Adventure of the Christmas




byドミ(原案協力:東海帝皇)



(2)



「蘭を、蘭をどうしたっ!」

新一が激昂して叫ぶ。
新一の緊迫した声と言葉の内容に、その場に居合わせた者たちは皆、顔色を変える。

『ふふふ、察しが良いわね。Angelは私が預かっているわ』
「てめぇっ!!蘭に何もしてねえだろうなっ・・・!!!」
『今のところは無事よ。あなたたちが私の招待に応じてくれれば、あの子は返してあげる』
「そこはどこだ!蘭はどこに居る!?」
『○○よ。そう言えば、Sherryにはわかるわ。今夜9時までに来なければ、あなたのAngelの命は無いわ。じゃあ、待ってるわね、Cool-guy、ふふふ・・・チュ♪』
「あ、おい待て、蘭はっ!!」

しかしもう受話器からは、ツーツーという機械音が流れているだけだった。



新一は顔色を変え、そのまま飛び出して行こうとする。
平次が後ろから素早く羽交い絞めにして止める。

「待ちいや、工藤!!1人で何の準備もせんと飛び出してどないすんねん!!」
「離せっっ!!早く行かねーと、蘭が、蘭がっっ!!」

志保が新一の正面に来て言う。

「蘭さんが絡むと冷静な判断が出来なくなるのは相変わらずね。でも飛び出してってどうするつもり?蘭さんはどこに居るの?どうやって助けるの?今のあなたじゃあ、助ける前に殺されてしまうわよ。それじゃあ、まるで犬死じゃない」

容赦の無い志保の言葉。
しかしそれは確実に新一の頭を冷やす効果があった。

「わりぃ・・・」

新一が少し落ち着いたのを感じて、平次は新一を放す。

「黒の組織に残党がいて、蘭が攫われた。俺が1人で夜9時までに来れば、蘭を返すと・・・」
「工藤、そないな言葉、絶対に嘘やで!」
「わーってる。でも、俺は行く。どんな事があっても、蘭は必ず助け出す!!」

新一の揺るぎ無い瞳に、平次も志保も、折れるしかない。

「工藤くん、わかったわ。でも、準備はちゃんと整えないと。・・・場所はどこなの?」
「○○と言ってた。シェリーなら判る筈だと」
「○○・・・確か××の港周辺にあった組織の施設ね・・・元々製薬会社の研究施設だったけど、今は廃ビルになっている筈。ここから車でなら30分かからないわ。でもあなた、運転は出来ても免許と車が無いでしょ」
「スケボーを使うよ、博士に大人向けに改造してもらってる。・・・蘭には発信機のシールをいつも持たせてるから、追跡眼鏡を使って・・・」

ようやく新一の思考力が戻ってきた様子に、平次と志保はほっとする。



連絡を受けて、阿笠博士が急いでやって来た。
大急ぎで、様々な装備を抱えて来たのだ。
ボール射出ベルト、バージョンアップしたスケボー、大人用のキック力増強シューズ、防弾を兼ねた追跡眼鏡、そして――。

「これは、3連装式のデジタル腕時計型麻酔銃じゃ。麻酔針の連射が可能で、針の交換も簡単になっておる」
「助かるよ、ありがとう博士」
「そしてな、これには・・・」


各装備の説明を受けた後、新一はスケボーを起動させる。
ただならぬ雰囲気に、それまで口を差し挟むのを控えていた園子が叫ぶ。

「新一くん!蘭の事、お願いね!」

新一は手を上げてそれに応えると、スケボーを発進させた。



  ☆☆☆



交通課の宮本由美巡査は、年末近いこの時期に増える交通違反の取締りパトロールをしていた。
スピード違反の車を停車させ違反切符を切っていると、今捕まえた車より遥かに速いスピードで通り過ぎて行ったものがあった。

「ねえ由美、あれ、違反切符切れるのかしら」
「・・・私にそんな事訊かないで」

由美とその同僚が目撃したものは、猛スピードで車の間を縫って突っ走るスケボーであった・・・。







  ☆☆☆



「工藤くん、『1人で来い』って言われたって言ってたけど・・・『場所はシェリーに訊けばわかる』って事は、多分、本当は私と2人で来る様に言われた筈よね。全くもう、そういう所が・・・」

志保はぶつぶつ言いながら、阿笠邸で探し物をしていた。

「あったわ、予備の追跡用眼鏡!」

志保はそれを持って、阿笠博士の車、フォルクスワーゲンビートルへと向かう。



  ☆☆☆



交通課の宮本由美巡査は、猛スピードで走り過ぎる黄色のビートルを見つけ、止めて違反切符を切ろうとする。

しかし・・・

「ぶはっげほっごほっ、何なのこれ!?」

煙幕としか形容しようのない真っ白い排気ガスが多量に巻かれ、ビートルの姿を見失ってしまう。
白い煙で突然視界が遮られたため、通行中の車が皆慌ててブレーキを踏み、事故は起こらなかったが現場は大混乱となった。

「上等じゃないの!ナンバーはしっかり記録したからね、覚悟してなさい!」







  ☆☆☆



「たたた大変じゃ、志保君がおらん!おまけにわしの車がなくなっとる!」

阿笠博士が血相を変えて工藤邸に飛び込んで来た。

「ななな何やて!?いち早く工藤を追って行ったんやな!あの姉ちゃんに道案内してもらお思うとったのに、どないしよ!」

自分も新一を追って出かけようと準備していた平次は、頭を抱える。
そこへ、和葉と園子が血相を変えて飛んで来た。

「大変や、いつの間にかあのおちびちゃんたちがおらんで!!」
「鈴木家の車で家まで送り届けようと思ってたのに・・・!」

もうパーティの準備どころではなくなったし、子供たちを巻き込む分けにはいかないので、それぞれ安全に家まで送り届けるつもりだったのである。

「何やて!?まさかあいつら宮野の姉ちゃんの車に乗ってったんやろか・・・!?」
「あの子達の行動パターンからして、充分あり得るわい!これは困った事になったのう」

博士はおろおろと熊のように工藤邸のリビングを歩き回る。
平次は何とかして新一たちを追いかけようと頭をひねる。

「博士、バイクはあらへんやろか?バイクやったらどないなタイプでも運転できるで」
「バイク・・・!?おお、そうじゃ!有希子さんのバイクをメンテナンスの為に預かっとる!あれなら・・・」
「よっしゃあ!それと追跡眼鏡の予備、持ってへんか?」
「予備は志保くんが持って行ったが・・・まだ確か他にもあった筈じゃ」

阿笠博士は倉庫を漁って、もう1つの予備の追跡用眼鏡を探し出し、平次に渡した。



和葉は、色々と訊きたい気持ちがあったが、それをぐっと抑えて言った。

「平次、気ぃつけてな」
「和葉、警察への連絡を頼むで。姉ちゃんが攫われた事と、攫った相手は『黒の組織の残党』やって言うたら、通じる筈や」
「『黒の組織の残党』言えばええんやな、わかったで、まかしといてや!」
「ほな、行ってくるで」

そして平次はバイクを発進させ、工藤邸を後にした。



  ☆☆☆



交通課の宮本由美巡査は、暴走するバイクを見つける。

「私の前で交通違反をしようとは、いい度胸じゃない!!」

しかしそのバイクは、白バイ顔負けのテクで、すさまじいスピードで車の間を縫って走り抜け、あっという間に視界から消え去ってしまった。

「くっ、上等じゃない!ちゃんとナンバーは記録してるからね、覚悟しときなさい!!」



しかしそれから数時間後、由美は捜査1課に居る友人の佐藤美和子警部補からの連絡で愕然とする事になる。

「・・・だからね、そのビートルとバイクの事は忘れて、記録も抹消しなさいって」
「どう言う事なのよ、美和子!?」
「さあ私も詳しい事は知らないわ、ただ、『上からのお達し』だって事よ」
「んもう、今日は一体何だって言うのよ〜〜〜っ!!」

師走の寒空に、宮本由美巡査の絶叫が響き渡った・・・。







  ☆☆☆



「何だって、蘭君が攫われた!?『黒の組織の残党』!!?・・・くっしまった・・・!!」

和葉から連絡を受けた目暮警部は歯噛みする。
敵が、工藤新一唯一最大の弱点・毛利蘭を狙う事は、当然の事として予想しておくべきであった。

「工藤君の耳にも入れておけば・・・」

しかし今更悔やんでも仕方が無い。
今できる事をするのが先決である。

目暮警部は、すぐさま各方面に連絡を入れる。







  ☆☆☆



雪の中、半分埋もれかけた赤いバッグと買い物袋。
それを偶然通りかかったある少年が拾う。

「何でこんなところに・・・」

落とし主が判らないだろうかとバッグの中身を見てみると、財布や携帯と共に、生徒手帳が入っていた。
帝丹高校3年に在籍中であることを示す顔写真入の手帳。

「これは・・・!」



通りかかったのは偶然。
落し物を拾ったのも偶然。

しかし、その後の行動は、偶然ではない。




「借りはきっと返すぜ、名探偵!!」







  ☆☆☆



車を運転中の黒いベレー帽の男は、無線で連絡を受けて、歯噛みする。

「奴ら、毛利蘭さんを攫ったようだ。くっ、警告しておいたのに、日本の警察も不甲斐無い!」

助手席に座っているロマンスグレーの髭の外人が、応えて言う。

「赤井君、それは言ってもせん無い事だ。警察だけに任せては置けない、我々も行こう!」
「ええ、勿論ですよ。絶対あの女の良い様にはさせない。目にもの見せてやります!」







  ☆☆☆



蘭は目を覚ました。

冷たいコンクリートの床の上に転がされ、身動きが出来ないようにしっかり縛られている。
次第に頭がはっきりしてきて、気絶する前に何があったかを思い出した。

「ジョディ先生が何で・・・?」

買い物の帰り道に出会ったジョディが、自分に向けて素早く何かをスプレーした。
その後の記憶が無い。
おそらく意識を奪う薬だったのだろう。


「お目覚めのようね」

声が掛かる。
蘭は顔をあげて声の主を見る。
金髪で、少しきつい青い目をした素晴らしい美女。
世界中でおそらく知らない者はないであろうその顔。

「あなたは・・・クリス・ヴィンヤードさん!?」







(3)に続く

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<恒例の、後書代りの東海帝王会長とドミの対談>

ドミ「やっぱりジョディ先生の正体はクリス・ヴィンヤードだったんですね!でもだったら何故今まで何の行動も起こさなかったんでしょう?組織崩壊の時も逃れていたようですし」
会長「そこら辺はおいおいと・・・まあ、楽しみにしててください♪」
ドミ「文を書かないといけないのは私なんだから、勿体ぶらずに教えてくださいよ」
会長「ところで、交通課の由美さんが、今回良い味出してますね」
ドミ「(会長さん、はぐらかしたな・・・)ちょっと可哀想だった気もしますが・・・」
会長「志保さんと平次だけでなく、どうやら少年探偵団まで新一を追って乗り込んで行ったようで、今後どうなって行くのか、それぞれどう活躍するのか。今回出て来た謎の少年も、この先どんな風に関わってくるのか、楽しみです」
ドミ「この先、警察の人たちもたくさん出てくるようですし・・・登場人物増えると長くなっちゃって、書くの楽しいけど、やっぱり大変です」
会長「いつもお疲れ様。俺も1読者として楽しみにしてるので、頑張ってくださいね」



注)例によって上記の会話はフィクションですが、一部、事実も混じっています(笑)



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