銀盤の恋人たち



byドミ



(16)果たされた、遠い約束



今日の、フィギュアスケートペアのフリー競技は。

新一と蘭双方の両親が。
そして、園子、青子、和葉、志保、平次、快斗、探、紅子、真が。
それぞれ、応援に駆け付けている。

いつも明るくはじけている有希子も。
いつも冷静で物事に動じない英理も。
祈るような表情と仕草で、リンクの2人を見詰めている。

遠い日本では、帝丹高校の生徒達が、1〜2学年や、3学年でも、帝丹大や他の大学に推薦で既に進学が決まった者達が、高校の体育館に集まって、テレビ画面に見入っていた。
時差がある為、夜中であるが、「今日だけは特別」と、学校側が許可しての措置だった。
教員達も、集まって来ている。

受験勉強真っ最中の者達も、今だけは自宅のテレビに見入っていた。


「本日のペアフリー競技の、最後になります!毛利蘭工藤新一ペア!」
「毛利選手は、ラメをあしらったワインレッドの衣装」
「彼女は、赤が良く似合いますねえ。裾のラインが綺麗で、美しく翻ります」
「一方、工藤選手は、濃い青のスーツ風衣装に、赤い蝶ネクタイ姿」
「どちらかと言えばダンスの衣装を彷彿とさせる、紳士淑女スタイルですね」

会場は大歓声に包まれた。
日本からの応援の者達も多いが、他国のファンも既についている2人である。
大歓声と拍手の中登場した2人だが、2人が位置に着くと、一瞬、会場が静まり返る。

「曲は、大野克夫バンドメドレー、ですね」
「まずは、テンポが速い『ぼくがいる』、緊迫した雰囲気の音楽に乗って、今、スタート!」


どうか、泣かないで。
ぼくがそばにいるから。

新一は、蘭と初めて出会った時、父母の不仲に寂しそうにしていた蘭を笑顔にしたかった。


「最初のソロスピンは、コンビネーションスピンで!フライングシットスピンから入り、キャメルスピン、レイバックスピンからドーナツスピン、変幻自在に移り変わります!」
「軸足が全くぶれない。2人とも、凄い足腰ですね〜」
「そして何よりも。最初のフライングの時から、回り方までタイミングが全く一緒。ポーズも殆ど一緒です!」
「ショートプログラムの時も感じましたが、ソロスピンでのずれという弱点を、完全に克服して来ましたね!」
「曲は、『いい人に逢えたね』へと移り変わります。速いテンポに乗って、スパイラルステップシークエンス!」


あの人に会えて良かった。
新一に会えて、良かった。

蘭の心に、ほのかに灯った恋心が、ずっと蘭を支え続けて来た。


「スパイラルも、2人のポーズが綺麗にそろっていますね」
「手の形も足をあげる角度も、完璧です」
「それだけじゃない。2人とも、足を真っ直ぐ真後ろにあげている。これは、とてつもない筋力を必要とするので、それが出来るフィギュアスケーターは本当に少ないんです。かつての私も、少し斜めに出していましたから」
「えっ!?新出さんでも、なんですか?」
「今日の審査員が、そこまできちんと見て評価するなら、2人のこのポーズだけでも、かなりの追加点になるでしょうね。氷上には、2人のサーベータインのラインが綺麗に描かれています」
「次の曲は『瞳を閉じれば』、テンポは速いですが優しい感じの曲です」


寂しい、声を聞きたい。
目を閉じれば、新一の笑顔が浮かんで、蘭の心を温めてくれた。


「工藤選手が毛利選手の背後に回って手を取り、そのまま、お得意のデススパイラルへ!」
「工藤選手の膝もよく曲がってますし、毛利選手は本当に氷につこうかというギリギリのところでポーズをとっています」
「この2人のデススパイラルは、本当に芸術品ですよ」
「技術的にも素晴らしいです」
「デススパイラルから引き起こすと同時に、そのまま毛利選手がアクセルジャンプする形で、リフト!これは、難しい入り方で加点対象です!」
「毛利選手が片足を高く上げ、ポーズをとります。とても美しいですね。技と技の間の流れるような動きと、ポーズの美しさは、芸術点にも反映されるでしょう」
「曲は『想い出たち』に移り変わります」


過ぎ去った懐かしい日々、小さな蘭と小さな新一。
あの頃からずっと、新一は蘭を、蘭は新一を、想って来た。
大切な想い出を抱えて、2人は未来に向かって行く。


「・・・そして、コンビネーションジャンプ!」
「トリプルルッツ・・・トリプルループ!?ですか?」
「女子の場合、シングルの選手でも難しい、トリプルトリプルで来ました!しかも成功!タイミングもピッタリです!」
「これは凄い!拍手が起きました!」

「ツイストは、トリプルですね。これも、2人お得意の種目ですが・・・」
「高い!そして今回は、サイドでキャッチするという難しい技!成功です!」
「次は、1つ目のスロージャンプ・・・身長差がない2人ですが、工藤選手の強靭な力と毛利選手の素晴らしいバランスで、飛距離高さともに素晴らしいスロージャンプを見せてくれます」
「ハの字型の踏切、サルコウですね・・・3回転・・・?いや、4回転しましたか?」
「クワドラブルサルコウのスロージャンプです!しかも成功!これは凄い!」
「驚きました!一体この2人は、どれだけの隠し玉を持っているんでしょうか!?」

会場からも大歓声が湧きおこる。

ペアならではの技も、それぞれが別々に動くソロジャンプやソロスピンも、高水準の技を次々と決めていく。
殆どノーミスであり、いくつもの加点要素を付け加え、しかも、2人のタイミングはピッタリ合って、一体感がある。

「次はゆったりとした曲『あなたを感じてる』、大人っぽい洒落た雰囲気のこの曲は、傍にいない男性を想う女性の愛のテーマだそうですね」


離れていても、ずっと心は繋がっていた。
そして今は、誰よりも何よりも大切な大切な、存在。
どんな運命が待ち受けていても、2人の愛は決して揺るがない。


「曲に乗ってペアスピン。スピードがありながら、お互いの絡み合う視線が、とてもロマンチックな雰囲気を醸し出します」

「メドレー最後の曲は、やはりアップテンポの、『キミがいれば』、演技も最終盤にかかります」


お互いにとって、相手が太陽で自分が月。
新一は蘭がいてこそ、蘭は新一がいてこそ、それぞれ輝く。
それが、2人のペアスケーティング。


会場はしんと静まり返り。
アナウンサーすらも、言葉を途切れさせる。

「佐藤さん?」
「あ・・・失礼しました!次のソロジャンプは、アクセルジャンプで・・・おお、何と!これが、トリプルアクセルです!」
「女子でトリプルアクセルが跳べる選手は、まだまだ限られています!ましてや、ペアでのソロジャンプがトリプルアクセルなのは、前代未聞!」
「まして体力が落ちる後半でのジャンプは、評価が高いですよ!」
「そして、リフト。スターリフトです」
「後半のリフトは加点対象・・・そして、毛利選手が頭から半回転しながら降りて来る、難しい降り方、これも加点対象!」
「そして、最後のコンビネーションスピン・・・全くスピードが衰える事なく、ポーズが次々と変わって行きます」
「途中で回転方向を変える・・・これも、加点対象となる難しい技!」
「今、フィニッシュ!4分30秒を、存分に、滑り切りました!」
「観客総立ちの、スタンディングオベーション!」
「素晴らしい・・・本当に素晴らしい・・・!」


新一と蘭は、息を整えながら、観客に向かってお辞儀をする。
更に、大きな拍手が沸き起こった。

有希子と英理が、抱きあって涙を流しながら、2人へ笑顔を向けている。


ジョディとアンドレのペアも。
キリカとレオンも。
そして、レナとキャスバルも。

得点が出るのを待つまでもなく、完敗を確信し、2人に拍手を送っていた。


そして。
新採点方式での、ペア史上最高得点が並んでいた。
2位以下に大差をつけての、逆転優勝。

蘭は、呆然としながら、言った。

「優勝・・・金メダル?わたし達が・・・?」
「ああ。そうだよ。オリンピックで、金メダルを取ったんだ」

「あなた達。本当に、最高の演技だったわよ。素晴らしかった」
「フサエコーチ・・・」
「これからは、追われる立場ね」
「・・・追われる立場・・・」

勿論、2人は、これまで最大限、努力はして来たけれど。
こんなに早く、頂点に、追われる立場に、立つ事になろうとは。
この結果は、本当に奇跡のように思える。


優勝した2人に、インタビューが行われる。


「持てる技と力の全てを出しきろうと、2人で決めて臨みました。正直、全部成功する自信はなかったですけど、安全策を取っていては絶対に勝てないと思いましたので」
「という事は、勝ちに行くつもり、でしたか?」
「正直、メダルは、狙ってましたね。ですが。これだけの結果を出せたのは、応援して下さった皆さんのお陰だと思っています。本当に、ありがとうございました」

新一は殊勝に頭を下げる。
若いが、本音と建前の使い分けは出来る男なのである。
いや、新一の感謝の言葉は、必ずしも、建前だけでもない。
色々な人達に本当に支えられ助けられた事は、さすがに弁えていた。


オリンピックという場で、表彰台の真ん中に立って。
月桂樹の冠と金メダルをかけられて、蘭は本当に夢見心地だった。



   ☆☆☆



新一と蘭は、エキシビジョンの出演が確定した事もあり、試合終了後も現地に留まっていた。
3月には世界選手権も控えているし、調整は続けながら、他の選手達の応援に回る。

ただ、2人は、選手村での宿泊はせず。
有希子が2人への「ご褒美」に借りているコテージに、ちゃっかり泊まり込んで、再び蜜月を満喫していた。


ペアに続いて行われたアイスダンス競技では、小泉紅子白馬探カップルが、日本人初のオリンピックメダル、それも金をもたらして、またもや日本中が湧いた。

男子シングルでは、京極真選手が、3種類の4回転ジャンプを成功させ。
切れとスピードのあるスピン、素晴らしい筋力を活かした安定したポーズのスパイラル、神技のステップなど、一段と磨きが掛かった技を駆使し。
力強くも美しい演技を見せ、ライバルのイーグルを始め、他の選手達を完全に抑えて、これまた優勝した。


そして。


「今季冬季オリンピックでは、日本勢が大活躍!」
「スピードスケートでは、服部平次選手が4冠を成し遂げましたしね」
「フィギュアスケートでは、ペア・アイスダンス・男子シングル、全て日本が金メダルと、今迄にない快挙でした!そして、女子シングルは勿論、3選手とも、メダルが充分に期待出来ます!」
「ただ、ライバルも強力です。持てる力の全てを出して、頑張って欲しいものです」


女子シングルのショートプログラムが始まった。
既に、自分達の競技が終わっている、新一と蘭、快斗、平次、真、探と紅子、そしてそれぞれの肉親達が、息をつめて見守る。


「中森選手、曲は『千の風になって』です。大切な人の、亡きお父上への想いを込めての、選曲だとか」
「ふんわりと、重力を感じさせない妖精のような演技は、大切な人の魂がいつまでも見守ってくれているという、曲のイメージをとてもよく表していますね」
「以前は、年よりあどけない印象の中森選手でしたが、今回は、何となく、大人っぽさが垣間見えるようになりました」
「完全に復活した妖精パワーに、大人の女性らしさと、磨きが掛かった技が加わりました!これは、高得点が期待出来ます!」


「遠山選手、曲は『Again』、Gメン75のテーマだったこの曲は、警察官としてご活躍中の、お父上への想いを込めて選んだそうですよ」
「以前は、豪快という感じだった、遠山選手の演技ですが・・・力強さとスピード感はそのままに、洗練されて来ました」
「スピンのポーズには、女性らしい柔らかさが加わっていますねえ」
「技のキレとスピードに、柔らかさと女性らしさが加わり、素晴らしいです!」


「阿笠選手が選んだ曲は、『Chariots of Fire』、炎のランナーのテーマ曲です」
「以前は、優雅だけれど正確無比で冷たい印象の演技でしたが・・・曲の所為か、何らかの変化があったのか・・・」
「そうですね。内に熱いものを秘めた感じの演技に、変わりましたね」
「スパイラル・・・美しいですねえ・・・」


青子・和葉・志保は、それぞれの持ち味の良さを残しながら、新たな色合いを付け加え、技の進歩と相まって、今迄にない高得点を挙げた。
しかし、さすがに、強豪選手が集まるオリンピック。
ショートプログラム1位は、アン・クラリス・サブリナ。
2位は、クリス・ヴィンヤード。
3位は、ハツネ・シルバー・フォックス。

日本勢は、青子和葉志保の順で、456位につけた。


フリーで巻き返せない点数差ではないが、上位につけた3人とも、フリーも得意とするメンバーだ。
状況はかなり厳しいかと思われたが、3人とも、持てる力を発揮出来た自信に満ちた表情をしていた。


そして、翌日。
女子シングルフリー競技。


「さすがです、アン・サブリナ選手、ふわりとした妖精のような可憐な、クワドラブルルッツジャンプを、見事に決めました!」
「お姫様らしく可憐で上品で、それでいて素晴らしい技術力の演技!」

アンの演技を、日本の3人は、見ていなかった。
今は、自分の演技に集中するだけ。
3人とも、そう思っていた。

和葉と志保は、クワドラブルはおろか、トリプルアクセルも跳べないが。
フィギュアスケートは、ジャンプだけではない。

もっとも、アンは、ジャンプ以外の演技も、水準をはるかに超えた技術を持っている。
勝ち目はなさそうだけれど、それでも、自分の精一杯を尽くすしか、ないのだ。


アン・クラリス・サブリナも。
ハツネ・シルバー・フォックスも。
クリス・ヴィンヤードも。

それぞれ、殆どミスのない素晴らしい演技をして、高得点をたたき出す。


それでも、自分の精一杯を尽くす他に、道はない。


「スノーレオパードの異名を持つ、遠山和葉選手。今日は、豹と同じ猫科でも、家猫のチンチラゴールデンをイメージした色合いの、猫耳とふさふさした尻尾をつけた衣装で登場です!」
「曲は、ミュージカル『キャッツ』の『Memory』!」
「しなやかで、それでいて力強い演技!ジャンプも高い!まさしく、猫のよう」
「遠山先週お得意のスピンは、ぶれがなく力強く、高速回転が特徴ですが・・・」
「荒い所が全く抜け、変幻自在のポーズの変化にもスピードが衰えません、いやはや、素晴らしいです」
「そして、演技後半に持って来たコンビネーションジャンプは、トリプルループ・トリプルトゥループの、3回転3回転!これは、かなり高得点!」
「いや・・・これは、ひょっとしたら、ひょっとしますよ!」

和葉は、スタンディングオベーションを受け。今迄にない高得点を出し、アンを抑えて暫定トップに躍り出た。
会場が大きく沸く。


「クールビューティ、阿笠志保選手。曲は、『アメイジンググレイス』」
「今迄、他を寄せ付けない空気を纏っていた阿笠選手ですが・・・変わりましたねえ」
「指先まで神経が通った、きめ細かな演技はそのままに。甘さと柔らかさが加わりました」
「彼女のスパイラルは、他の追随を許しません。本当に素晴らしい」
「綺麗ですねえ・・・」
「トリプルトゥループ・ダブルループのコンビネーションジャンプ!高さはないですが、確実にきっちりと回転して綺麗に着地します」
「綺麗にラインを描くステップ、これも高水準です!」

志保も今迄にない高得点をはじき出す。
アン・ハツネ・クリスを抑えたが、和葉には及ばず、暫定2位となった。
この結果に、会場は大きくどよめく。


「すごい・・・すごいですよ・・・既に、日本で金銀のメダルを取る事が確定しました!」
「しかも、最後に滑るのは、日本人女子シングル選手では、メダル最有力候補の、中森青子選手です!」
「その中森選手が登場!薔薇の精をイメージした、淡い薔薇色のチュチュ風衣装で、髪にも薔薇の飾りをあしらっています。曲は、『Rose』!」


青子の演技が始まると。
会場は一瞬、静まり返った。

音楽と、かすかなエッジの音だけが、会場に響く。


愛は、奪うものではなく傷付けるものではなく。
ただ、自分を犠牲にするものでもなく。
慈しみ、与え、優しさに溢れたもの。
絶望的に、氷に閉ざされているように見える心の中に、愛の種は眠っていて、暖かい光を受けて花開く。

青子は、快斗への想いを胸に、滑った。


青子が演じる妖精は、冷たく蒼い人間離れした氷の妖精ではなく、愛と慈しみを知り優しさに満ちた花の妖精。


スパイラルで滑って行く様は、可憐で、まるで空を舞う妖精そのもののよう。
ふんわりとした優しいイメージの演技は、全て、群を抜いた技術力に裏打ちされている。


基本的に、アン・サブリナと同じタイプの演技をする青子だが。
アンの可憐さが育ちの良さと上品さを感じるのに対して、青子の方は、内に深い愛と強さを秘めた可憐さだった。


羽が生えているかのように、重力がないかのように、ふうわりと、舞い上がる。
青子が、殆ど音も立てずに、着氷した時、一瞬の沈黙の後、大歓声が起きた。

「・・・く・・・クワドラブルループ・トリプルループのコンビネーションジャンプ!これは、前代未聞!」
「男子でも、聞いた事ないです!」


ジャンプが全てではない。
と言っても、青子は他の演技も今迄にない高水準であったから。

勝敗が見えたと言っても、過言ではなかった。


フィギュアスケート全ての種目で、日本人選手が金メダルを独占。
女子シングルに至っては、表彰台独占という奇跡が、起こったのだった。




   ☆☆☆




女子シングルの試合が終わった次の日。

フィギュアスケート日本人選手団全員が、揃って、日本の記者団から、取材を受けた。

それぞれに、記者の質問に応じて、答えていく。
そして、マイクは、日本人ペアとしては初の偉業を成し遂げた2人へと向けられた。

「お2人、ペア結成2年にして、頂点を極められた訳ですが、今後の展望は?」

記者の質問に、新一は、爆弾発言を落とした。

「あー、その事ですが。毛利蘭工藤新一ペアは、今季で最後です」

その場は一瞬、静まり返る。
そして、ざわめきが走った。

「な・・・今後は、それぞれシングルで活動されるとか・・・他の人とペアを組むとかですか?」
「まさか、金メダルを取ったので、その若さで、さっさと引退してしまうとか?」

記者達がそれぞれ矢継ぎ早に質問した。

「あ、いやその・・・そういう事ではなくて・・・来季からは・・・工藤蘭工藤新一ペアになると、いう事なんですが」


もう一度。
記者達はしんと静まり返り。
その後、叫び声が上がった。

実況中継の記者会見を見ている者達も、あちこちで叫び声をあげていた。


「そ、それは・・・結婚なさるという事ですか?」
「はい。高校卒業と同時に」
「お2人は、未成年でしたよね?」
「日本での成人は、20歳ですから、日本の基準では未成年です。結婚するには、両親の了解が必要です。ですから勿論、双方の両親了解の元に、決まった話です」

「おめでとうございます!結婚記念に金メダルとは、素晴らしい門出ですね!」


何度もフラッシュがたかれた。

結婚するには若い2人。
けれど、銀盤上での2人を見た者達は、その絆の深さも感じ取っている為、誰も無謀だとか若過ぎるとか感じる事はなかった。


「僕達は、これからも、続けられる限り、ペアを続けて行きます。それでもいずれ、体力の限界を感じて、引退する時があると思いますが・・・」

そこで、新一は、蘭の手を取って言った。

「人生という名の銀盤の上を、ずっと2人、手を取り合って行きます!」


優勝記者会見が、同時に、婚約発表記者会見となり、大きな拍手が湧いた。
日本全国あちこちで、テレビ観賞をしていた者達からも、歓声と拍手が沸き起こっていた。



蘭は、突然、幼い日の「約束」を、思い出していた。


『約束だからね、大人になっても、ずうっとずうっと一緒にすべろうね』
『ああ、約束。忘れるなよ』


あれは、文字通り、現実の氷の上をずっと一緒に滑るという意味ではなく。
人生というリンクを、共に手を取り合って進んで行くという意味だったのだと、今更ながらに気付いていた。

幼い2人は、それぞれに、その意味がわかっていた訳ではないけれども。
生涯を共にする事を、誓っていたのである。



そして。
その誓いが、今こそ、果たされるのだ。


蘭は万感の思いを込めて、新一の手を握り返した。



(エピローグ)に続く


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銀盤の恋人たち(16)後書き


今迄、誤字脱字あっても、敢えて修正かけてないですが。
今回、今更のとても重大なミスを、発見してしまいました。

ペアの場合、女子男子の順で表記されるんですよね。なのに、ウッカリずっと、男子女子の順で表記してました、私。

新蘭のフリー競技で使われる曲は、全て、名探偵コナンアニメのバックミュージックとして使われるもの。
コナン好きでアニメを見ている方なら、聞き覚えがある曲が殆どでしょう。
ここに使われたものは全部、歌詞がついています。
曲が変わる毎の、2人の独白みたいなものは、歌詞を反映していますが、歌詞そのままではないです。

一応、日本選手全員の、曲を決めていたんですが。
白馬っちと紅子様、まこっちの曲は、紹介出来なくて、ごめーん。
色々と、都合が・・・。(一番の理由は、アイスダンスがよう分からんという事ですが)



幼い頃の約束が、ようやく果たされる2人。
いやー、長かったなあ(しみじみ)。


次回、最終回です。


(15)「決戦」に戻る。  「エピローグ」に続く。