Adventure of the Christmas




byドミ(原案協力:東海帝皇)



(1)



地球温暖化とは言っても、12月ともなれば流石に寒い日が続く。
受験を控えた高校3年生は、冬は忙しい。
センター試験が近付いて来たこの時期、学校ではそれに備えた講習があるし、家に帰っても気が抜けない。
しかし、受験生でさえも流石に心騒いでしまうあのイベントが近付いて来ていた。

本来は、2000年も昔に生まれた、ある宗教の開祖の誕生日とされている日であり、信仰を持つ人に取っては聖なる日――しかし現在の日本では(特に若い人達に取っては)、お正月をはるかに凌ぐ冬の一大祭典、お祭りイベントと化してしまっているあの日――クリスマス。

町中がクリスマス一色に染まり、この不況下でも、何となく騒がしく浮き立つような雰囲気が漂っている。



高校生新婚カップルが甘々の生活を送っているある屋敷でも、例外ではなかった。



  ☆☆☆



東京都米花市――都心にほど近い住宅街に、人目を引く馬鹿でかい洋館が立っている。
そこに現在住んでいるのは、高校3年生同士で夏に挙式し籍を入れたばかりの新婚カップル・工藤新一と工藤(旧姓毛利)蘭夫妻である。

この家の本来の持主である工藤優作・有希子夫妻は、4年前からアメリカのロサンゼルスに移り住んでいる。
2人がロスに行ってしまった後、その1人息子の工藤新一が、長い事1人暮らしをしていた。

有希子はイベント事が大好きであったから、優作・有希子夫妻がこの家にいる頃は、季節行事の飾りつけと御馳走は欠かす事がなかった。
毎年12月になると、大きなクリスマスツリーが必ず工藤邸のリビングに飾られたものである。

けれど、新一が1人暮らしになった後は、面倒な上に多忙なのもあって、クリスマスツリーは長い事物置にほったらかしになっていた。

今年は、新妻の蘭が、ぜひクリスマスツリーを飾りたいとおねだりした。
愛しい妻に頼まれれば嫌と言えない新一は、今年、久し振りにそれを引っ張り出してリビングに運び込んだ。
かなり大きなものであり、運ぶのにも一苦労である。
その後2人で飾り付けしたのだが、結構時間がかかってしまった。

「ねえ新一、飾り付けはこんなもんで良いかなあ?」
「良いんじゃねえ?けど蘭、こんな事していて、勉強の方は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。最近は新一が結構家事を手伝ってくれるから、予定通り勉強が進んでるもん」

頭脳明晰な新一は、すでに進学する所を推薦で決めてしまっており、受験勉強は必要ない。
けれど蘭は今から受験本番を迎える。
だから新一は、探偵活動で忙しい合間をぬって、できる限り蘭に負担がかからない様に気を配っていた。

蘭にとっては、実家の毛利家で主婦業をしていた頃より楽になったくらいである。

「まあコナンだった時さんざん世話かけたしよ、これ位じゃまだまだ埋め合わせられねーだろうし・・・」

新一がちょっと照れたように言った。
蘭はくすりと笑って言う。

「受験は気を抜けないけど、でもクリスマスくらいは楽しみたいじゃない?」
「そうだな・・・でも無理はするなよ?」



蘭はツリーを見上げる。

蘭の母親・英理は、蘭が小さい頃から家を出て別居しており、クリスマスの頃は年末という事もあって仕事も忙しく、蘭と一緒にクリスマスを過ごすという事がなかった。
蘭の父親・小五郎は、クリスマスなどのイベントには興味がなく、麻雀仲間や飲み仲間と共に過ごす事が多かった。

不憫に思った有希子が蘭を工藤邸のクリスマス家族パーティに招待してくれ、蘭は毎年クリスマスをこのツリーの前で過ごしたのだ。

蘭にとっては思い出深いツリーである。


有希子達がロスに行ってしまってからは、ツリーはなかったけれども、蘭が工藤家の台所で御馳走やケーキを手作りし、新一と2人でクリスマスイブを過ごした。
2人っきりでイブを過ごしていても、新一と蘭は他の人には「ただの幼馴染」と言い張っていた。

お互いの気持ちはともかく、まだ告白もしていなかったし、恋人同士がする特別な事は2人にはまだなかったから。


そして昨年、高校2年生のクリスマスイブの日・・・蘭は雪の中、長い事姿を見せなかった新一を、工藤邸の門の前でずっと待っていた。
「行方不明」だった新一は束の間帰って来て、何故か姿ははっきりと見せてくれなかったけれども、蘭の手を握って声を聞かせてくれた。
そしてプレゼントを置いて、また居なくなってしまったのだ。

「ふふっ。今から考えると、姿を見せられない筈よね。あの時新一はコナンくんだったんだもの」

蘭は今でも、あの日新一を待っていた時の切ない気持ちや、新一の手の温かさ、相変わらず憎まれ口を叩くけど優しかった新一の声などを、鮮やかに思い起こせる。

「蘭。何思い出し笑いしてんだよ」

新一が蘭の様子に目ざとく気付いて声を掛けてくる。

「ん。ただ、去年のクリスマスの事を思い出してたの。新一、私の為に暗闇の中で危険な芝居をしてくれたんだよね。ありがとう」

新一は何か言いたそうに口を開きかけたが、結局何も言わず、赤くなってそっぽを向く。



恋人同士となってから後は、お互い、憎まれ口も叩きにくくなってしまった。
蘭は、まだ幼馴染同士だった頃の、お互い意地を張り合い、素直な言葉も言えなかった自分たちの事を懐かしく思い出す。
けれどそれは決して、「あの頃に帰りたい」と言う気持ちではない。

「あっ!」
「蘭、どうした?」

突然蘭が声を上げたため、新一が驚いた様に振り向いて訊いて来た。

「恋人時代のクリスマスって過ごした事なかったなあって思って」
「は?」
「だって、去年までは『ただの幼馴染』だったでしょ。今年からは夫婦だし」
「ふう〜ん。じゃあ結婚するの、ちょっと早まっちまったか?」
「そ、そんな事言ってないでしょ!新一の馬鹿っ!」

蘭が軽く振り上げた拳を新一は受け止め、蘭を抱きしめる。

「蘭。恋人時代には大した思い出作ってやれなかったけど、これから一緒にたくさんの思い出を作って行こうな」
「うん・・・」

蘭は幸福感で泣きそうになった。
こういう事をさらりと言ってのける新一には本当に敵わないなあと、蘭は思った。

「今年も父さん達はあっちでクリスマスを過ごすってさ。蘭、お義母さんたちを呼ぶか?」
「止めといた方が良いと思う。お父さんはどうせクリスマスになんか興味示さないし、今年はお母さんもあっちに帰ったばかりだから、2人にしておいた方が良いと思うの。・・・それに、それにね、私・・・」

今年は2人きりで過ごしたい・・・そう言い掛けた言葉を、蘭は飲み込む。
すると蘭の気持ちを読み取ったかのような新一の言葉が帰って来た。

「まあ結婚して初めてのクリスマスだし、恋人気分で2人っきりで過ごすのも悪くねーよな」
「うん」

蘭ははにかんだような笑顔で頷き、新一の肩に頭を預けた。


けれど、今年のクリスマスは思いがけず賑やかなものとなる。
しかし今は2人とも、それを知る由もなかった。









暖冬の影響もあり、12月の東京で雪が降る事はあまりない。
しかし今日は冷え込んで珍しく雪がちらついていた。
その中を、蘭は急ぎ足で買い物から帰って来る。


工藤邸の大きな門を開けようとした時、隣の阿笠博士の家の前に佇む小さな人影を見つけた。

「歩美ちゃん!」

蘭の声に小さな人影は振り返る。
年の頃は7、8歳、大きな瞳をした可愛い少女――新一の仮の姿・江戸川コナンの同級生、吉田歩美であった。

「蘭お姉さん・・・どうしてここに?あ、そうか、ここ、工藤新一さんのお家だったんだ」

歩美の鼻の頭は赤くなっており、長い事ここに立っていたらしいと思わせる。

「歩美ちゃん、風邪引くわよ。温かい飲み物を入れるから、入って」
「いいの?」
「変な遠慮しないで、私たち、お友達でしょ?それに、歩美ちゃんに風邪引かせたりしたら、私が新一に怒られちゃうわ」



  ☆☆☆



蘭はリビングに暖房を入れると、歩美を座らせ、ココアを作って持って来た。
歩美はココアのカップを抱えると、暫くじっとカップの中を覗きこむようにして座っていた。
湯気の向こうで、その瞳が切なそうに揺れる。
蘭はどうしようもなく胸が痛むのを感じた。
歩美が今、誰の事を考えているのか、判る様な気がしたのだ。


「ねえ蘭お姉さん、コナンくん、日本に帰って来ないのかなあ」
「歩美ちゃん?」
「アメリカだって、冬休みはあるよね?もしかしてクリスマスは、コナンくんと一緒に・・・って・・・」

歩美の涙が一滴、ココアの中に落ちていく。

「コナンくんいないし、哀ちゃんもいないし、博士もいないし・・・。さびしくって、つまんないよ」

歩美は自分が言いたい事をうまく整理出来ない様子で、もどかしげに訴える。
ただ単に、大好きだった江戸川コナンが居なくなったという寂しさだけではないのだろう。
おそらく、コナンと灰原哀が居た頃の歩美達の生活は、毎日が冒険で、きらきらと輝くような日々だったに違いない。
コナン達が居た時の心躍る日々と引き換えに、きっと今、歩美の心を喪失感が襲っているのだ。

「歩美ちゃん・・・」

蘭は何と言ったら良いのか判らずに立ちつくしていた・・・。



  ☆☆☆



「んで?少年探偵団を招待してクリスマスパーティをする事に決めてしまったって言うのか?」

新一の声がやや不機嫌そうな感じがして、蘭は思わずおずおずと上目遣いで新一を見る。

「駄目?」
「駄目も何も、もう約束しちまってんだろ?」
「ううん、一応新一に訊いてからって言ってあるから、新一がどうしても駄目だって言うのなら・・・」
「バーロ。その状況で駄目なんて言えっかよ」
「うん・・・。ごめんね新一。せっかく2人で過ごそうって言ってくれてたのに」
「まあ俺もあいつらの事は気になってたし、それに・・・」
「・・・それに、何?」
「いや、おめーがあいつらの事気にかけてくれたのが、何か嬉しくてさ。ありがとう、蘭」

新一が頬を少し染めて言う。

「新一・・・。だって、コナン君の大切なお友達・・・ううん、私にとっても大切なお友達だもの。やっぱり、幸せに笑っていて欲しいって思うわ」
「蘭。そう言ってくれて、本当に嬉しいよ。うん、俺も、あいつらには元気で幸せでいて欲しいって思う。楽しいパーティにしようぜ。俺じゃあ・・・博士や灰原やコナンの存在には敵わねーかも知れねーけどよ」



  ☆☆☆



そうしてクリスマスパーティの企画が進む中、思い掛けない知らせがもたらされる。

「新一!阿笠博士と志保さんが、年末に一時帰国するんですって!クリスマスは日本で過ごすそうよ!」
「そうか!阿笠博士が来るんなら、あいつらもきっと喜ぶだろう。良かったな」
「ねえ、もちろん志保さんも呼ぶわよね」
「そりゃあ、博士呼ぶんなら宮野も呼ばねーと・・・そうだな・・・あいつらには灰原の姉さん、じゃ苗字が違うから、従姉妹か何か、親戚のお姉さんと言うことで」
「そうね、それが良いかも」

楽しげに話をしながら、蘭はふと、夏に志保が言った言葉を思い出す。

『私、ちょっとだけ夢見ている事があるの。彼が、時を越えて灰原哀を追ってきてくれないかなあって』



「新一。幼い時の恋が結ばれるって、あると思う?」
「はあ?おめーがそんな事訊くのかよ。俺たちがそうだろが。って、もしかしてガキの頃は俺の片思いか?」
「あ、私たちみたいにずっと傍に居たんじゃなくって、長い事離れてた場合よ」
「うーん・・・松本先生がそうなりそうだったんだけどなあ・・・」

蘭ははっとして押し黙る。


新一がコナンだった時、中学時代の音楽教師・松本小百合が結婚式を挙げようとしていた相手が、20年も前の幼い初恋の相手だった。
しかし当の花婿・高杉俊彦に、毒を盛られて殺されかけたのだ。

高杉俊彦が松本小百合の殺害を計画するに至ったのは、無理からぬ悲しい過去があった訳なのだが・・・。

殺人未遂の高杉は、情状酌量の余地ありとして、本人が深く反省している事、余罪が無かった事から、現在執行猶予中で、刑には服していない。
蘭は、きっと松本先生は今でも彼を待っているだろうと確信している。

「蘭、きっとあの2人はうまく行くよ。気持ちはきっと通じる」

新一が蘭の心を読んだかのように声を掛け、蘭は泣きそうに顔を歪めながらも、肯いた。



  ☆☆☆



「え?和葉ちゃんたち、クリスマスは東京で過ごすの?」
『新婚夫婦のクリスマスイブを邪魔するんや無いて、平次には言うたんやけどな、どない言うても聞き入れへんのや。なんやもう、やっぱり、平次の一番はあたしやのうて工藤くんなんやないかって気がするで』
「そ、そ、そ、そんな事はないと思うけど・・・」



「そっか、服部たちまで来んのか・・・賑やかなクリスマスになりそうだよな」
「うん、でも和葉ちゃんがね・・・」

蘭は和葉が平次にとっての一番が新一のように思えると拗ねていた話をした。

「バーロ。そんな事ある訳ねーだろ」
「で、でも・・・」
「服部の狙いはな、多分・・・」
「え?」
「夜を和葉ちゃんと2人で過ごす事」
「え?ええ!?」
「だって考えてもみろよ、あいつらの両親は警察のお偉いさんだぜ。その配下がうろうろしている大阪で、服部が和葉ちゃんとどうこう出来ると思うか?俺んとこに来ると言う口実でなら、大阪府警の目の届かないところに行けるからな」
「そっかー、クリスマスを2人で・・・か」
「まあ俺たちも、パーティが終わったあと、ゆっくり2人で過ごす時間は充分ある。楽しい聖夜にしような」



  ☆☆☆



「京極さん、クリスマスに帰国するんだ。園子、良かったね!」
『でね、蘭。お願いがあるんだけど』



「で、園子と京極さんも招待した、と」
「うん、ごめんね新一、怒ってる?」
「いや別に。ここまで来りゃあ、多少人数が増えても関係ねーだろ。鈴木家のパーティだったら、京極さんを招待しにくいだろうし、その後園子の所に泊まるなんて無理だろうしな。けど蘭、パーティの準備、大変だぞ。俺も手伝うようにはするけどさ、大丈夫か?」
「うん。だって、料理の手間は、人数が増えたからって関係ないもん。それに、今回はお客さんたちにも協力してもらうから」



  ☆☆☆



「そうか、お義母さんたちは旅行か」
「うん、23日が祭日でしょ。幸い今手がけている裁判の公判もその辺りには入っていないし、24、25で休暇を取って2人で温泉旅行に行くんだって」
「なんか最近あの2人、以前より仲良くなってないか?」
「ふふっ、私が居なくて2人きりだっていうのが反って良いのかも」
「父さんたちは今年もロスで過ごすようだし、まあ、若者と子供たちだけで賑やかに過ごすのもいいよな」
「若干の例外(阿笠博士)は居るけどね」



楽しそうにクリスマスの企画を立てる高校生夫婦。

その行く手に暗雲が立ち込めている等とは、知る由も無かった。









  ☆☆☆



関東地方にある、拘置所にて。



深く帽子を被ったある婦人が、面会に訪れていた。
帽子から服から全て黒尽くめで、まるで喪装のようだ。
金色の髪は帽子の中に纏められ、帽子に付いた黒いベールに半ば顔が隠れている。
しかしそれでも、その美貌とスタイルの良さはうかがい知れた。



強化プラスチックの向こうに隔てられた囚人は、鋭い目をした男だった。

「今更何の用だ、ベルモット。いや・・・組織が無くなった今は、クリス・ヴィンヤードと呼ぶべきか?」
「ご挨拶ねジン。それに、それだって私の真実の名前ではないわ。せっかく貴方に良い知らせを持って来たと言うのに」
「良い知らせだと?」

ジンと呼ばれた囚人の男は、かつての長かった髪も切られ、囚人服を着せられていたが、目の鋭い輝きにはいささかの衰えも無い。

女は痛ましそうに男を見やる。

「なんて様なのジン。貴方にそんな格好は、そんな場所は相応しくないわ。貴方をそこから脱出させてあげる。そして2人で永遠の若さと命を享受しないこと?」
「お前・・・何を企んでいる?」
「別に。1人きりで永遠の若さと命をもらっても、つまらないのですもの」
「せっかくだが、俺はそんなものには興味はねえ。あの方が亡くなって組織が崩壊してしまった今となっちゃあ、もう何をするつもりもねえ。大勢の人間を葬った俺は死刑囚、間違いなく近い内に刑が執行されるだろうよ」
「ジン・・・!貴方、そんなに死にたいの!?」
「死にたい訳じゃねえが、みっともなく薄汚く生き延びたいとも思わねーよ」

ベルモット・・・あるいはクリス・ヴィンヤードと呼ばれた女は口元を歪め、震わせた。

「ジン、私の事を怒っている?組織が崩壊してもおめおめと逃げおおせている私を」
「・・・何を勘違いしているか知らねーが、おめーがどうしようと、俺にはどうでも良いし、全く関わりのねー事だ。俺なんぞに関わらず、お前は永遠の若さと美貌とやらを大事にして生き延びれば良い」



女は立ち上がる。
これ以上話しても無駄な事は明白だった。

去ろうとする女に、ジンと呼ばれた男が声を掛ける。

「もし、シェリーに会う事があったなら、伝えといてくれ。『先に地獄で待ってるぜ』ってな」



その瞬間、女は身を震わせ、黒いベールの向こうの顔に、阿修羅の表情が浮かび上がる。







「シェリー・・・!あの小娘!お前だけは決して許さないわ!」













  ☆☆☆



同じ頃、東京都内某所にて。



ベレー帽を被った、ハンサムだが目つきの鋭い男と、髭を生やした初老の白人男性が、小声で会話をしていた。

「彼らが行動を起こし始めたようです」
「ふむ・・・それはいかんな。何とか阻止しなければ」
「工藤君たちに警告しておいた方が・・・」
「そうだな。急ぎロスにも連絡を」





  ☆☆☆



警視庁捜査1課に、ベレー帽の男が目暮警部を訪ねて来た。

「赤井さん、何かあったんですか?」

黒の組織絡みでインターポールから派遣されて来たこの男を、目暮警部は丁重に扱う。
しかし、目暮警部としては、自分もその全貌を知らされていない事件の事で暗躍しているこの男たちの秘密主義が、どうしても好きになれなかった。
トップから命令が来ているため仕方ないとは思う。
市民に秘密にしていなければならない程の重大な事件なのだとも理解はしている。
この一連の事件に関して、警察のトップやインターポールが決して悪い事をしているのでは無いと信じているが、市民に奉仕する立場の公僕として、秘密主義で行動して欲しくないものだと、人が良く正義感の強い目暮警部は考えていた。

それはともあれ、赤井の言葉に目暮警部は驚く事になる。

「工藤君に、危険が迫っている。黒の組織の残党が動き出した。警察としても十分に注意して欲しい」



赤井が去った後、目暮警部は、佐藤警部補と高木刑事を呼ぶ。

「事情を詳しく明かす訳にはいかないが・・・と言うより、わしも知らされていないのだが、工藤君に危険が迫っているらしい。身辺には十分注意を払ってくれ。暫らくは、事件解決の要請も控えよう」



だが、目暮警部たちはうっかりしていた。

工藤新一にとっての最大の弱点は何か、それは十分承知していた筈なのだが、今回の敵がそれを熟知している事に、迂闊にも気付いていなかったのだった。













12月22日。



成田空港に、1組の男女が降り立つ。
その2人は、どう見てもカップルではなく親子に見える。

事実、義理の関係ではあるが、親子であった。

阿笠博士と阿笠志保。

「私が日本に居たのってそう長い期間ではない筈だけど、何だか懐かしいわ」
「どれ、早速懐かしの我が家に帰るとしようかの」



  ☆☆☆



「志保さん、阿笠博士、お帰りなさい!」
「蘭さん、ただいま」
「おう、蘭くん、ただいま」

高校は今日終業式だった。
早くに帰宅した蘭は、阿笠家に人の気配がしているのに気付き、早速訪ねて来たのだった。



「・・・そう、あの子達を招いてパーティを・・・」

志保がお茶を飲みながら蘭の話に相槌を打つ。
その目が微かに切なそうに揺れる。

「勿論、志保さんも来てくれるでしょ?あ、阿笠博士も」
「博士はともかく私は・・・あの子達にとっては見知らぬお姉さんよ」
「ううん、きっとあの子達とっても喜ぶと思うわ。哀ちゃんの従姉妹か何かだという事にして、是非来てよ、ね?」
「蘭さんには敵わないわね」

志保が苦笑する。

「でね、明日から準備を始めるから、志保さんにも色々手伝って欲しいの」
「手伝いになるかどうかは判らないけれど、伺わせて頂くわ」



  ☆☆☆



12月23日は祭日なので、その日から高校も小学校も冬休みに入る。

大阪からの2人も、園子も、少年探偵団の3人も、23日の内に工藤邸に集まってパーティ準備を手伝う事になった。(京極真は24日に帰国するため、パーティ当日の参加である)







  ☆☆☆



「ふふふ、シェリー・・・おあつらえ向きに、丁度日本に帰ってきたのね」

ベルモット・・・あるいは、クリス・ヴィンヤードと呼ばれた女が、ダーツを的に向かって投げる。

「Cool - guy, Angel, and Sherry・・・あなた達を血塗られた最高の聖夜に招待してあげるわ・・・!フフフ・・・。」

的には、幾枚かの写真が張ってある。

新一、蘭、コナン、そして志保の写真。

ダーツは的に突き刺さり、写真の志保の顔を貫いた。













そして12月23日。



成田空港に、1組の男女が降り立った。

今回は歴然とカップルと判る美男美女で、特に女性の方は若々しく見えるが、30代後半にはなっているだろうと思われる2人組である。

「優作、優作、あの人が生きていたなんて・・・!そして、あろう事か、彼女が新ちゃんを・・・!」
「有希子、落ち着きなさい!それを止める為に我々は帰って来たんだから!」





  ☆☆☆



蘭は、手伝う面々が来る前に、買い物に出かけていた。(あらかた必要なものは揃えてあったが、2・3足りない物があったので)
雪が降り出した為に、傘をさして歩く。


帰宅途中、傘も差さずに道の角に佇む人影を見つけた。

「ジョディ先生・・・!こんな所で何してるんですか?風邪を引きますよ!」

ジョディが口の端を吊り上げて、皮肉気な笑みを浮かべる。
蘭は何となく、違和感を覚えるが、それが何なのか判らなかった。

「先生・・・?」



  ☆☆☆



「おっせーな、蘭。こんな日にあんまり外をうろつくと、風邪引いちまうぞ。やっぱり一緒に行けば良かったな」

工藤邸には、手伝いの面々がもう集まっていると言うのに、ちょっとだけ買い物に出ただけの筈の蘭がまだ帰って来ていなかった。
新一は一緒に行こうと言ったのだが、蘭に「買い物の間にお客さんが来るかも知れないから」と言われ、渋々留守番をしていたのである。

新一は、胸騒ぎを覚え、イライラしながらパーティ用の部屋の飾り付けをしていた。

「工藤、落ち着けや」

大阪から来た服部平次が、飾り付けを手伝いながら新一に声を掛ける。



女性陣は、御馳走の下ごしらえ等の手伝いをする事になっているのだが、指揮を取るべき蘭が居ない為に暇を持て余して、少年探偵団を相手にトランプで暇つぶしをしていた。
志保は、園子や和葉と既にかなり打ち解けてきている。
志保が本来の姿で2人に会うのは、夏の新一・蘭の結婚式以来2度目だが、園子も和葉も、灰原哀と名乗っていた大人びた小学生が、実は志保の仮の姿だったという事を既に知っていた。
園子や和葉のおしゃべりに志保は笑顔で相槌を打ち、急速に親しくなっているようだ。

少年探偵団たちは、哀の親戚と紹介された阿笠志保に、ちらちらと視線を走らせていた。
特に光彦は、哀そっくりの美しい女性を、頬を染めて熱い視線で見つめていた。



なかなか帰って来ない蘭にイライラしている新一に、女たちが声をかける。

「工藤くん、蘭さんが絡むと形無しね」
「ったくもう、新一くん、蘭だって子供じゃないんだから」
「蘭ちゃんが子供じゃあらへんから心配なんやろ、工藤くん?」

女性陣から口々にからかいの言葉が上がる。



「蘭お姉さんが子供じゃないから心配って、何の事?」

きょとんと無邪気に問いかけてくる歩美に、皆慌てた。
和葉が慌てまくってとんでもない事を口走る。

「そ、そ、それはやな、最近は大人の女性専用の人攫いも多いんやて」
「だったら、蘭お姉さん大変じゃない!すぐ迎えに行かなきゃ!」
「歩美ちゃん、大丈夫よ、蘭はいざとなったら空手で人攫いなんかやっつけちゃうから」

園子がなだめるように言うと、光彦と元太が抗議する。

「駄目ですよ、どんなに強くても、不意を衝かれる事はあるんですから」
「そうだぜ、現に蘭姉ちゃん、何回も危ない目にあってるだろ」



新一は、女たちと少年探偵団の会話を呆れたように見ていた。



  ☆☆☆



プルルルル・・・、プルルルル・・・。



雪が一段と激しく降りしきる中、工藤邸の電話が鳴り響く。

「蘭さんかしら?それとも事件の依頼?」

志保が呟く。

「いや、それだったら携帯に掛かってくる筈だ。」

新一は顔をしかめながら電話を取る。
胸の奥がざわめき、嫌な予感がした。

「・・・はい、もしもし工藤です」
『Hello, Cool - guy.』
「!?」

新一の表情が引き締まる。
新一の様子にただならぬものを感じて、志保と平次が新一を注視する。

「誰だあんた?」
『My name is Vermouth.』
「ベルモット!?」
「!」

志保と平次の表情が険しくなる。

「名前からして、オメー、組織の者だな。俺に一体何の用だ!?」

と低い声で尋ねる新一。
しかし、ベルモットの次の言葉を聴いた瞬間、新一は凍りついた。





『貴方のAngelの命が惜しかったら、Sherryと共にいらっしゃい、Cool - guy・・・.フフフ・・・』





(2)に続く

++++++++++++++++++++++



<後書代りの東海帝皇会長とドミの対談・その2>



ドミ「あー、どうしよう・・・」
会長「ドミさん、どうされました?」
ドミ「『THE SALAD DAYs』、学園祭のお話までは決まっているんですけど」
会長「ふむふむ」
ドミ「次のクリスマスのお話のネタが思い浮かばないんです。なにせ、新蘭がもう夫婦になっちゃいましたし、どんなお話にしたらいいかと・・・」
会長「では、こんなお話はどうでしょう。蘭ちゃんが××で、新一が・・・」
ドミ「えーっ!?蘭ちゃんをどこの誰が!?」
会長「実は黒の組織が・・・」
ドミ「新一くんが潰した筈だったけど、残党がいたんですか、何だか面白そうですね」
会長「で、ジョディ先生が・・・」
ドミ「え?ジョディ先生が?○○で△△ぅ〜〜!?ひえーーーーっっ」
会長「で、そこでキッドが・・・」
ドミ「キッド・・・おいしいとこで登場しますね〜」
会長「で、少年探偵団と平和の2人も出して・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

ドミ「会長さん、これだけのアイディアがあるんだったら、ご自分で書けば良いのに」
会長「最近、年のせいか、体力が無くて、キーボード叩くのが骨でして」
ドミ「だーかーらー、私は会長さんより年上なんですってば。年上相手に、『年のせい』なんて言わないで下さい(怒)」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

ドミ「会長さん、とりあえず第1話、書き終わりました」
会長「ラストで蘭ちゃんが・・・、この後新一はさぞかし慌てまくる事でしょうね」
ドミ「当たり前じゃないですか、蘭ちゃんが危ないってのに、某オリジナルアニメのように冷静に行動したり、暢気にストローでジュース飲んでくつろいだり、あるいは、蘭ちゃんの命掛かってんのに、某江戸川乱歩賞作家の脚本映画のように簡単に絶望したりなんか絶対しませんよ!」
会長「それを聞いて安心しました。蘭ちゃんの事になると冷静でいられなくなる、それこそが新一のあるべき姿ですから。売らんかな主義で原点を忘れてしまった、どこぞのスタッフにも、是非とも見せ付けてやりましょう!」
ドミ「会長さん、それはまた、えらく毒のある事を・・・」
会長「それはドミさんの方だって・・・あ、いや・・・(コホン)。いやこの話、今後どうなるのか楽しみです。大いに期待できそうですね」
ドミ「って、今回の話、原案は会長さんでしょ?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

会長「さてこの先、蘭ちゃんはどうなるのでせう」
ドミ「て事で続きます、と・・・。会長さん、この話、全何話になるか、見当付きませんよ」
会長「お互い頑張って、年内には終わらせましょうね」



注)例によって上記の会話はフィクションですが、一部、事実も混じっています(笑)



「シャッフルロマンス・リベンジ(後編)」に戻る。  (2)に続く。