First Love,Eternal Love



byドミ



(18)小さな命



<(注)サンデー未読者には、一部ネタばれあります>



「あ〜あ、試験さえなければ大学も楽しいのになあ」

鈴木園子が伸びをしながら言った。

1月に入り、蘭と園子が通う女子大では、試験期間に突入していた。

文学部――と言っても、一般教養履修中の1回生だと、ある程度は理系科目の単位も取らなければならない。文系の一般教養科目にも、法学などの理論立てた思考が必要になる科目もある。
やはりそれ相応の勉強は必要であった。

「園子ったら・・・高校の時もそう言ってなかった?」

蘭が笑いを含んだ声で園子に突っ込む。

「受験さえ終われば後は楽だって言われてたのによ、や〜っぱ勉強しないといけないなんて・・・まあ、社会人になったらそれはそれで厳しいみたいだし・・・人生楽になる事ってないみたいねぇ」
「園子、何年寄りくさい事を言ってんのよ」

大学に入ってからの友人、山田香からも突込みが入る。

「でもま、とりあえず御飯、御飯」

園子が笑って話題を変える。



午前中の試験が終わり、飲食物持ち込み可で自販機のある談話室で、同級生数人が集まって一緒に昼食を取ろうとしていたのだった。
それぞれに持参した弁当や購買で買ってきたサンドイッチなどを広げ、食べ始める。


「あら?蘭の弁当って・・・ものすごくシンプルじゃん」

大学に入ってからの友人・笠原里美が、蘭の弁当を覗き込んで驚いたような声を上げる。
蘭は、新一の弁当と一緒に自分の分も作るため、普段は品数も多く手の込んだ弁当を持参する。
しかし今日の蘭の弁当は、シンプルと言うより貧相な感じのものであった。

ごく小さい弁当箱に御飯と梅干が一個、チリメンジャコが少々と、若布とキュウリの酢の物。

「ほんとだ。蘭、そんなんで足りるの?空手の練習もあるんでしょ?」

園子も蘭の弁当を覗き込んで言う。

「試験中だから空手の練習もお休みよ。最近ちょっとウェストやば気味だから、ダイエットしようかなあって・・・」
「あ、もしかしてBOOCS Diet(注)ってやつ?朝は水分だけで、昼がおにぎり1個、夜はたっぷり好きなだけ食べるっていう・・・」

香がしたり顔で言った。
(注:BOOCS Diet<ブックスダイエット>Brain Oriented Obesity〔Other diseases, Oneself〕Control System:脳疲労を減少させ自律神経を整えて適正な体重になると言うダイエット法で、九州大学名誉教授・藤野武彦氏が開発した方法。聞きかじりで、山田香が言ったような方法と思っている人が多いが、かなり多くの誤解を含んでいる)

「あ、そうそう、それ」

蘭がちょっと苦笑したような笑顔で答える。

「でも蘭、どこがやせなくちゃいけないのよ?全体的に細身で引き締まってて、けど胸とお尻がボリュームあって形も良いっていう、人が羨む理想的なナイスバディじゃん」

里美が呆れたように言う。

「そうそう、無理にダイエットしたら、せっかくの豊かな胸が減っちゃうよ。・・・最近胸は気のせいか更にボリュームアップしてるみたいだけどさ、他は太ってないんだからそのままで良いじゃん」

別のクラスメート・三宅一世が言った。

「工藤くん、蘭の胸がしぼんだらがっかりするかもよ〜?」

園子がからかうように言う。

「んもう!新一はそんな人じゃないもん!」

蘭が赤くなって園子に抗議した。

「へー、夏休みに出来た蘭の彼氏、工藤君っていうんだ?」

山田香が言った言葉に蘭は真っ赤になった。

「ななななんで夏休みに彼氏が出来たってわかるの?」
「わからいでか。だって蘭、夏休み明けたら、前より一段と無茶苦茶綺麗になってたもん」
「そうよねー、一目瞭然だったよ。それに蘭、いまどき蘭みたいな美人・ナイスバディでまさかって思ってたけど、女子高出身だって言うし、もしかしてその時までバージンだったんじゃない?」
「そうそう、変化が激烈だったからねー」

クラスメートたちが口々に言って、蘭はこれ以上ない程、頭から湯気が出そうな位に耳や首筋まで真っ赤になっていた。

「工藤・・・しんいち・・・?どっかで聞いたことあるような・・・」

ふと三宅一世が思い付いたように言う。

「くどうしんいち?そういえば、確か・・・そうよ!高校生名探偵が確かそんな名前!」
「同姓同名だね・・・って、蘭、まさか、その高校生探偵本人?」

反論出来ないでいる蘭の様子に、同級生たちは蘭の恋人が誰であるかを察してしまう。

「へー、年下なんだー」
「でもいいじゃん、有名人だよ?週刊誌で見た事あるけど、ルックス良いし」
「今まで女性関係がスクープされた事なかったけど、こんな身近に工藤新一の恋人がいたんだあ」

口々に囃し立てられ、蘭の顔色が今度は蒼ざめてくる。

「もうこんな時間だよ。午後の試験の前に勉強しとかなくて良いの?」

園子の言葉に、同級生たちは慌ててバッグからノートやテキストを取り出して見始めた。
蘭がトイレに立ち、園子がそれに付いて行った。



  ☆☆☆



洗面所で手を洗いながら園子が蘭に話しかける。

「蘭、ごめん。迂闊に工藤くんの名前を出して」
「ううん、園子。私もつい『新一』って言っちゃったんだし」
「蘭・・・」
「でもどうしよう・・・これでマスコミにスクープされたりしたら、新一に迷惑かかっちゃう・・・」
「大丈夫よ蘭、あれくらいでマスコミに嗅ぎ付けられたりはしない。大体、あんな有名人で、女と同棲したりしてたら、普通だったらとっくの昔にスクープされてるのに、今までそんな事なかったの、蘭、不思議に思わなかった?」
「え!?」
「私も気になってちょっと調べてみたけど、マスコミ関係には出版社上層部や警察を通じて圧力がかかってるのよ。工藤邸の近辺を記者がうろつけないようになってるし、プライバシーは表に出ても差し障りのない物しか出せないようになってるの」
「そんな事が・・・」
「だから大丈夫。あれ位でスクープになったりしない」
「良かった」

蘭が笑顔になったのを見て、園子はホッとする。
マスコミの餌食になった場合、高校生である新一よりも、年上である蘭の方が世間から叩かれ辛い思いをさせられる立場なのだ。
そういう風には考えず、ただひたすら新一の立場を心配している蘭の事を、園子は気遣わしげに見る。

「ねえ蘭、顔色があまり良くないよ。マジで、ダイエットなんてしない方が良いんじゃない?」
「あ、ううん、ダイエットって言うのは嘘なの。このところ、食欲無くて、こってりした物なんかは受け付けないから」
「え?大丈夫なの!?試験勉強で根を詰めすぎて寝てないんじゃない?それとも・・・ちゃんとお医者様には診てもらった?大変な病気だったりしたら・・・」
「ううん・・・ちゃんと睡眠はとってるし、病気じゃないから心配しないで」
「病気じゃないって、蘭・・・え?蘭、まさか!?」
「あ、園子、もう準備しないと。もうすぐ午後の試験が始まるよ」

蘭がはぐらかすように言い、試験が行われる講義室へと向かったため、園子はその場でのそれ以上の追及を諦め、蘭の後を付いて講義室へと向かった。





  ☆☆☆





「工藤新一!あんた、一体どういうつもりなのよ!?」

待ち合わせた喫茶店で、開口一番、園子にそう怒鳴られて、新一は苦笑する。

「まあそう興奮するなよ。何の話かはわかってっからさ」

園子は不機嫌そうに新一の向かい側の席に座り込む。

「あんたさあ・・・何の話か判ってるって・・・」
「最近の蘭の体の不調の事だろ?」
「だるそうにしてる事多いし、食欲ないし・・・吐き気が来る事はそう多くないみたいだけど・・・」
「今6週目に入ったところ(注)かな?」
(注 妊娠期間〔何週、何ヶ月〕は、妊娠した時点からでなく、妊娠前の最終月経から数える)
「・・・!!って、やっぱり子供なの!?蘭から聞いたの?」
「蘭からはまだはっきりとは・・・でもわからいでか。あんたも知ってるだろ、俺は、法律上ではまだ認められないけど、実質的には蘭の『夫』なんだからな」
「お、お、夫って、あ、あんた・・・」

新一がしれっと言う言葉に園子は赤くなってどもる。

「本当だったら1月7日前後に始まる筈だった月のものがまだ来ない。第一、危険日に避妊をせずにやる事やったんだから、可能性は高いだろうと思っていたけどさ、一発必中だったみてーだな」
「あんたさあ・・・確信犯だったわけね・・・」

園子は脱力したようにテーブルに突っ伏した。

ちょうどその時注文したコーヒーが届いたため、園子は一息入れて気を取り直す。

「判っててやった事なら・・・勿論責任も取るつもりなんでしょうね?」
「今度の俺の誕生日――5月4日に籍を入れる。もっともこれは『仕込む』前から決めてた事で、別に子供の事に関係なくそうするつもりだったけど」
「せめてもうちょっと待てなかったわけ?」
「2人で結婚の約束をした晩に、蘭が望んだから。俺の子供が欲しいって」

園子は暫らく押し黙る。ややあって再び口を開く。

「蘭が・・・まあ判るような気がする。あんたにもしもの事があったら、蘭は一人ぼっちになってしまうものね。あの性格じゃあ、他に男を作って強かに生き延びるなんて無理そうだし。でもあんた、まさか万一の時に蘭に後を追わせない保険なんて考えてんじゃないでしょうね?」
「万一は無い。絶対ない。絶対にあいつを残して逝ったりしない。・・・この前の事であいつが腹くくって俺の子供が欲しいと思うようになったのは確かだと思う。でも俺は、ちゃんと腹の子ごと一生蘭を守って行くんだって決めてんだから」
「やれやれ・・・あんたたちの覚悟はわかったけど・・・でもさあ、あんたまだ来年3月まで高校生でしょ?いくら上からの圧力でマスコミ押さえてても、流石にそうなると世間が放っていてくれなくなるよ」
「蘭にはまだ話してねーけど、考えてる事がある。絶対にあいつを守って見せるから、その点は安心しててくれ」
「まーだ高校生の癖に、大口叩くわねえ」

園子は呆れたように言ったが、確かにここ数ヶ月で新一がぐっと頼もしく大人になったという気はしていた。





  ☆☆☆





夜。工藤邸でのくつろぎタイム。

新一はダッチコーヒーを、蘭はホットレモンを飲んでいた。
新一がダッチコーヒー(水出しコーヒー)にしているのは、コーヒーを淹れる香りで蘭の気分が悪くなるのを防ぐためである。
蘭は最近好きな紅茶もあまり飲まず、ホットレモンやグアバ茶などノンカフェインのものを飲む事が多くなった。

「蘭、体調はどうだ?」
「うん・・・悪くないよ。でも、眠いのと、よく言うように御飯が炊ける匂いが駄目になったのは参ったけどね」

最近、御飯はどうしているかといえば、蘭がいない時間に新一が御飯をまとめて炊いて、冷凍保存しているのであった。副食もこってりしたものは蘭が作れないため、新一が自分で作る事が多い。今は台所に立つのは新一の方が多くなっていた。

「そっか。一段落したら、病院に行こうか?ちゃんと検診受けて、色々注意事項とかも聞いといた方がいいだろ?」

市販の妊娠判定薬を使って、蘭の妊娠がほぼ間違いない事は既に2人で確認していた。

2人が結婚の約束をしたクリスマスイブの晩、「あなたの子供が欲しい」という蘭の求めに応じて新一は避妊せずに蘭を抱いた。

その時に妊娠したのはほぼ間違いがなかった。

「もう少ししたら試験が終わるから、その後行くわ」
「ああ。だけど無理すんなよ。試験落としても長い人生で取り返しがつかねーわけじゃねーんだからよ。もしちょっとでも何かあったら、試験中でもすぐに病院にかかるんだぞ」
「うん・・・わかった。無茶はしないわ」
「あ、病院には俺も一緒に行くからな」
「え?で、でも・・・」
「俺たちの子供の事なんだから、2人で行った方がいいだろ?」
「うん。嬉しい。正直言って、1人で行くのは心細かったの」
「病院は女医さんの居るところにしよっか。その方が蘭も緊張しないで良いだろ?」
「うん。新一、心当たりあるの?」
「ああ、まあな」



  ☆☆☆



蘭の体調が大きく崩れることもなく、幸い風邪を引き込むこともなく、大学の後期試験が終了した。
蘭は新一に連れられ、工藤邸の隣家の主、阿笠博士の運転する車で病院に向かっていた。
運転しているのは勿論阿笠博士で、助手席には阿笠夫人のフサエが座っている。

阿笠博士は科学者であり、発明家。
52歳と、そこまで年寄りというわけでもないのだが、頭頂部はすっかり禿げ上がっている。
後頭部の長めの髪と髭は半白でカールしており、まるで雲の塊のようだ。
顔も体もまん丸で、陽気で、人が良く子供に優しく面倒見が良い。
どうしようもない発明品も多いが、役に立つ優れた発明もたくさんある。
新一は、この阿笠博士から探偵活動に役立つ発明品をたくさん作ってもらっているのだ。

阿笠フサエはデザイナー。
優れたセンスを持ち、銀杏をモチーフにしたデザインで有名だが、自分のブランドを立ち上げてそれが有名になったのは、ここ数年の事である。
50歳位と思われるが、阿笠博士には勿体無い位に美しく上品な婦人である。
日米ハーフのために髪の色が薄く、そのため子供の頃から髪を隠していた。
阿笠博士に子供の頃「綺麗な髪」と言われてからコンプレックスは無くなったが、今でも帽子を愛用しており、それがまた良く似合っている。

蘭は、隣家の工藤家の1人息子・新一を、ずっと我が子の様に可愛がってくれたこの夫婦と、すっかり仲良しになっていた。

「それにしても、新一くん、あの病院に連れて行くと言う事は・・・怪我している様子もないし、蘭くんはもしかして・・・いやあ、若いってのは良い事だのう」

運転しながらニヤニヤと笑って阿笠博士が言う。

「・・・余計な詮索してんじゃねーよ」
「でも羨ましいわ。私たちには残念ながら子供が出来なかったから」

フサエ夫人がさらりと言って、新一と蘭は赤面する。
2人とも、好奇の目で見たり非難したりする様子が全く無い(からかいはあるが)為、蘭は気まずい思いをせずに済み、阿笠夫妻の暖かい人柄を感じ取って胸がじんわりと温かくなる。



  ☆☆☆



連れて行かれた病院は、入り口が外科と産婦人科に分かれていた。
一行は、産婦人科の方に入り、受付を済ませて受付前の待合室で待つ。

「毛利蘭さん、診察室前の待合室でお待ち下さい」

呼ばれて、蘭1人中の方に入って行った。



診察室前の小ぢんまりした待合室のソファーに座り、緊張のあまり蘭は大きく深呼吸をした。

「こんにちは。見たとこお若いみたいだし、もしかして初めてなの?大丈夫よ」

隣に座っていた少しお腹が目立ち始めている婦人が、蘭に声を掛けて来る。
見たところ20代後半くらいか、目が大きく、ショートボブの前髪を上げてカチューシャで止めた、綺麗で可愛らしい雰囲気の女性だ。

「あ、こ、こんにちは」
「ここは私の同級生が夫婦で――旦那さんが外科、奥さんが産婦人科で、協力し合ってやってる病院で、腕は確かだし、人柄も優しい人達だから、安心してて良いわ。あ、私、小嶋歩美って言うの。夫もここの夫婦と同じく私の同級生だったのよ」
「あ、私は毛利蘭って言います。その・・・結婚はまだなんですけど」
「え?あなたの彼は、この事は・・・?」
「あ、知ってます。ちゃんと、結婚の約束はしてるんです。今日もここに一緒に来てくれてるし」
「良かった、優しくて素敵な彼なのね」

歩美は心から安心したようににっこりと笑った。
緊張していた蘭の心がほぐれていく。



歩美は、小学生だった頃、4人つるんで「少年探偵団」を作って冒険していた事を懐かしそうに話した。

「今は推理作家として有名になっている人の、探偵のお手伝いをしたりしてね。今になって考えたら、邪魔してた時も多いと思うけど、ちゃんと役立ってた事もあったのよ」
「素敵ですね〜、実は私の彼、探偵なんですよ」
「まあ、そうだったの、奇遇ねえ」

2人の話は弾む。

「今日は、隣の家の阿笠っていう発明家夫婦に車で連れて来てもらってるんです」
「阿笠?」
「ええ、変わったお名前でしょ?」
「その人って・・・、ここの産婦人科をしてる女医さんのご両親だわ」
「え?」

確か阿笠夫婦には子供が居なかった筈、と蘭は思ったが、それを訊くより前に、歩美が診察室に呼ばれた。



  ☆☆☆



歩美が出てくると、今度は蘭が入れ違いで呼ばれた。
歩美は、

「頑張ってね。また会いましょう」

とウィンクして去って行った。



診察室に入って椅子に座る。
向かい側に腰掛けているのは、歩美が同級生と言っただけあって、まだ若い、そして美しい女医だった。

綺麗な二重で切れ長の理知的な瞳。
ボブに切り揃えられた茶色の髪は、緩くカールしている。
胸のネームプレートには「円谷志保」とあった。

『あ、そっか、結婚なさっているから名前は変わっているのか。阿笠って珍しい名前だけど、あの阿笠夫妻には子供は出来てないって言うし、きっと同姓の別の方よね』

「毛利蘭さん・・・初めての方ね。・・・まだ独身の方のようだけど」

女医はカルテに目を通しながら耳に心地良いアルトの声で言った。

「あら?この住所・・・私の実家の隣だわ」
「え?じゃあやっぱり先生は、阿笠博士の?」
「あら・・・私の両親を知ってるのね」
「え?」

肝心の診察より先に、別の会話が繰り広げられる。
そして蘭は、円谷志保医師が、阿笠夫妻の養女だった事を知る。

「孤児になった私を、父親とちょっとした知り合いだったからってだけで引き取って育ててくれた・・・実の娘同様可愛がってくれたわ。そのおかげで今の私があるわけだし、本当に阿笠の両親には頭が上がらないわ」
「本当に優しいお人柄の2人ですよね」
「で、そのお隣さんと言うことは・・・毛利さん、あなたのお相手はひょっとして新一くん?って、ちょっと待って、彼確かまだ高校生よね」
「え、ええ・・・でも、あの人が18歳になったら結婚する約束をしてるんです」
「まあ、彼の人柄から言って、女を弄ぶタイプではないと思うから、約束があるんなら大丈夫と思うけど・・・でも、もっと抜け目のない男だと思ってたのに、こらえ性のない」

志保が苦笑する。
その遠慮のない物言いに、蘭は何とも言えない気持ちになる。
言い方が無茶苦茶だが、志保なりに新一の人柄を認めているのは間違いなさそうだ。



一通り問診(別の話の方がはっきり言って長かったが)の後、蘭は別室に通され、内診台に上がる。
女同士とは言え、志保の事を多少は個人的に知ってしまったため、内診されるというのはかなり恥ずかしいが、一方安心も出来る。

『ここに連れて来て貰って良かった。男性のお医者さんだったら・・・。仕事なんだから仕方ないし全然いやらしい気持ちなんかじゃ無いって解ってるけど、新一以外の男の人に見られるのってやっぱり嫌だよ〜』

内診台に上った蘭は、新一の事、子供の事、阿笠夫妻の優しさや今日知り合ったばかりの志保や歩美の優しい人柄を考えながら、恥ずかしさに耐えた。

「胎胞が形成されてるわ。やっぱり妊娠してるのは間違いないみたいね」

志保がエコーで診察しながら言った。
紛れもなく、新一の命を受け継いだ小さな命が、自分の中に宿っている。
蘭の心が歓喜に包まれる。

「最終月経から言って今は10週目かしら?見た所の胎胞の大きさとも合うようだし、ほぼ間違いないとは思うけど・・・2週間後にまた診察に来て。その時に母子手帳も渡すからね」





告げられた出産予定日は、9月16日。

『何とか夏休み前までは誤魔化して、それから休学届けを出して、・・・この先、どういう風に過ごしていくか、新一やおば様たちともよく相談しないと』





そして蘭は、新一が今後どうするつもりでいるかを聞いて、驚くことになる。







(19)に続く



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(18)の後書座談会



志保「まさか私たちがこういった形でこの話に登場する事になるとは・・・」
フサエ「私は嬉しいですわ。博士さんのお嫁さんとして登場するなんて・・・」
博士「フサエさんvvワシも感激じゃ」(フサエと阿笠博士、2人いちゃいちゃしながら去って行く)
光彦「やれやれ・・・フサエさんの事は、サンデー未読の人には何が何やらわかりませんよね。でも、僕も今回このような形で出演出来て嬉しいです」
元太「おい光彦、俺たちはこの話には出てねーだろ」
光彦「元太くん・・・直接には出ていませんが、ちゃんと存在はしてるんですよ、わかりませんか?」
元太「????」
歩美「わ〜〜ん、何よこの話、私、コナンくんのお嫁さんになるはずなのに〜〜〜!!」
元太「歩美、もしかしてあの小嶋歩美っておばさん、おめーの事なのか?じゃ、じゃ、じゃあ、この話では、歩美と俺とは兄弟になるのかよ?」
歩美「知らないっ!!元太くんの馬鹿〜〜〜〜〜っ!!!」(泣いて走り去る)
元太「な、何だ何だ?俺何か、悪い事言ったのかよ?歩美、泣くなよ〜〜!!」(焦りながら歩美を追って走り去る)
志保「やれやれ、救いようがないわね・・・」
光彦「あ、あ、あ、あの、志保さん・・・」(真っ赤になってもじもじしている)
志保「どうせパラレルなんだから、全く関係ないと割り切って気にしなければいいのに。大体、『志保』はまだ少年探偵団とは出会っていないんだし、そこからして違うわよ」
光彦「はあ・・・そうですね・・・」(ガックリと項垂れる)

志保「ところで、話は違うけど、文中に出てくるBOOCS Dietというのは本当にあるわ」
光彦「確かドミさんが、2年間で10kg以上の減量に成功したという・・・」
志保「そう。すごい話よね・・・」
光彦「でも、2年もかけているんだから、そんな大した事では・・・」
志保「痩せてもなお標準体重よりかなり重いって話じゃない?それだけたくさんの脂肪をよく体に付けていられたわね。感心するわ」
光彦「・・・・・・(志保さん、命知らずな)。あ、ドミさんから伝言です。興味ある方は御自分で本屋か図書館で調べるように、との事です」



志保「それにしても、蘭さんご懐妊なんて・・・ドミさん、この話の始末、一体どうつけるつもりなのかしら?」
光彦「そうですね、僕もビックリしました。今回は別の方が後書対談に予定されていたけど、今回のお話にあまりに怒りまくっている為に呼ぶに呼べなかったとドミさんがおっしゃってましたよ」
志保「出産予定日にまだ高校生の工藤くん。さてこの事態をどう切り抜けるつもりなのか、お手並み拝見させていただくわ」


(17)「聖夜の約束」に戻る。  (19)「お菓子教室の事件」に続く。