re-start第Ⅱ部　Bygone days（１）未来へのメッセージ

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by　ドミ

第Ⅱ部　Bygone days（１）未来へのメッセージ

未来の、わたしへ。
数年～10年くらいの記憶を失っている、わたしへ。

今のわたしは、このままだと長くて余命３カ月程度と言われている。
でも、３か月は確実に生きられる保証がある訳じゃなく、病原体に弱いわたしの体は、肺炎でも起こせば、数日の内に命を落とすかもしれない。

わたしは、未来に生き延びる道を選んだ。
志保さんが準備してくれた薬を飲めば、数年から１０年位前の体に戻る。
全てが元に戻ってしまうため、その間の記憶も失われる。

それでも、何故、生き延びる道を選んだのか。
あなたは、未来のわたしは、薄々わかっているかもしれないけれど。

わたしが、何を感じ何を思い、何を決断したのか。

時間がないけど、できる限り、書き残しておこうと思う。

新一は、わたしにとってずっと、大好きな幼馴染だった。
一緒に過ごしていたら、いつか必ず、新一はわたしにとって、１番大切な人になっただろうと思う。
それでも、中学時代までのわたしにとって新一は、「男女関係ない一番親しい友達の１人」に過ぎなかった。

実際にわたしが新一に「恋をした」のは、新一がわたしの「特別」になったのは、高校１年の時だった。
それは、新一が探偵として公式にデビューしたアメリカ旅行の時で。
でも、わたしが新一に惹かれたのは、探偵としてカッコ良い姿なんかじゃなく、新一の熱い正義感に触れたからだった。

世間では、冷静沈着・論理的思考で通っている新一だけれど。
実際のところ、他人の危機に対しては、何よりもまず、「救う」ことを優先する。
考えるより先に、「助けたい」という思いで、動く。
新一は探偵として論理を組み立て真実を明るみに出すことを好んでいるけれど、その根底には、熱い正義感と、人を思いやる気持ちがある。

「人が人を助ける理由に、論理的な思考は存在しねーだろ」

わたしが新一のことを本当に好きになったのは、新一のこの言葉を聞いてからだった。

新一の傍にずっといれば、いつか必ず、新一の熱い魂に触れる瞬間が来る。
だから……そのアメリカでの出来事がなかったとしても、わたしはきっといつか、新一のことを好きになった。

わたしは１年以上の間、新一に恋をした瞬間の出来事を忘れていた。
でも、新一を好きだっていう気持ちは、そのまま残っていた。

そして、新一を１人の男性として愛し始めたその気持ちは、どんどん膨れ上がっていった。

元々、些細な喧嘩はよくある悪友みたいなわたし達だったけれど、自分の気持ちに気付いてからは、逆についつい余計に憎まれ口を叩くようになった。
周りの人にからかわれたら、ことさらに、「ただの幼馴染」と強調した。

わたしは……怖かったのだ。
わたしの気持ちが新一に気付かれて、２人の関係が壊れてしまうのが。新一が離れて行ってしまうのが。

でも、ある日。
２人でトロピカルランドに出かけた帰りに、新一は突然、いなくなってしまった。

その時になって初めてわたしは、「ただの幼馴染」なんて、とても脆い関係だったのだと、思い知らされたのだ。

何の約束もない関係で、いつ戻るともしれない新一を待ち続けるのは、辛かった。
新一はこまめに連絡をくれて、色々と気遣いをしてくれた。
それが嬉しくて……もしかして新一もわたしの事を好きでいてくれるのではと期待したり、やっぱり新一にとってわたしなんてただの幼馴染でしかないんだって落ち込んだり……。

でも……ロンドンで、新一から告白されて……わたしは夢のように幸せだった。
新一の気持ちを知ってからのわたしは、待つことも辛くなくなった。
そして……新一はわたしのところに、帰ってきた。

ううん、帰って来たんじゃなくって、本当は、新一はずっと私の傍にいた。

ねえ、あなたは……未来のわたしは……数年間の記憶がないわたしは、コナン君の話を聞いたかしら？
新一は、ある薬を飲まされて、死なずに済んだけれど、体が縮んで子どもの姿になってしまったの。

それは、わたしが飲む予定の薬とは違うもので、体は小さくなるけれど、神経系統はそのまま残るので、記憶も運動神経も損なわれることがない。

そして、小さくなった新一は、ちゃっかり毛利邸に居候したのだ。
わたしは、江戸川コナンと名乗った少年が、まさか新一だなんて夢にも思わず、弟のようにかわいく思って一緒に過ごしてた。
コナン君の前で、新一を思って泣いたり……あとから考えたら顔から火が噴きそうになったし、わたしが寂しがっているのを目の当たりにしておきながら、よくもまあ知らんふりして傍にいたわね！と腹立たしくもあったんだけど。

でも、それでも。
「たとえ体が縮んでも、蘭の傍にいたかったんだ」って言われてしまうと、許してしまうしかなかった。
わたしが新一のことを異性として意識するよりずっと前から……子どもの頃から、わたしだけが好きだったと言われてしまうと、もう何も言えなくなってしまったの。

新一がいなくなって（ほんとは傍にいたけど）、寂しくてつらい思いもした。
でもその分、新一が戻って来たときの喜びは大きかったし、ふたりの絆は強くなったって思う。

新一が戦いにケリをつけて元の姿を取り戻して帰って来て、晴れて恋人同士となったわたし達。
すごく幸せで……もう何も恐れることなんてないって、思っていた。

大学は別々になったけれど、そんなもの何の障害にもならないって、２人の仲が揺らぐことなんてないって、信じてた。

新一とわたしは、恋人同士だけれど、キスどまりで、体の関係を持ったことはない。
そんなことはいつでもできるし、焦る必要なんかないって、思ってたから……。
時間なんて、いくらでもある。
そう考えていたわたしは、何て傲慢だったのだろう。

大学生活はお互いに充実していて多忙だった。
新一はそれに加えて探偵活動があった。
高校までは必要経費をもらうだけだったのに、大学に入ってからは報酬を得て活動するようになったため、「プロ」としての責任の重さは高校生の頃の比ではなく、本当に多忙だったと思う。

最近になって知ったけれど、新一は、わたしが20歳になったら結婚する積りで、頑張ってお金を貯めていたらしい。
わたしは、その裏事情までは知らなかったけれど、プロとして探偵活動をし、学業と両立させている新一を、とても誇らしく思っていたし。
まともなデートの回数が少ないこととかは、多少寂しいと思う事はあっても、大きな不満になることはなかった。

新一の19歳の誕生日。
連休のさなかで町はすごい人ごみだったけど、わたしは新一を誘って外デートに行った。

映画を見て、食事をして、新一の服を買って……。

「蘭。嬉しいけど、お金は大丈夫なのか？」

新一が、自分の分の映画チケットや食事代は支払おうとしたけど、今日は新一の誕生日だからと断るわたしに、新一は心配そうに言ったのだった。

「ん、大丈夫。春休みのバイト代を貯めていたから。その代り……わたしの誕生日には、期待してるからね！」
「げっ！マジかよ！」

悪態をつきながらも、新一の目は笑っていた。

そして、その夜。
わたしは、新一の家に泊まった。

恋人同士になってから、わたしたちはいくども、一線を超えそうな雰囲気になったことがあった。

新一が長い不在から帰って来たとき。
新一の18歳の誕生日。
夏休み。
クリスマス。
バレンタインデー……。

でも、そのたびに。

『まだ、高校生だから』
『受験があるから』

その考えが頭をよぎり、ブレーキが掛かってきた。

でも、入試が終わって、大学に入って。
ブレーキをかけるものも、ない。
新一の19歳の誕生日に、わたしは、「新一にわたしの全部をあげよう」って、決めていた。

別に、誕生日プレゼントの積りではなかった。
ただ、踏み込むのにふさわしいイベントの日だって思ったから……。

でも、新一のベッドの中で、新一は、わたしをじっと見つめると、ふうっと大きく息をついて言ったのだった。

「蘭。オメー、体調が悪いんじゃねえか？」
「えっ！？」

わたしが気付かなかった……ううん、ずっと気のせいだと思い込んでいたわたしの変調に、新一の方が先に気付いたのだった。

「大丈夫よ。入試が終わってからは、ずっとバイトとかして、疲れがたまっただけだと思う」

新一は、わたしの頬に手を伸ばすと、不意に目の下の辺りの皮膚をぐいっと下に伸ばしたのだった。

「な、何するのよ！？」
「やっぱり。下まぶたの裏側が白い……」
「えっ！？」
「お前、貧血になってるぞ」
「……！」
「明日……は、医者はまだ休みか。明後日には医者に行け」
「で、でも！講義が……！」
「何言ってんだ！？オメーの体の方が大切だろ！？」

強く言われて、わたしの目から涙が零れ落ちる。

「あ！ご、ごめん！怒った訳じゃねえから……っ！大声出してごめん……」

新一が慌てて謝り、わたしは首を横に振った。
新一が悪いわけじゃ、ない。
ただ……せっかくの新一の誕生日に、新一と結ばれる筈だったのに、こんな事になるなんて……何だか悲しくて悔しくて……。

新一は、わたしの額に自分の額をこつんと当てて、言った。

「明日……新出先生に診察してもらうか？」
「でも、先生もせっかくのお休みなんだから……」
「けどよ……」
「大丈夫。ちゃんと明後日、病院に行くから」

新一は優しく微笑み、そして唇が重ねられる。
新一とのキスはとても気持ち良くて、甘い幸福感に包まれるけれど。
そろそろ、その先を知りたい気持ちがあった。
お互いに、それを感じていた。

新一はわたしを気遣ってキス以上のことはしなかったけど、一晩中、わたしを抱きしめてくれた。
新一の気持ちは十分に伝わったし、とても幸せだったけれど、それでもやっぱり、残念な気持ちがあった。

その時は、わたしにも、新一にも、分かっていなかったのだ。
わたしの体に何が起きているのか。

確かに、その時のわたしは、講義に出るどころの話ではなかったのだ。
それよりも前。
入試が終わった後、風邪を何度も引いて治らなかったあの頃、何故、病院に掛かろうとしなかったのか。

今更、悔いても遅いけれど。
今になって何度も何度も、繰り返し、考えるのだ。

第Ⅱ部　Bygone days（２）に続く

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第Ⅱ部は、過去編です。

さて、どう書くか、迷ってました。

新一君一人称にするか。
志保さん一人称にするか。
三人称にするか。

どれもしっくりこない。

一番しっくり来るのは、蘭ちゃん一人称なんだけれども、肝心の蘭ちゃんはその時の記憶がない。
まあ、幽霊が語りをする大河ドラマなんてのもあったので、蘭ちゃんの無意識領域一人称ってのも、考えたりしたのですが。

結局、「過去の蘭ちゃんが書き残した日記」という形を取ることにしました。

タイトルは……本当は「メッセジ」にすべきかと迷いながら、でも、メッセージにしました。
悪しからず。

2015年1月5日脱稿

　　