re-start第Ⅰ部　Present time（８）写真

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by　ドミ

第Ⅰ部　Present time（８）写真

クリスマスもお正月も、バレンタインデーも、ホワイトデーも。
わたしは新一と過ごした。

お正月の初詣は、２人きりではなく、お父さんお母さんや、園子達と一緒だったけれど。
賑やかに皆と一緒も楽しかったし、新一と２人だけで過ごすのも楽しかった。

クリスマスにはプレゼントを贈り合って。
バレンタインデーには、手作りチョコを贈って。
ホワイトデーには、さすがに手作りじゃなかったけど、お返しをもらって。

とてもとても幸せで。
「もう思い残すことはない」と、どこかで思ってしまう自分自身にビックリしていた。

わたしはまだ15歳で、未来が広がっている筈なのに、何故、そういう事を思ってしまうのだろう？
やっぱり、１度死にかけたからなのだろうか？

ただ、「もう思い残すことはない」と思うと同時に「まだよ。まだ、やり残していることがある」とも、感じていて。
わたしの中に湧き上がる思いに、わたし自身が戸惑ってしまう。

中学校の卒業式が終わったあと。
わたしは、いつものように新一の家に向かっていた。
その時、ふと思い立って、いつもの道から少し脇にそれて、昔住んでいたところまで、行ってみた。

わたしが育った、毛利ビル。
元々は、お祖父ちゃん（お父さんのお父さん）が、残してくれた不動産だったと聞いてる。
お父さんとお母さんとわたしは、その３階の住居に住んで、お父さんは警察官をやめた後、ちょうど空いていた２階の事務所に、探偵事務所を構えた。

わたしが物心ついた頃から住んでいたその部屋は、もう、他の人に貸しているそうだ。
お父さんは探偵事務所も、別の場所に移している。
窓に貼ってあった「毛利探偵事務所」の文字も、今はもう、なくなっていた。

１階の喫茶店ポアロは、あの頃と変わらずそこにあるのが、懐かしい。
でも、今、わたしが店に入ったら、マスターを混乱させてしまうかもしれないから、やめておく。
マスターが代替わりしていないか、ちょっと気になったけど……。

死んだことになっているわたしがうろついていたら、昔の知人と出会った時に驚かせるからと、行くのを止められていた。
でも、そうじゃなくても、懐かしい筈のその場所に、今迄は何故か、行きたいという気持ちを起こすことはなかった。
もう、他の人が住んでいるということもあったのかもしれないけれど……。

今、わたしが住んでいるのは、米花町の近くの杯戸町で。
米花町は、行こうと思えばすぐに行ける場所。
でも、わたしは……米花町にある新一の家と阿笠博士の家には、何度も行ったけれど、昔住んでいた毛利ビルやわたしが通っていた米花小学校を訪ねようと思う事は、不思議と、なかった。

そしてわたしは、新一の家へ向かう。
新一はお仕事中だから留守だったけど、もらった合鍵で中に入った。
すると、奥から女性が出てきた。

「あら。蘭ちゃん、お帰りなさい」
「お、おば様！帰ってらしてたんですか？」
「ええ。蘭ちゃんの卒業式なのに、新ちゃんってば、お仕事の手が離せないっていうもんだから。私が蘭ちゃんを出迎えなきゃって思って」

わたしは、昔から、新一のお母さん・有希子おば様が、大好きだったから。
誰もいないと思っていた新一の家に、おばさまがいて出迎えてくれて、すごく嬉しかった。

「蘭ちゃん。もしかして、新ちゃんにご飯作ってくれるつもりだった？」

有希子おば様が、わたしがぶら下げている買い物袋を指さして、言った。
確かにその積りだったけど、おば様がいらっしゃるなら、わたしの出る幕なんてない。
だって、おば様は本当に料理上手だもの。

「よかったら、蘭ちゃん。一緒に作らない？」
「え？良いんですか？」
「もちろん！今日は蘭ちゃんのお祝いでもあるんだから、腕をふるうわよ～」

ふたりで台所に立って、料理を始める。
ちょっと一息ついたところで、おば様が淹れてくださったお茶を一緒に飲む。

「ねえ、蘭ちゃん」
「はい？」
「本当に良いの？新一で」
「えっ？」

何を問われているのか分からず、わたしは目をパチクリさせた。

「新ちゃんは、私にとってはいつまで経っても、可愛い息子だけど。今の蘭ちゃんからしてみたら、ただのオジサンじゃないの？」
「そ、そんなことは！」
「……蘭ちゃんはまだ、中学生で……別の未来があるかもしれないし……」
「おば様！わたしは……まだ子どもだって言われても仕方ないけど。でも、でも！わたし、新一のことが……新一さんのことが、好きなんです！」

言ってしまってから、恥ずかしくなって目を伏せる。
すると、有希子おば様が、テーブルの上に置いていたわたしの手に、そっと手を重ねてきた。

「蘭ちゃん。私は、反対してるんじゃないの。その逆。蘭ちゃんなら、大歓迎よ。でも、蘭ちゃんがもし、新一のようなオジサンと一緒になったことを後悔するようなことになったらって、それが心配なだけ」
「おば様……」
「だって蘭ちゃん、前の時は……」
「え？前の時……って……？」

わたしは、思わず有希子おば様の顔をじっと見る。
おば様は慌てた風だった。

「あ、え、えっと……蘭ちゃんはまだ中学生なんだし……」
「わたしは……何だか、変なんですけど。コールドスリープしていた10年間に、新一への恋心が、育っちゃったみたいなんです」

有希子おば様が、目を丸くした。

「新一は、昔から、大好きな幼馴染で。でも……男とか女とか、関係ない友達で……なのに、コールドスリープから目覚めたあと、わたし……新一に恋してたんです……」

言ってから、恥ずかしくなって、また、目を伏せた。

繰り返し見る、10歳の頃の夢。
新一が、お金を見つけ出してくれた時のこと。

あの時、わたしは、新一にすごく感謝したし、嬉しかったし、新一のことが大好きだったけど。
でも、恋じゃ、なかった。
なのに、コールドスリープから目覚めたわたしは、新一に恋していた。

自分でも、説明がつかない。
ただ、わたしはまだ子どもだけど、この気持ちはホンモノだって、確信があった。

「ありがとう。蘭ちゃん……」

おば様がそう言ってにっこり微笑み、わたしの手をそっと握りしめてくれた。

　　　☆☆☆

わたしのアルバムは、小学校５年の途中で止まっていた。
わたしがコールドスリープから目覚めた後の写真は、デジタルフレームに収められて、紙で印刷したものは作っていない。

ただ、不思議なのは、昔のアルバムが、そのままじゃなくて、新しい冊子に変えられて、写真が改めて貼り直してあったことだ。

わたしが昔使っていた教科書とかは、もう、残されてないけど、子供の頃読んでいた本とかは、残されていた。
時々、懐かしさに手に取って読んでみたりする。

新一のお父さんが書いた本も、何冊かある。
もらったはいいものの、あの頃は難しくて読めなかった。
紳士な新一のお父さんは大好きで、頑張って読もうとしたけど、無理だった。

最近の新しい本は、読ませてもらってるけど。
昔もらった本は、結局、読めずにそのままになっていた。

ただ、読まなかった割に、古くなっている感じがする。
本棚に立てているだけでも、それなりに傷んでしまうのかもしれない。

ふっと思い立って、子どもの頃にもらった本を手に取った。
それは、今も続いているナイトバロンシリーズの、一番初めの本だった。

ページをめくっていると、何かがひらりと落ちた。
それを拾って、目を見張る。
それは一枚の写真だった。

子ども時代の新一が、眼鏡をかけている。
そして、その隣に、若い女の人が映っている。

女の人の顔に見覚えがある。
っていうか……鏡に映るわたしの姿に、似ていると思う。
ただ、今のわたしより、少し大人で……たぶん、高校生くらいだと、感じた。

その写真を持つわたしの手は、震えていた。
何だか、すごく大切な何かを、どこかにおいて来てしまったような、そんな感じがして。

写真をもう一度よく見る。
見れば見るほど……女の人は「わたし」じゃないかと感じてしまう。
けれど、わたしはこんな服を着たことないし、この男の子も知らない。

その女の人が着ている服は、スーツにネクタイの、制服姿。
この制服って、どこかで見た気がする。
いろいろ考えて、思い当たった。
昔住んでいた毛利ビルの前の道を、この制服を着た高校生が、歩いていた。

帝丹高校―――。

わたしは、写真をひっくり返してみた。

写真には、８年前の日付が記されていた。
そして
「コナン君と」
というコメントがあった。

心臓が大きくドクンと音を立てた。
８年前の日付。
わたしに似た、帝丹高校の制服を着た、女の人。
幼い新一に似た、眼鏡をかけた男の子・コナン君。

８年前ってことは。
わたしがもしコールドスリープしてなかったら、高校生になっていた頃―――。

まさか。
まさか―――まさか―――！

写真の裏の一番下に、小さな文字で書いてある文章があった。
女の子らしい書き文字で、わたしの字にちょっと似ていると思う。

「蘭へ
もし、これを見つけたあなたが、まだ何も聞かされていないのなら。
新一と、お父さんお母さんに、『コナン君と一緒にうつした写真を見つけた』って告げて、全てを教えてもらうように、伝えてください。
もうひとりの蘭より」

心臓が早鐘を打ち始めた。

（９）に続く

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新蘭のジジババって、原作に全く出てきませんが、年齢からみて全員死に絶えているとは思えません。
たぶん、御大が、考えるのが面倒で、出していないだけだと思う。
和葉ちゃんのお母さんが、存在している事だけ出ているのは、あまりにも読者から「死んでるのでは？」と言われたからでしょうね。

なので、毛利探偵事務所があるビルを「遺産」とするのは正直迷いましたが……。
オリジナルでジジババを出すのも難しいので、こうしました。

クリスマスもバレンタインデーも思いっ切りすっ飛ばして、すみません。
季節行事で話を引き延ばしたくなかったもので。

2014年11月2日脱稿

　　