなあと思って」
「あの・・・何故、私のことそこまでご存知だったんですか?」
「英理に聞いたからよ」
「えっ?」
「私と英理は昔からの友達だったの。だから蘭ちゃんの事は本当に色々と聞いていたわ。新ちゃんが偶然会って恋に落ちた相手が英理の娘さんだって知った時は、そりゃあ驚いたわよ。だから英理と連絡取り合って、それとなーく新ちゃんのことも売り込んどいたのよ。英理は、そこまで思ってくれるのなら後は蘭ちゃん次第だって言ってくれたわ。偶然とはいえ、蘭ちゃんを守った実績もある事だし、下手に変な男に引っ掛かるより、ちょっと年下でも有希子の息子の方がずっと良いわって言って」
「そういえば、大学で、おばさま達が私の両親と旧知の間柄だと伺いました」
「そう。優作と小五郎さんも事件絡みとかで知り合いではあったけど、英理と私は以前からの友達だったの。だから、お互いの子供が引っ付けば嬉しいなって、単純に期待してたわ。ただ困った事に、小五郎さんがそれ聞きつけちゃって・・・年下のくそ生意気な青二才には絶対渡さんってそりゃあもう・・・」
「え?あの、それって・・・、父が新一の・・・新一さんの事嫌ってたのって、まさかそのせいだったんですか?」
「あら、新ちゃんたら嫌われてた?でも、誰が相手でも、きっと小五郎さんの事だから、気に喰わないに決まってると思ったけどね」

お互いの両親の間で、そんな話まで進んでいたとは夢にも思わなかった蘭は、本当に驚いてしまった。

「ただ、蘭ちゃんが無事大学受験が終わって、いよいよ何とかして二人を会わせようと画策してた矢先に、あの事故があって・・・」

有希子が辛そうに目を伏せ、蘭も胸が痛んだ。
蘭が両親を失ってしまったあの事故・・・。

「新ちゃんもねえ、何も言わなかったけど、すごくショック受けてて、でもまだ再会を果たしていないあなたを慰めに行くことも出来ずに、すごく悶々としてたみたいよ」
「あの、じゃあ、私を雇ったのって・・・」
「そう、新ちゃんの傍に置くため。うまくいけばいいなあ、って思ってたけどね。新ちゃん、無事蘭ちゃんのハートをゲット出来たみたいで、私も本当に嬉しい。我が息子ながら、良くやったと褒めてあげたいわ」
「私も・・・初めて出会った時から、ずっと新一さんの事、好きだったんです・・・」

蘭の言葉に、有希子はちょっと驚いたように目を見張った後、微笑んだ。

「そうだったの。これはもう、運命だったのね、素敵だわ。本当に、新ちゃんは幸せ者だと思うわよ。蘭ちゃん、ありがとう」
「おばさま、お礼を言うのは私の方です。そんなにまで私の事を気遣ってくださって、私、幸せです」

2人の間に、暖かな、穏やかな空気が流れた。

「蘭ちゃん、私は蘭ちゃんのような娘が昔から欲しかったの。なのに出来たのはむさい男の子が1人。これはお嫁さんに賭けるしかないと思ってたけど、期待以上の可愛らしいお嫁さんが出来そうで、本当に良かったわvv」

有希子の言葉はすごく嬉しいような、でもどこか間違っているような気もして、蘭は頭がくらくらしてきた。

「悪かったな、むさい息子でよ」

突然降ってきた言葉に、有希子も蘭も飛び上がる。

「あら、新ちゃん、何時からいたの?」

有希子が引きつった笑いで言う。

「『蘭ちゃんのような娘が欲しかった』ってとこからかな。なに?もっとまずい話でもしてたわけ?」
「やあね、そんな事ないわよ新ちゃん。・・・ところで優作は?一緒だったんでしょう」
「ん?ちょっと寄るところがあるって言ってた。・・・やっぱり母さん、父さんを呼び出したのが俺って知ってたんだな」
「その位判らなくてどうするの。何年あなたの母親をやってると思ってるのよ」
「17年」
「あー、可愛くなーい!息子なんて、ましてや生意気な息子なんて、ほんっと、可愛くないわ。ああもう、私、本当に可愛い女の子が欲しかったわ。今からじゃ無理だし、新ちゃん、早く結婚しちゃって可愛いお嫁さんを見せて頂戴よ」
「その気になれば、今からだって俺の妹作れるだろ?それに、俺が嫁さん貰うのって、あと最低1年は無理だろ。俺まだ17だし」
「頑張ってるけど、新ちゃんの後、何故か子供が出来ないのよ。・・・判ったわ、仕方ないわねー、そのかわり18歳になったら、即お嫁さんゲットよ!」
「それは・・・蘭の意思を確認しねーと」

蘭は真っ赤になった。

「し、新一、突然何を言い出すのよっ!」

焦るあまりに、蘭は有希子の前で新一を呼び捨てにしてしまった事にも気付かない。
有希子も新一も、すっかり蘭が新一のお嫁さんになるものと決めてかかっているようである。

蘭は、とても嬉しいけれども、この親子の感覚が、どこか世間とずれているような気もして、頭痛がしてきていた。

『そりゃあ、お嫁さんといって即私のことを思い浮かべてくれるのはすっごく嬉しいけど。でも、結婚なんて何年も先の事・・・、私の気持ちは絶対に変わらないと思うけど、新一は?』

蘭はまだ、工藤親子が冗談でなく真剣に、かなり具体的に蘭の嫁入りを考えているなどとは、想像もしていなかった。



  ☆☆☆



その夜は、蘭の手料理での一家団欒。
蘭もすっかりその中に溶け込んでいる。

「とってもおいしいわ、蘭ちゃん」
「毎日この御飯が食べられるとは、新一くんも幸せ者だね」

手放しで褒めてくれる工藤夫妻の言葉に、蘭は素直に嬉しかった。



食事が終わった後、蘭は後片付けの為立ち上がる。

新一もごく自然に(いつも通り)手伝おうと腰を上げる。

「あ、新ちゃんは座ってて。私が蘭ちゃんと一緒に後片付けするから」
「え?母さんも長旅の後で疲れてるだろ?」
「嬉しい事言ってくれるけど、この位は大した事ないわ。それより、優作が話したい事があるみたいだから」

そして有希子は蘭と一緒にキッチンの方に消えて行った。



優作がおもむろに口を開く。

「新一、今日もまた出来る限りの手を打ってきたけれどね」
「父さん・・・」
「後2年近くも、マスコミを抑え続けるのは、もしかしたら難しいかも知れない。その時は、蘭くんを連れてロスにおいで。新一もそれならホームシックにならないだろう?それに君はあちらでなら、もう大学生になってるんだし。私と有希子は、いつでも君達を歓迎するよ」
「・・・ありがとう、父さん。俺のすげー我儘をきいてくれて。俺、本当に父さんたちの子どもで良かったと思ってるよ」
「今日はえらく素直だね、新一くん?」

新一は赤くなり、その様子を優作はからかうような、けれど優しい瞳で見詰めていた。



「蘭ちゃん」
「はい?」
「私達は、明日ロスに帰るから、新ちゃんのことをよろしくね」
「えっ、そ、そんなに急にですか?」
「向こうで仕事が詰まってるのに、新ちゃんに呼ばれたから、無理に時間作って日本に来たのよ。明日がタイムリミットなの」
「新一さんに呼ばれて?」
「大事な話があるからって」
「大事な話?」
「蘭ちゃん、あなたのことよ」
「え?ええっ?」

思わず蘭は洗っていた皿を取り落としそうになる。

「・・・新ちゃんは、真剣にあなたのこと考えてる。もう本当に、蘭ちゃんの事が大切でたまらないの。蘭ちゃん、虫のいいお願いって判っているけれど、新一の親として、蘭ちゃんにも真剣に新一のこと受け止めて欲しいの。この先も、新ちゃんの事、宜しくお願いするわ」

蘭は胸がつまり、知らず涙が零れていた。

『私、幸せだ。新一にそこまで愛されて、新一の御両親にまでこんなに優しくしてもらえる』

「やだ、蘭ちゃん、御免なさい、泣かせてしまって」
「あ、い、いえ、これは、嬉し涙なんです!ありがとうございます。・・・私の方こそ、不束者ですが、これからも宜しくお願いします」





(13)につづく



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(12)の後書座談会

「今回のサブタイトル、『工藤親子の陰謀』って方が、合ってるような気がするよな・・・」
「新一、何ブツブツ言ってるの?」
「蘭、別に何でもねーよ」
「新ちゃ〜ん、お茶淹れて頂戴。あー、台詞が多くて喉渇いたわ」
「俺はコーヒーしか淹れられないってば。母さん、元女優だったんだから、長い台詞くらい、なんて事ねーだろ?」
「おばさま、紅茶を淹れてきました」
「ありがとう、蘭ちゃん、気が利くわねえ。うん、それに美味しい!」
「母さんと蘭との場合、嫁姑問題は無さそうだよな。むしろ母さんには、俺より蘭の方が可愛いみてーだし」
「あら、新ちゃん妬いてるの?
「別にそんなんで妬いたりなんかしねーよ」
「新一くんの場合、蘭くんに近付く男どもには妬きそうだけどね。私も蘭くんを可愛がるのはほどほどにしないと、闇討ちに遭いそうだ」
「おじさま、そんな事はないと思いますけど」
「蘭くん、君はまだ、新一の独占欲の強さを知らないのだね」
「父さん、余計な事言ってんじゃねーよ!」
「それにしても、新ちゃんたち、このまま障害無しにラブラブ一直線で最終回まで突っ走っちゃうの?それも何だかつまらないわねえ」
「いやいや、有希子、そう簡単に事は進まないよ。この後もうひとつ、かなり大きな試練が2人を待ち受けているそうだからね」
「え?おじさま、そうなんですか?」
「蘭。心配すんな、何があっても俺がおめーを守るからさ」
「新一・・・」
「おやおや、新一くん、そんな余裕の態度でいいのかね?」
「うっせーよ。で、蘭、次回はどうなるって?」
「夏休み最後のエピソードで、舞台は大阪だって」
「・・・という事は」
「あの2人の登場ね」



(11)「First Love」に戻る。  (13)「難波の連続・・・? (前編)」に続く。