re-start第Ⅱ部　Bygone days（７）蘭・20歳の誕生日

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by　ドミ

第Ⅱ部　Bygone days（７）蘭・20歳の誕生日

高校１年の春、ニューヨークで。
わたしは、新一に恋をした。

それまでも、大好きな幼馴染で。
他の男の子より特別な存在だったから、何となく、いつか新一と付き合うことになるかもと、思ったことがなかった訳じゃない。
でも、本当に「この世でただ１人の男性」として意識するようになったのは、あの事件の時だった。

ただ、わたしはその後１年くらい、その事件の事を忘れていた。
でも……新一に恋をしたその気持ちは、忘れることはなかった。

「記憶が失われても、愛は残る」

そうかもしれない。
この１０年間の記憶が失われても、わたしの魂に刻まれた新一への愛は、きっと、残る。

色々考えた末に、わたしは、志保さんの提案を呑むことにした。

そして今。
記憶がなくなってしまうだろう未来のわたし自身に向けて、これを書いている。

未来の蘭。
あなたに伝えたいことは、たくさんある。
でも、それを全部書いている時間がない。

新一との大切な思い出は、どうしてもたくさん零れ落ちて行ってしまうだろう。
でも、それは、わたしが死んでしまった場合でも、同じことだから。

今は、どうしても必要な事だけを、伝えたい。

わたしは、わたしが２０歳になった日に、薬を飲むことにした。
計画を立てて、志保さんとも綿密に打ち合わせをする。

わたしが小さくなった後、新一と、お父さんお母さん、園子に渡す手紙の準備もした。

お父さん。
お母さん。

２人はきっと、わたしが「未来に生き延びる道を選んだ」ことを、責めることはしないだろうって思う。
お父さんとお母さんにとっても、わたしの存在が失われるのは、とても辛いことだろうから。

ただ、わたしが、１０年分の記憶も何もかもを失っても、やり直す道を選ぶのは、新一のためなの。
新一が、どこまでも光り輝いて生きていけるように、ただそれだけを望んでのやり直しなの。

蘭は、ふたりの子どもとして生まれてきて、幸せでした。
心から２人を愛しています。

でも、今、蘭にとってこの世で一番大切なのは、新一なんです。
新一のためだけに、新一が蘭という存在を失わなず生きていけるように、蘭は、やり直しをします。
お父さん、お母さん、ごめんなさい。

この本音はここだけに書いて、あなた達につたえることはしないけれど。

お父さんとお母さんへの手紙には、「今のままだと死に向かうだけだから、時間を稼ぐために、一旦小さくなってリセットする」ということなどを書き記した。

園子。

わたしが小さい頃からの、大切な大切な、幼馴染の親友。

いつも、わたしの傍にいてわたしを支えてくれて、本当にありがとう。
できれば、蘭が小さくなった後も、友だちでいてくれると嬉しい。

京極さんとの結婚式には、小さな蘭も招待してね。

これは、園子に書いた手紙そのまま。

新一。

わたしはきっと、もう一度新一に恋をするから、待ってて。
小さくなった蘭が１６歳になったら、改めて、新一のお嫁さんにしてください。

これも、新一宛に書いた手紙そのまま。

わたしがどれだけ新一を愛しているか、それを言いたいけれど。
どう言葉を尽くしても、わたしの気持ちを全部新一に伝えることは無理だって思う。

死ぬのは怖い。
死にたくない。

でも、１０年間の記憶を失ってしまうことも、同じくらいに怖い。

新一への愛を失うことはない、それだけを信じて、わたしは、１０歳のわたしに戻る。

　　　☆☆☆

わたしの誕生日前日。

「蘭。誕生日のプレゼントは、何がいい？」
「わたしを新一のお嫁さんにして」

新一の問いに、わたしは躊躇なく答えた。
もともと、わたしの方から、「わたしの２０歳の誕生日に、わたしを新一のお嫁さんにして」って、新一にお願いしようと思っていたのだった。

「……わかった。じゃあ今からさっそく、役所に用紙を取りに行って、おっちゃん達に挨拶しよう」

わたし自身があちこち出向くことは止められていたから、新一が１人で役所に用紙を取りに行った。
そして、２人で毛利探偵事務所に行き、お母さんを呼んで、新一は結婚の挨拶をした。

お父さんもお母さんも、苦虫を噛み潰したような顔をしていたけれど、わたしの状況が状況だからだろう、敢えて異は唱えなかった。

「……わかった。蘭を頼む」

お父さんはそれだけ言った。
新一は深々と頭を下げる。

「ありがとうございます」
「お父さん……ありがとう」

そして。
限られた人たちだけで、ひっそりと、というわたしの願いを入れて。

わたしの誕生日当日、工藤邸の書庫で。
お互いの両親と、園子・阿笠博士・志保さん・服部君・和葉ちゃんが参列しての、ささやかな結婚式が行われた。

ドレスはそろえる暇がなかったので、有希子おばさまが昔使った舞台衣装を借りて。
……おばさまは、わかってたら素敵なドレスをあつらえたのにって、すごく悔しがってた。
新一は、優作おじさまのタキシードを借りて。

立会人は阿笠博士。
わたし達は誓いの言葉を述べ、そしてキスを交わす。

「……指輪は、もうちょっと待ってな」
「……うん」

残念ながら、指輪が間に合うことはない。
でも、わたしはおとなしく頷いた。

お父さんとお母さん、有希子おば様、園子、そして和葉ちゃんは、泣いていた。

多分。
近い将来のわたしの死は避けられないことだと、皆が感じ始めていたのだ。
志保さんの薬がなければ、確実に、わたしは近い内に命を落とす。

新一は、優しく微笑んでわたしを見詰める。
わたしの前で、苦しそうな表情をすることはない。

新一がわたしの耳にささやく。

「愛しているよ」
「新一……わたしも……」

わたしの目から涙が溢れて流れ落ちた。

　　　☆☆☆

その夜。
新一は、わたしを抱くのをためらっていた。

「新一……どうして？」
「……今のオメーが出血すると、まじいんじゃねえか？」

ただでさえ貧血状態なのに、それに加えて出血傾向がある、わたしの体。
破瓜の血を流した後、それが止まらず出血多量で……というのは、有り得る事。

「……お嫁さんにしてっていうのは、手続きだけの事じゃないよ！わたし……ちゃんと新一の奥さんになりたい！」
「……蘭……」
「出血のことなら、心配しないで。その……志保さんに、止血剤をもらったから……」

新一は目を見張る。

それは本当の事で。
ここでわたしが出血多量で死んでしまったのでは、元も子もないからと、志保さんから渡されていたのだった。

「新一。お願い。わたし、わたし……新一のところに戻ってこられるよう、頑張るから！わたしに……わたしの身にも心にも、新一の存在を、新一の愛を、刻み込んで……お願い……」
「蘭……っ！！」

新一が、力いっぱい、わたしを抱きしめる。

そして。

その夜、新一とわたしは、初めて、結ばれた。

気の遠くなるような痛み。
それをはるかに凌駕する、大きな幸せ。
愛する人と肌を合わせひとつになる歓び。

ああ。
もっと早く、新一とこうなっていれば良かった。

病気になってから痩せてしまったわたしの体。

「もっと綺麗な時に、新一に抱いて欲しかった……」

思わず言ったわたしに、新一は額をこつんと合わせて言った。

「バーロ。今のオメーは、最高に綺麗だよ、蘭……」

新一は、わたしの全身に口付けの雨を降らせ、とても大切に優しく、わたしを抱いてくれた。
わたしの体全部に、わたしの心いっぱいに、そしてわたしの魂に、新一の愛を沢山沢山、刻み込んでくれた。

わたしは、絶対に忘れない。
この夜のことは忘れても、新一からもらった沢山の愛を、わたしの魂に刻まれた愛を、決して、忘れない。

今、新一は眠っている。
新一が目覚めてしまうと、困ったことになるから、こっそりと睡眠薬を飲ませた。

新一、お父さん・お母さん、園子にあてた手紙を、机の上に置いて。

わたしは阿笠邸に向かった。

　　　☆☆☆

「じゃあ、蘭さん……」
「ええ。志保さん、後の事は、お願いね」
「まかせて」

わたしが薬を飲んだ後は、すぐに目覚めてパニックにならないように、皆への説明の時間が十分取れるように、しばらくの間わたしを眠らせるよう、志保さんが手配してくれる。
この手記も、志保さんが折を見て、元のわたしの部屋に戻してくれるように、お願いしている。

わたしは今から薬を飲みます。

未来の蘭。
あとは、お願い。
新一を、新一のことを、お願い。

新一。
新一。
愛してるわ。
世界中で、誰よりも、何よりも。

新一。

re-start　第Ⅱ部　Bygone days　了
第Ⅲ部　prospect　に続く

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原作ではまだ明かされていない、蘭ちゃんの誕生日。
とっておきなのだそうで。

で、多くの新蘭ファンサイト様と同じく、ドミ設定は「５月半ば」です。
その根拠は映画第１作。
映画は原作とパラレル関係にありますが、映画の設定自体は、青山御大も認定している公式設定ですからね。

で、映画第１作の何が根拠になっているかといいますと。
「新一もわたしと同じで赤がラッキーカラー」という蘭ちゃんのセリフ。
これで、「蘭ちゃんはおうし座生まれ」というのが大方の見方になった訳です。
で、和葉ちゃんみたいな「お姉さん発言」はないので、たぶん、蘭ちゃんの方が生まれは新一君より後。
まあ、蘭ちゃんが新一君より後の生まれだろうってところは、御大の「蘭ちゃんはまだ１６歳」発言とも一致しますし。
「おうし座で、新一君より後で、生まれた時に新一君と産院で出会わない微妙な日程」ってことで、５月半ばあたりが良さげ。
ということで、多くの新蘭サイト様が、蘭ちゃんの誕生日を５月半ばと設定している訳ですが。

映画を見返してみると、蘭ちゃんの発言は、あくまで、「ラッキーカラーが同じ」であるというだけ。
蘭ちゃんがおうし座以外の星座生まれでも、ラッキーカラーが同じ赤であるってのは、有り得る。
ってことは、「蘭ちゃんがおうし座生まれ」とする根拠は全くないかもしれない……？

ちーん。

まあ、いくら、原作設定でのお話であろうとも、実際は原作に対してパラレルではあるのだから。
いずれ原作で明かされる蘭ちゃんのお誕生日の時期が違っていたら、その時は、それはそれ、ってことで。

余談が長くなりましたが、ここで第Ⅱ部は終了。
次からは第Ⅲ部になります。

2015年5月25日脱稿

　　