Happy Halloween 久遠の一族番外編



byドミ



第2話 「どっちも欲しい!」 <快斗と青子>



「快斗?お手紙?」
「ああ。母さんからだ。見るか?」
「良いの?青子が見ても?」
「ああ。青子の事でもあるからな」

快斗が手に持っている手紙を、青子は横から覗き込む。

『快斗、お元気ですか?
と聞くのも、野暮かしら。だって、今の快斗は、病気には縁がなさそうだしね。
先日、中森さんとお話しました。
快斗と青子ちゃんはもう、いずれ、戸籍からは離れた存在になって行くから、あまり意味がないだろうと思うけれど。
私達のせめてもの気持ちとして、青子ちゃんを快斗のお嫁さんとして入籍する手続きを、しました』

「え……?」

青子は驚いて顔を上げた。

帝丹国では、成人は18歳、結婚出来る年齢は男女共に16歳。戸籍上共に17歳の2人は、正式な結婚が可能なのである。
とは言え、既に人の理を離れた2人、青子は16歳で、快斗は17歳で、それぞれの時は止まってしまっているが。

『青子ちゃんの生みのご両親から、結婚式の招待状を頂きました。二人の晴れ姿を楽しみにしています。この先も時々は、遊びに来てちょうだいね 千影』

「小母様……」

青子は、涙を流した。

新一は、蘭を愛しながらも、呪われた一族に迎え入れる事を、ずっと逡巡していて。
仲間にした時は、蘭が瀕死の重傷を負っていて、それ以外に助ける方法がなかったと聞く。

けれど、快斗は、そういう事情もなく、それでも青子と一緒に生きて行きたいと、自ら一族に加わった。

快斗の母親・千影は、夫に早くに先立たれ、今は1人息子の快斗も、人間としての存在ではなくなってしまったのである。
青子は、1人残された千影の事を思うと、苦しくてならない。
このような愛溢れる手紙を貰って、申し訳なくも嬉しかった。

新一も快斗も、詳しい経緯を話してくれようとはしないが、快斗は、新一が仲間に加えた訳でもなく、一族の真祖と同等の存在であると言う。

「それにしても、結婚式だと?あの狸親父、オレに無断で勝手に決めやがって!」
「えっ?快斗、青子と結婚式するの、嫌だったの?」

青子が目に涙を溜めて言ったので、快斗は慌てた。

「べ、別に嫌じゃねえよ。青子の花嫁仮装、オレも楽しみだし」
「仮装!?悪かったわね!」
「いや、問題はそこじゃなくて!オレ達の結婚式なのに、勝手に仕組まれた方の身にもなってみろ!」
「え……?快斗は、新一パパと蘭ママから、何も聞いてなかったの?」
「教えてくれるワケがねえだろうが、あの狸親父達が!」
「それは……きっと、サプライズで喜ばせようと思っての事だよ」

快斗は、「そんな可愛い話なもんか」と言い募ろうとして……青子の顔を見て、止めた。
青子にとって新一と蘭は産みの両親、青子の「夫」である自分が悪口を言うのは、青子には辛い事だろう。

『青子の為だ、我慢、我慢』

「新一パパと蘭ママは、一族の人達に、サプライズで結婚式をして貰って、とても嬉しかったって」
「そ、そうか……」

あの2人にも、そういう時期があったのかと、快斗は驚いた。
かなり昔の事であるのは、間違いない。

「新一パパのご両親は、とっくに亡くなっていたけど。蘭ママのご両親には、花嫁姿を見て貰ったんですって。小母様とお父さんは、きっと、すごく喜んでくれるって思う」
「ああ。そうだな……」

まだ実年齢と見た目年齢が変わらない快斗は、なかなか素直に言う事も出来ないが。
快斗とて、青子の花嫁姿が楽しみなのは、事実であるし。
娘の恋人である快斗に対しては、いつも意地悪な新一であるが、青子と快斗の為に、青子の育ての親の為に、快斗の親の為に、心を尽くしてくれたのは、間違いないだろう。

「もしかして。二人が街に出かけたのは、結婚式の準備の為だったのか?」
「うん、そうだよ。新一パパと蘭ママは、狩をする必要はないけど。色々と必要なものを手に入れる為には、やっぱり、時々、街に出かけないとね」

人の血を糧とするヴァンパイア。
だが、信頼し合うカップルは、性行為と共に血の交流をする事で、お互いに、必要な生気の大半を得る事が出来るようになる。

新一と蘭も、そして今は、快斗と青子も。
血の交流を行えるので、後は赤い薔薇の生気で補う位で、狩の必要は殆どない。

「ねえねえ、快斗、それよりも。今日が何の日か、分かってる?」
「あ?そう言えば……この家の玄関にも、カボチャのランタンが吊るしてあったなあ」

新一と蘭が、手元で育てられなかった娘の為に、今、季節行事をささやかに祝っている事を、二人はまだ知らない。

「んじゃ。青子、Trick and treat!」
「え?and?orでしょ?」
「いや。andで良いんだよ。だってオレ、お菓子も欲しいし、悪戯もしたい」
「な。何ですってえ!?欲張り!!」
「オレ、甘いもん、大好きだし」
「もう、快斗には、食べ物なんか必要ないクセに〜!」

青子は、文句を言いながら、快斗にクッキーを渡そうとした。
しかし、快斗はそれを受け取らず、青子をひょいと抱え上げる。

「貰うよ。オレにとって一番甘くて美味いお菓子」
「え……?え……!?」
「そんでもって、イタズラもしちゃう♪」
「な、なになに、バ快斗、意味が分かんない!」

青子の抗議をものともせず、快斗はそのまま寝室へと青子を運んで行く。
青子は、寝台の上に降ろされ、その上に快斗がのしかかる。

既に「夫婦」である二人、青子も別に嫌な訳ではないが、強引な快斗の行動に抗議の声を上げようとして、快斗の切なそうな表情に目を見開いた。

「……もう、離さないから」
「快斗?」
「ぜってー、離さねえから!」
「うん……」

人間としての将来より、青子を選んでくれた快斗の言葉に、青子はそれ以上逆らおうとはしなかった。

「Trick and treat……」
「か、快斗……」

ヴァンパイアの血に目覚めた青子は、もう、顔を赤らめる事も出来ないが。
潤んだ瞳で、頷いた。



ハロウィンは、元々、収穫への感謝の祭り。
そして、魔を祓う筈のものでも、あるのだが。

もはや神への信仰を持たず、ヴァンパイアという魔物である筈の四人が、今宵、ささやかに愛のお祭りをしても、バチは当たるまい。




Happy Halloween!



第二話・了





第1話に戻る。  第3話に続く。