Adventure of the Christmas




byドミ(原案協力:東海帝皇)



(3)



「クリスさん、何故あなたが?それに、ジョディ先生は!?」

蘭が目の前にいるクリス・ヴィンヤード・・・ベルモットに尋ねる。
ベルモットは、笑みを浮かべるが、その瞳に憎しみの色が浮かんでいる事を蘭は感じる。

「ジョディ?ふふふ、そんな人間はいないわ。あなたがジョディ先生と呼んでいたのは、別の人物の仮の姿なのよ」

蘭は、ベルモットの言葉を聞きながら、その声をどこかで聞いた様な気がして考え込む。
映画の中ではなく、もっと別のところで、確かに聞いたことがあるのだ。
けれどそれが、何時何処でだったか、蘭には思い出せなかった。

「まさか・・・あなたがジョディ先生に変装していたの?」

ベルモットは答えなかった。

蘭は悲しくなる。
ジョディとの今までの関わりが、全て嘘だったなんて、信じたくなかった。

泣き始めた蘭を見やって、ベルモットが声をかける。

「可愛いAngel、泣いてるのね、怖いの?」
「うっ・・・ジョディ先生が、今までの事みんな嘘だったなんてっ・・・!」
「・・・驚いた事、自分の身が危ういと言うのに、そんな事を考えて泣いているの?本当に、あなたって子は・・・可愛いわねえ。心配は要らないわ、もうすぐあなたのナイトが飛んで来るだろうから」

蘭は息を呑む。

「新一には手を出さないで!」
「オッホホホ、とうとう顔色を変えたわね!あのCool-guyをhotにさせる事が出来る唯一の存在がAngel、そして、あなたをAngelからただの人間の女に引き摺り下ろす事の出来る唯一の存在が、あの子だという訳ね、フフフフフ」
「クリスさん・・・!!」

ベルモットは笑いを収めると、睨むように蘭を見る。

「その名で呼ばないで!今の私の名は、ベルモット。それ以外に名前など無いわ!」
「ベルモットさん・・・。お願い、私はどうなっても良いけど、新一にだけは手を出さないで!」
「フフフ、そんなわけには行かないわ。あなたには何の恨みも無いのに、何故攫ったと思ってるの?Cool-guyとSherryをおびき出すための餌なのよ、Angel、あなたはね」
『Sherryって事は、志保さんも・・・?』
「それに、どうなっても良いなんて、軽々しく口に出しても良いの?死んだ方がマシと思わせるような苦痛を与える方法はいくらでもあるのよ」
「え?」
「フフフ、可愛いAngel、女の場合は、屈辱を与える事だって出来るわ。あなたは苦痛に身をよじって泣き叫んで許しを請うかしら。それとも、快楽に溺れてしまって、2度とCool-guyに顔向け出来ないようになってしまうのかしら。楽しみね、フフフ」
「・・・・・・!」

蘭は真っ青になり、しかし決して負けまいと唇を噛み締める。

「まあ、残念ながら、我々のやり方じゃないから、そんな事はしないけれどね、フフフ」

ベルモットは、どこか楽しそうに言う。







  ☆☆☆



「警察などが、今更俺に何の用だ」

囚人服を着たジンが、眼光鋭く面会相手を見据える。

高木刑事は、自分にはその片鱗しか知らされていない謎の地下組織の幹部に近い存在だった男を相手に、緊張した面持ちで口を開く。

「毛利蘭さんが攫われた」
「毛利蘭?工藤新一の女か。あの女をマークしておかなかった事が、組織の最大の失敗だったな」
「攫ったのは、貴方が属していた組織の残党だ。心当たりがあれば、教えて欲しい」
「・・・俺が素直に教えると思っているのか?」
「いや。だが、どんな小さな手掛かりでも可能性でも、試せるものは全て試してみたい」
「組織の残党など、限られている。攫ったのは、ベルモットだろう。とすれば、おそらく場所は××の港にある、製薬会社の廃ビルだ」
「・・・ありがとう、恩に着るよ」
「お前、警官らしくないな。俺が本当の事を言ったと信じているのか?」
「信じている、とは言えないが、真実を話している可能性もあるだろう」
「そうだな」
「ところで、訊いても良いか?何で話す気になったんだ?」
「あのお方が亡くなって組織が崩壊した今、残りの連中が何しようが、俺には全く興味はねえ。それだけの事だ」



高木刑事が去った後、ジンは深く息を吐く。

「・・・不憫な奴らだ。この分だと、地獄への道連れが増えそうだな」







  ☆☆☆



黄色のビートルが、ある港町の、廃ビルやシャッターが閉まったままの倉庫が建ち並ぶ人気の無い通りの一角に止まる。
ビートルから、茶髪を肩の上で切り揃えた切れ長の目をした美女が降り立つ。

阿笠博士の養女、阿笠志保である。

「どうやら、土地勘がある分、工藤くんより一足先に着いたようね。組織は崩壊して主だった人は皆捕まったというのに、ベルモット、一体あなたは何を考えているの?」

志保は、迷う事無くあるビルへと足を進める。
その廃ビルには、昨年倒産したある大手製薬会社の壊れかけた看板が掛かっていた。




志保が廃ビルに入って間もなく、ビートルの後部ドアが開き、小さい人影が3つ降り立つ。

吉田歩美、円谷光彦、小嶋元太・・・帝丹小学校2年生、少年探偵団の3人組である。

「蘭お姉さんは、私たちの大切なお友達で・・・コナンくんと新一お兄さんの大切な人なんだもの、絶対に助けなくちゃ」

歩美が目を潤ませながら、何かを決意したように唇を引き結んで言った。
元太が気遣わしげに歩美を見る。

「歩美、おめえさ、どうしたんだ?新一兄ちゃんと何かあったのか?」
「元太くん、変な事言わないでよ!何もあるわけないじゃない!」

光彦も少しイラついた口調で口を挟む。

「とにかく、急ぎましょう!志保さんが1人で乗り込んで行ったんですよ、早く助けないと!」
「おい光彦、助けるのは蘭姉ちゃんじゃなかったのかよ」
「もう元太くんったら!蘭お姉さんも志保お姉さんもどっちも助けなくちゃいけないでしょ!」

3人は志保を追って廃ビルの中へと入って行った。







  ☆☆☆



小さな人影が廃ビルの中へ消えて僅か数分後、スケボーが廃ビルの前に到着した。

「・・・!阿笠博士のビートル!まさか宮野、あいつ・・・!」

スケボーから降り立った青年――工藤新一は、眼鏡に映る光点を見詰めて、迷う事無く、先ほど志保と少年探偵団の3人組が入って行った廃ビルへと駆け込んで行く。







  ☆☆☆



「ベルモット・・・お客さんですぜ。シェリーと・・・ガキ3人です」

部屋に入ってきたサングラスの黒ずくめの男が言った。

「あらあら、ウォッカ、工藤新一は来てないの?Angel、残念ねぇ、あなたのナイトは来ないようね。全く期待外れもいいところだわ」

蘭は何も言わず、真っ直ぐにベルモットを見る。

「フフフ、信じているのね、Cool-guyを。でも、どこまで信じる事が出来るかしら?取り敢えず、お客様たちの歓迎の準備をしなければ。じゃあまたね、Angel」

ベルモットはウォッカを伴って、部屋を出て行った。







  ☆☆☆



「蘭!!」
「え?新一!?」

蘭は身近に降って来た愛しい人の声に驚く。

「良かった、怪我はねーようだな」

紛れも無い新一の姿を見て、蘭の涙腺は緩む。

新一はどうやってか、誰にも気付かれずに進入して、蘭の所までたどり着いたようだ。

「全く泣き虫だな、おめーはよ」
「だ、だって・・・」
「待ってな、今その縄を解いてやっから」
「新一、志保さんと歩美ちゃんたちがここに来てるらしいの」
「何だって!?宮野だけじゃなく、あいつらまでもか!?」
「うん、子供が3人って言ってたもん、間違いないよ。早く助けてあげて」
「わーった、おめーは先に外に出てろ、俺が必ずあいつらを助けるから」

新一は蘭を縛り付けているロープを解こうとしていたが、急にその手が止まる。

新一の顔が一瞬険しくなったかと思うと、不意に蘭を抱きしめた。

「新一?」
「・・・蘭。落ち着いて聞いてくれ。おめーの体を縛っている縄は、無理に解こうとすると、爆発するようになっている」
「・・・・・・」
「まず、爆弾解体をしなくちゃなんねえけど・・・俺1人じゃ無理だ」
「・・・・・・新一」
「蘭、信じて待っててくれるか?絶対、何があっても、必ずおめーを助けに戻って来っから」
「うん、新一。待ってる・・・」

新一は蘭を抱きしめ、唇を重ねる。

「蘭、愛してる。必ず、助けるから!」

そう言い置いて、新一は蘭の傍を離れ、一回気遣わしげに振り返った後、駆け出して行った。


新一を見送った蘭は、祈るように呟いた。

「新一、気をつけて。そして、志保さんと子供たちの事、お願い・・・」







  ☆☆☆



「シェリー、あなた1人で乗り込んで来るとは、いい度胸じゃない」
「ベルモット!蘭さんを帰しなさい!」
「あなたが友情とやらいう幻想に惑わされるような女だったとは、意外ね。それとも、決して自分の物にはならない惚れた男の為に、そこまで自己犠牲をする訳?馬鹿馬鹿しくって涙が出そうだわ」
「自己犠牲?惚れた男のため?何を勘違いしているか知らないけど、私が動いているのは、そんな事の為では無いわ」
「フフフ、隠さなくっても、私には判るわ。あなたはCool-guyに惹かれているのでしょう?でも残念ねえ、彼はAngelの事しか見ていないのよね」
「工藤くんが蘭さんの事しか見えていないのは、先刻承知よ!彼が大切にしている世界を私も守りたいと思ったのは、私にとっても大切なものが、そこにあるからよ。お姉ちゃんが組織に殺されて、私には何も残っていないと思っていた。でも、私を家族として迎えてくれた人が、友達として慕ってくれた人達がいた。己の欲望の為に家族との繋がりまで切り捨ててしまったあなたになど、永久に分からないわ!」
「くっ……!」

ベルモットの顔が憤怒と憎しみの表情に歪む。



その時、不意に部屋のドアが開いて、ウォッカが入って来た。

「ベルモットさん、うろちょろしている子ネズミを1匹捕まえて来やしたぜ」

ウォッカに襟元を捕まえてぶら提げられているのは、少年探偵団の1人、円谷光彦だった。

「は、離せっ!」

光彦がわめいて暴れる。
志保は目を見張って言った。

「円谷くん・・・あなた、どうして?」

するとそこに、歩美と元太が駆け込んでくる。

「光彦くんを放して!」
「悪人め、俺たち少年探偵団が相手だぞ!」
「歩美ちゃん、小嶋くん、あなたたち、いつの間に!?」

志保が焦ったように叫ぶ。

「フフフ、Sherry、泣かせるじゃない?オチビちゃんたちの麗しき友情ってわけね」

ベルモットは楽しそうに言うと、志保の足元に小さなカプセルを投げて寄越した。
志保が訝し気にそれを拾い上げて見る。

「これは?」
「Sherry、このオチビちゃんの首を捻られたくなかったら、それを飲みなさい」
「ま、まさかこれ!?」
「アポトキシン4869Σ(シグマ)・・・誰が飲んでも幼児化することは決して無い。もうあなたや工藤新一が、灰原哀や江戸川コナンの姿になる事は無い。究極の毒薬よ!」

ベルモットの言葉に、少年探偵団の3人は固まる。

ウォッカに襟元を掴み上げられたままの光彦が、志保を見詰めて言う。

「志保さん・・・あなたは、灰原さんだったんですか!?」

志保は答えず、その瞳が寂しげに揺れる。

「コナンくん・・・新一お兄さんが、コナンくんだったんだ・・・」

歩美が呆然としたように呟き、その様子を元太が気遣わしげに見る。


「灰原さん!」
「うるせえガキだ!」
「ぐぅっ!」

叫ぶ光彦の首を、ウォッカが締め上げる。

「光彦くん!」
「光彦!」

「止めて!!」

志保が叫ぶ。

「Sherry、さあ、飲みなさい!あなたの小さなお友達・・・それともナイトなのかしら、フフフ。殺されたくなかったら、飲むのよ!!」

志保は光彦と歩美たちに目を走らせると、意を決したようにカプセルを口元に運ぶ。

「灰原さん、飲んじゃ駄目だ、僕の事は良いから、灰原さーん!!」
「円谷くん・・・」

志保はちょっと悲しそうに微笑んで見せると、カプセルを口に含もうとした。


「哀ちゃん!」
「灰原!!」
「灰原さーーーーーん!!!」

少年探偵団の悲痛な叫び声が響き渡った。







(4)に続く


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<恒例の、後書代りの東海帝王会長とドミ(+α)の対談>



会長「ああ、志保さんは一体どうなってまうのでしょうか」
ドミ「それは次回のお楽しみと言う事で」
会長「お楽しみって、あなたね。・・・それはそれとして、これは全5話位で終わるかな」
ドミ「いや、最低6話は行きますよ、次回は爆弾解体だし」
会長「あ、そうか。警察が動き出すエピソードもありますし、まだまだ先は長そうですね」
ドミ「誰かさんが欲張って登場人物増やすから。書く方の身にもなって下さいよ」
会長「でも、由美さんまで出したのは、ドミさんでしょ♪」
ドミ「うっ、そ、それは・・・・。あ、会長さん、そういう事で私は続きを書かなくちゃいけないから、これで失礼しますね、じゃ(そそくさ)」


会長「ドミさん、・・・行ってしまった。何をあんなに慌てているんだろう」
新一「おい、ドミはどこだ!(息せき切って登場)」」
会長「おや、君は新一君じゃないか。何故こんなところに?」
新一「おめーが会長か!!今回のあれは何だ!!『許しを求めて泣き叫ぶ』だの、『快楽に溺れてCool-guyに顔向け出来なくなる』だの、蘭を侮辱すんのもいい加減にしろ!(会長の襟首を掴みあげる)」
会長「わー、待ってくれ!あの部分を考えたのは俺じゃない、ドミさんだ!」
新一「そもそも蘭が攫われて監禁されたり爆弾取り付けられたりするアイディアを出したのは会長、おめーだろうが!おめーも同罪だ!」
蘭 「新一、どうしたの?」
会長「あ、蘭ちゃん、いい所に!新一くんの誤解を解いて、助けてくれ〜」
蘭 「あ!あなたが会長さんね!?(ペキパキ、指を鳴らす)覚悟はいい?」
会長「ひ、ひえぇぇぇぇぇっ!!!」



その後、しばらくの間会長の姿を目にした者はいない。

合掌。





注)上記の会話はフィクションであり、一部、実在の人物などを元に描いているように見えても、それは全て気のせいです。



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