Adventure of the Christmas




byドミ(原案協力:東海帝皇)



(4)



「まだ毛利くんには連絡がつかんのですか!?」

目暮警部が携帯電話に向かって怒鳴る。

『毛利探偵は携帯の電源を切っておられるようです・・・』

電話の向こうで白鳥警視が申し訳なさそうに言う。

キャリアである白鳥は昇進が早く、すでに目暮より階級が上になっているが、今でも目暮警部を立てることは忘れず、物腰は丁寧である。

「落ち着け、目暮!」

と、捜査1課管理官・松本清長警視がたしなめる。

そこへ、火災犯捜査1係から駆り出されている弓長警部が呟く。

「高木がもたらした情報はどこまで信用できるんだろう・・・」

かつて弓長警部の部下として火災犯捜査1係に所属していた事のある毛利小五郎の娘の事だけに、心配そうな口調であった。

「出来ればガセで無い事を祈るよ。とにかく無事でいてくれれば・・・」

松本警視が呟く。
松本警視にとっても、かつての部下の娘と言うだけでなく、かつて自分の娘の教え子でもあった工藤蘭の事は心配であった。


警察は、高木刑事がもたらした情報を元にして、××の港周辺を重点的に調べているが、ガセネタの可能性もあるため、他への捜査も怠らない。



「こちら千葉、上空から特に変わった様子は伺えません!」

警察無線に、ヘリの爆音と共に、千葉刑事の連絡が入ってくる。


「横浜港を中心に捜査をしていますが、こちらには特に変わった様子は見られません」

神奈川県警の横溝重悟警部から連絡が入る。

横溝重悟の兄、静岡県警所属の横溝参悟刑事は、たまたま警視庁の方に出張で来ていたのだが、

「毛利蘭さんの一大事とあらば、自分にも是非協力させて下さい!」

と、捜査に協力していた。





千葉県警からも変わった様子なしの連絡が入って来る。

東京湾を望む一帯で、周辺の県警まで巻き込んで多数の警官が動員され、広範囲に捜査が進められていた。



  ☆☆☆



警視庁捜査2課。



怪盗キッドが再び姿を現さなくなってから暇こいている中森銀三警部は、捜査1課の慌しい動きに眉を顰める。

年末には確かに事件が多く、警察は忙しいが、この雰囲気はただ事では無い。

中森警部は、様子を探ってきた部下に訊いてみる。

「おい、何事だ!?」
「眠りの小五郎の娘で、高校生探偵・工藤新一の新妻である工藤蘭さんが、上層部にしか知らされていない謎の組織に攫われたそうです」
「高校生の癖に新妻だあ?っておい、工藤新一って言ったな?」
「はあ」
「そうか、あいつには娘の青子の事で借りがある。個人的には、奴も毛利小五郎も気に喰わんが、借りは返さんとな」
「あ、そうか、警部の娘さんがこの前攫われた時、助けたのが工藤新一と怪盗キ・・・」
「その名を言うなあ、胸くそ悪い!!」

怪盗キッド。

中森警部が長年追い続けている泥棒は、ここ1年ほど活動を停止していたくせに、この秋、中森警部の娘の青子が謎の組織に攫われた時だけ久々に姿を現し、工藤新一に協力して青子を助けた。
そんなキッドに対して、中森警部はどうしたって複雑な気持ちを抱かざるを得ない。

とりあえず中森警部は、「気に喰わないが借りがある」相手を助けるために、捜査1課に協力の申し出をしに行った。



  ☆☆☆



警視総監室。



『と言う訳で、警視総監。』
「ふむ、ふむ、そうか。」

白馬警視総監は小田切敏郎警視長と電話で会話をしていた。

「では小田切くん、頑張ってくれたまえ」

電話を切った後、白馬警視総監はたまたま訪ねて来ていた息子の探に話しかける。

「大変な事になったのう、探」
「そうですね・・・だけど工藤くんならきっと大丈夫ですよ」
「そうか、お前がそう言うんならきっと大丈夫だろう」

警視総監は安心したように言う。

警視総監の息子であり、高校生探偵でもある白馬探は、窓の外を見詰めながら自分と同じ高校生探偵である工藤新一の事を考える。

同時に、最近姿を現さないある怪盗の事も考えていた。



『もしかしたら、彼も今回の件では動いているかも知れない』



  ☆☆☆



大阪府警察本部。



本部長室で、服部平蔵本部長と遠山刑事部長が会話をしていた。

「平蔵、今日はうちの和葉がお前んとこの平次くんと一緒に、東京の工藤新一くんの所に遊びに行っとるみたいやで」
「おお、俺もそれは知っとるで。何でもクリスマスパーティとやらをやる言う話やな」

そこへ電話が鳴り、平蔵が受話器を取る。

「はいこちら服部・・・お、これは白馬警視総監でっか・・・はい、はい、へ!?」

平蔵の顔が厳しく引き締まる。

「!」

遠山刑事部長も表情を引き締めて平蔵の方を見やる。

「はい、はい、はい、わかりました・・・どうも、おおきに」

平蔵が電話を切ると、遠山が尋ねてくる。

「どうした平蔵、何があったんや」
「遠山、毛利探偵とこの蘭さんが攫われてもうた」
「何やて!?」
「例の組織の残党の仕業らしいんや」
「けど一体何のために?」
「それはまだわからん。ただ、平次たちがあっちに行っとるで、工藤くんの力になってくれるはずや」
「せやな、平次くんがおるなら工藤くんも心強いで。ただ、和葉が余計な事して危ない目に遭わなければええんやけどな」







工藤新一を中心としたメンバーが壊滅させた謎の地下組織――その残党が毛利蘭を攫った。

事の重大性に、警察はその総力を挙げて蘭と誘拐犯との捜索を進めていた。







  ☆☆☆



「ここも行き止まりや・・・ほな、こっちの道はどないや?」

服部平次は追跡眼鏡を頼りに進んでいたが、土地勘の無い東京の道に、悪戦苦闘していた。

「工藤、姉ちゃんたち、俺が行くまで無事でおるんやで!!」

平次は必死にバイクを走らせる。








  ☆☆☆



草津温泉の旅館にて――



毛利小五郎・英理夫妻は、温泉を満喫してすっかりご機嫌であった。

英理が髪を纏め直しながら言う。

「ふう・・・。やっぱり温泉は良いわね。日頃の疲れが洗い流されて、温まってとってもいい気持ち」

くつろいだ表情の小五郎が、英理を見詰めながら答えて言った。

「ここはお湯が良いし。混浴の露天風呂でもあったら、もっと良かったんだがな」

途端に、英理の額に青筋が立った。

「あなた・・・若い女性がそうそう混浴のお風呂に入ると思ってるの!?」
「わわわっ、そーじゃねぇ、英理、おめーと入りたかったんだよ!」
「え?あ、あら」

英理は真っ赤になる。

「あなたが照れずにそんな事言うなんて、珍しいじゃない」

英理がもじもじしながら恥じらった表情で言う。

「まあ、たまには・・・な。せっかく旅行に来てるんだしよ・・・」

小五郎も少し赤くなってそっぽを向きながら言った。
恥じらった英理の顔がとんでもなく綺麗で色っぽいと思った小五郎だが、それは口には出せない。
そんな顔をよその男に見せてくれるなと内心で呟くのみだ。

「鴨鍋ですってよ、あなた好きでしょ?早く頂きましょうよ」
「ああ」

小五郎は食事の前に携帯電話の電源を入れる。
無意識の内に行う作業で、習慣になっているのだ。

ご馳走を前にして乾杯し、ビールに口をつけようとした瞬間、早速携帯のコールが鳴り、小五郎は眉を顰める。
溜息を吐きながらジョッキを置き、携帯に手を伸ばす。

「誰だあ今頃。・・・はい毛利です」

小五郎の向かい合わせに座って料理に箸を付けようとしていた英理が、訝しげに小五郎を見た。

「は?白鳥警視、今日は一体何の用で・・・何!?蘭が!!?」

小五郎の顔が険しく引き締まる。

「あなた・・・!蘭に何が!?」

英理の顔も険しくなる。



「英理、すぐに帰るぞ!蘭が攫われた!」
「何ですって!?」
「詳しい事情は判らねーが、とにかく急いで帰らねーと!」

2人は急いで浴衣から服に着替え、慌しく荷物を纏めると、仲居に断りを言いフロントで支払いを済ませ、旅館から出て行こうとする。
すると、どこかからパトカーのサイレンが聞こえ、旅館の前に止まった。
中から出てきたのは群馬県警の山村ミサオ刑事である。

「毛利さん、僕たちが先導します!」

いつもはへっぽこな山村刑事の顔が、今日はきりりと引き締まっている。

「山村刑事・・・!ありがたい、よろしく頼む!」

毛利夫妻はレンタカーに乗り込むと、群馬県警のパトカーに先導されて、東京へと向かって行った。







  ☆☆☆



「灰原さん、飲んじゃいけない、灰原さーーーん!!」

光彦が叫ぶ中、志保はアポトキシン4869Σのカプセルを口に含もうとしていた。

その時――。


ドカッ!!


突然飛んできたサッカーボールが、志保の手にあったカプセルを吹き飛ばした。

「誰だっ!!」

ウォッカが振り返る。
が、次の瞬間、ウォッカは意識を失って倒れ込んだ。
開放されて床に放り出された光彦が、激しく咳き込む。

「フフフ、来たわね、Cool-guy」

ベルモットが妖しく微笑んで言う。

「工藤くん!」
「新一お兄さん!」
「新一さん!」
「新一兄ちゃん!」

皆の視線が集中する先に、工藤新一が立っていた。

「おめーは・・・!クリス・ヴィンヤード!!やっぱりおめーは黒の組織の人間だったんだな!」
「フフフ、私の名はベルモットだと言った筈よ、Cool−guy?」
「てめぇ!ベルモット!!蘭をあんな目に遭わせやがって、ぜってー許さねぇ!」

新一が凄み、少年探偵団はその迫力にびびるが、ベルモットは動じなかった。

「フフフ、Cool-guy、流石ね、先にAngelの所に行くとはね。でもそれなら貴方には判っているでしょう?今私に危害を加えたりしたら、Angelがどうなるか、フフフ」
「くっ!」

新一が歯噛みする。

「工藤くん、蘭さんは?」

志保が気遣わしげに訊くが、新一にはそれに答える余裕が無いようだった。
代わりにベルモットが言う。

「フフフ、Angelなら、向こうの部屋で縛られているわ。縄を解くと爆発する仕掛けになっているから、爆弾を解除して欲しいんでしょう?でも甘いわよ、Cool-guy、私が何のためにAngelを餌にして貴方たちを呼び寄せたと思っているの?」
「ベルモット・・・!貴様・・・!!」
「フフフ、Cool-guy、女相手に『貴様』とか『てめー』とか・・・、Angelが絡むとフェミニストの顔をかなぐり捨てるのねえ。フフフ、あなた達は皆ここで死ぬのよ!組織を崩壊させたCool-guy、そして組織を裏切ったSherry、2人とも許す事など出来ないわ!Angelとオチビちゃんたちは気の毒だけど、運命と思って諦めなさい。あの世への道行きに連れて行くがいいわ!フフフフフ・・・」

新一は歯噛みし、少年探偵団は恐怖と怒りで身を震わせる。

「酷い、ひど過ぎるわ!」
「なんて野郎だ!」
「あなたには人の心というものがないんですか!?」

少年探偵団が口々に言うが、ベルモットは鼻で笑う。

「ふん、何とでも言いなさいな」

ベルモットは楽しげに言葉を続ける。

「フフフ、死にたくなかったら神様にでも祈るのね。もっとも神なんてこの世には居やしないけど?」

『神なんて居ない?この言葉・・・!』

ベルモットの言葉に新一は引っかかったが、今はそれどころではない為、すぐに頭から振り払う。

「あなただって組織の裏切り者でしょ?組織が崩壊しても逃げ果せているあなたですもの。『あのお方』も死んでしまったし、今更私たちを殺すのが、忠誠心からとはとても思えないわ」

冷静な声で志保が言った。
ベルモットの顔から、嘲笑の表情が消え、憎しみに満ちた目で志保を睨みつける。

「くっ、Sherry、小娘が!お前から真っ先に血祭りにあげてやるわ!」

ベルモットが銃を取り出し銃口を志保に向けようとした。
新一が素早くボール射出ベルトからサッカーボールを出して蹴ろうとしたが、それより早くベルモットの腕にしがみ付いた者が居た。

「What!?」
「絶対灰原さんを死なせたりしませんよ!」
「俺たち少年探偵団をナメんなよ!!」

ベルモットの、銃を持った右手に光彦が、反対側の左手に元太がしがみ付いていた。

たった今まで眼中になかった少年探偵団の思い掛けない働きに、ベルモットは焦る。

「Shit !! Urchins, release my arms!!」

ベルモットは腕を振り回し、必死で光彦と元太を振り払おうとする。


ドカッ!!


今度のボールはベルモットの右手にヒットし、銃が飛んで行った。
歩美がそれを素早く拾い上げて志保に渡す。
志保はその銃でベルモットに狙いを付けた。

「・・・形勢逆転ね」

ベルモットの顔が阿修羅の表情になる。

「おのれ、小娘!!」

ベルモットは掌の中で何かを握り締めた。
新一が気付いて叫ぶ。

「おい、おめー、今何をしたっ!」

ベルモットの顔は再び嘲るような余裕の笑みの表情になる。

「フフフ、察しが良いわね、Cool-guy、Angelの体に取り付けた爆弾、今時限装置のスイッチが入ったわ!猶予時間は30分間よ!」

新一は顔色を変えた。

「宮野、あいつらの事頼む!急いで脱出してくれ!」

そう言い捨てると、新一は身を翻し、蘭の元へ向かって駆け出して行った。

なおもベルモットに銃口を向ける志保に、ベルモットは余裕の表情で言う。

「フフフ、Sherry、こんな所で油売ってて良いの?Cool-guyとAngelは確実に死ぬわよ。それとも、自分に振り向いてくれない憎い男と恋敵は、纏めてあの世に行ってくれた方が貴女にとっては幸いなのかしらね、フフフ」
「見損なわないで!工藤くんならきっと何とかするわ」
「フフフ、そこまで信頼するのは貴女の自由だけれど、今度ばかりはCool-guyにもどうにもならないわ。あの爆弾、3箇所で同時に解体作業しなきゃ即爆発してしまうのですもの!!」
「何ですって!?」
「Cool-guyにもそれは判っている筈よ、フフフ」

志保は唇を引き結ぶと、くるりと踵を返す。

「円谷くん、小嶋くん、歩美ちゃん!あなた達は急いで脱出して!」
「僕たちも爆弾解体を手伝います!見捨てて逃げるなんてそんな事出来ません!」
「そうだぜ、ベルベルト(←注:誤植ではありません)は、3箇所同時に解体作業しなくちゃ駄目だって言っただろ?新一兄ちゃんと灰原だけじゃ足りねーじゃねーか!」
「哀ちゃんも、新一お兄さんも、少年探偵団の仲間だもの!それに、蘭お姉さんだって、私たちの大切なお友達だもの!」

少年探偵団の3人は、志保に付いて走りながら口々に言った。

「あなた達は・・・!」

志保の瞳が揺れる。
それ以上志保は何も言わず、新一と蘭の元へと急いだ。


「フフフ、せいぜい頑張りなさいな。Good luck, Cool-guy、チュ」

ベルモットは妖しく微笑むと、床に倒れたままのウォッカには目もくれず、その場を立ち去った。



  ☆☆☆



「蘭、すまない・・・!」
「いいよ、新一。ありがとう、ここまで来てくれただけで十分だよ。死ぬのが怖くないって言ったらウソになるけど、もう何も思い残すことなんて無い!・・・新一、行って!私の事は忘れて、誰か見つけて幸せに・・・!」
「蘭!!おめーを失って俺だけがのうのうと生きていけると思うのか?幸せになれると思うのか!?ぎりぎりまで、何とか方法を探してみる!それでも、もし駄目だったら、その時は勘弁な」
「新一・・・!!」
「死ぬ時は、一緒だぜ」

新一は万感の思いを込めて蘭を抱きしめ、口付けた。



「あのー、お取り込み中の所、悪いんですけど」

光彦がおずおずと新一に声を掛ける。
部屋の出入り口に、真っ赤になった少年探偵団の3人と、呆れたような半目をした志保が立っていた。
2人の世界に浸っていた新一と蘭は、文字通り飛び上がる。

「うわわっ、おめーら!脱出しろって言っただろうが!!」
「工藤くん、無駄口叩いてる暇は無いわ!爆弾解体には人手が要るんでしょ。さあ、指示して!私たちがどう動けば良いか」

志保の冷静な言葉に、新一は素早く頭を切り替える。

「判った!宮野はそっちのポイントで、そして歩美ちゃん、元太、光彦、おめーらはドアの所にあるポイントでの作業を頼む!」

少年探偵団には、万一の時には爆風を避けて脱出可能なポイントを割り振る。
こういった時でさえそんな配慮を忘れない新一に、志保は微笑む。

『そういった貴方だからこそ、結局皆貴方に惹かれて協力するようになるのだわ、男女問わずね』

志保は決して自分の物にはならない男を、むしろすがすがしい思いで見つめていた。



新一が作業の手順とそのタイミングを、事細かく指示する。
志保と少年探偵団はそれぞれのポイントに散らばる。
タイミング合わせのカウントは、歩美が担当する事になった。
光彦は緊張した面持ちで鋏を握った。
ここで間違うと、新一と蘭だけでなく、志保の命も危うい事が判っていたからだ。

少年探偵団が作業する場所は、万一の時でも辛うじて爆発に巻き込まれずに済む所。
いざという時は、元太が素早くドアを閉めて3人脱出する事になっており、これは絶対に指示を守るようにときつく言い渡されていた。

『新一さんも、蘭さんも、そして・・・灰原さんも!絶対に死なせたりしませんよ!』

光彦は固く心に誓う。

歩美は、皆に聞こえるよう大きな声でカウントする為に、呼吸を整えている。

『新一お兄さん・・・ううん、コナンくん!歩美の事が一番でなくったっていい、絶対に死なないでね』

切ない思いを振り払いながら、歩美は祈る。







「1、2、3、4、5、6、・・・」

歩美の声に耳を傾けながら、新一と志保と光彦は、同じタイミングで回線を切断していく。
3人共に脂汗を滲ませながら、作業は進行して行った。

そして、緊張に満ち、何時間にも感じられた20分間が過ぎ、タイムリミットまで後2分というところで、無事爆弾解体が終了した。


「やった、やりましたよ!灰原さん!」
「新一お兄さん、蘭お姉さん・・・!良かった!」

光彦と歩美がそれぞれに叫んだ後、少年探偵団の3人は顔を見合わせ、声を揃えてまた叫んだ。

「少年探偵団の、大・勝・利〜〜!!」
「志保さん、歩美ちゃん、元太くん、光彦くん、ありがとう。私のために・・・」

蘭の目に感謝の涙が光り、新一が蘭を抱きしめながらも皆に頭を下げる。

「ありがとう。・・・おめーらのおかげだ。一生恩に着るよ」

柄にも無い新一の言葉に、少年探偵団の3人は照れる。

「工藤くん・・・そうね、この分のお礼は、工藤くんから私たち4人に、今度のお正月にでも旅行をプレゼントして貰うって事で、払ってもらいましょうか?」

志保がからかう様な、けれど優しい柔らかな笑顔で言った。

「さんせーっ!!」

子供たち3人が叫ぶ。
ちょっと呆れたような目をした新一に、志保がくすりと笑って言う。

「変に恩に着せたくないから・・・それでチャラで、良いでしょ?」

新一は苦笑した。

「まったく・・・おめーらには敵わねーな」

その場が笑いに包まれる。



感動の時間が過ぎ去った後。

下を向いてもじもじしていた歩美が、思い切ったように顔を上げて言った。

「ねえ、新一お兄さんはコナンくんだったの!?」

新一と蘭は息を呑む。

「歩美・・・!」

歩美が新一を見上げる真剣な眼差しに、新一はふっと微笑むと、膝を折り、目線を同じ高さにして歩美の目を覗き込んだ。

「ああ、そうだよ。おめーらには、いつか話そうって思ってた。騙す積りじゃなかったんだ、ごめんな」
「コナンくん!」

歩美が目に涙を浮かべて新一にしがみ付く。
新一はそっと歩美を抱きとめると、背中をあやす様にぽんぽんと叩く。
元太がちょっと切なげにその光景を見ながら言った。

「コナンだけじゃなくて、灰原も本当は大人だったんだな」

光彦がキッと新一を見て言う。

「説明していただけますか?何もかも」



新一は薬を飲まされて自分たち2人が小さくなってしまった事を簡単に説明した。

「本当は高校生なのに子供の姿にされて、最初はやってらんねーぜって思ってた。けど、おめーらが居たおかげで、俺たちがどんだけ救われたか」

新一が言うと、志保も言葉を添える。

「あなたたちが私たちの友達になってくれたおかげで、寂しい思いや辛い思いをしたりせずにすんだの。これは本当よ。円谷くん、小嶋くん、歩美ちゃん、ありがとう」

歩美が新一にしがみ付いたまま泣き出す。

「ふえ〜ん、コナンく〜ん、突然いなくなって寂しかったよ〜」
「ごめんな・・・」

新一は優しく歩美の頭を撫でる。
元太だけではなく蘭も、その光景を複雑な眼差しで見ていた。


熱い眼差しで、しかし寂しそうに、光彦は志保を見詰めている。

「灰原さん、・・・あ、いや、志保さん」
「どっちでも構わないわよ、円谷くん。どっちも私には変わりないのだから」
「また、アメリカに行ってしまうのですよね」
「・・・ええ」
「そうですか・・・」

光彦はそれきり目を伏せて黙っていた。

しばらく皆黙ってそれぞれの物思いに沈む。



だが――

とりあえずの危機が去っただけでまだ何も終わったわけではない事を、一行はすっかり失念していた。





ドカーーン!





突然、少し離れたところで爆発音が響き、床が大きく振動した。

「な、何なの!?」

蘭が思わず新一にしがみ付く。

「しまった・・・!!おそらく、蘭に付けられてた爆弾が解体されたら、他の爆弾の時限装置が働くようになってたんだ!みんな、急いで脱出するぞ!」

6人は慌てて駆け出す。

爆発音は何回も聞こえ、壁が崩れ落ち始め、あちこちでシャッターが閉まり出す。

お互いに庇い合いながら、6人は走り続ける。



  ☆☆☆



「工藤!姉ちゃん!どこや〜〜〜っ!」

ようやく新一たちの居る廃ビルにたどり着いた平次が叫ぶ。
建物が少しずつ崩壊を始めている。

「こりゃやばいで!工藤〜〜〜〜〜〜っ!!」

平次は危険を顧みずビルの中に飛び込んで行った。







  ☆☆☆



「こちら千葉!××港にて、爆炎が上がっているのを確認しました!」

ヘリの千葉刑事からの情報に、警視庁は色めき立った。

「よし!全員出動だ!!」

松本管理官が号令を掛ける。
サイレンを鳴らしながら次々とパトカーが発進していく。

居ても立ってもいられずに警視庁まで来ていた阿笠博士と園子と和葉が、佐藤警部補に声を掛ける。

「志保が、わしの娘が心配なんじゃ!」
「ここでじっと待ってなんかいられない!」
「お願いや、連れてってえな!」

3人の必死な眼を見ると、佐藤警部補はとてもそれを冷たく断る真似などできなかった。

「わかったわ!じゃあ行くわよ!」


佐藤刑事の運転するパトカーに乗った3人は、凄まじいスピードで走る車内で、「他の刑事さんに頼めばよかった」と、ほんのちょっとだけだが後悔する事となった。




  ☆☆☆



「行き止まり!」

脱出しようとする新一たち一行6人は息を呑む。
廊下の途中で完全にシャッターが下りてしまっており、道が塞がれているのだった。

「何とか開ける方法は!?くそっ、反対側からなら、簡単に開けられるようになってるんだが・・・!」

新一は必死でシャッターを開ける方法を探す。
火はもうすぐ後ろまで迫っている。
新一の額に脂汗が滲んだ。







  ☆☆☆



爆炎が上がる廃ビルを、遠くの海岸を走る車の中から見詰める4人の男女がいた。

「Shit ! Cool-guy !!」
「しまった、遅かったか!」

初老の髭の白人男性と、車を運転している目付きの鋭い黒いニット帽の男が叫んだ。

「新ちゃん、蘭ちゃん・・・!」

瞳を潤ませながら、一行の紅一点である美女が叫ぶ。

「とにかく急ぎましょう!」

眼鏡を掛けた端正なマスクの男が、顔と声を強張らせながら、それでも努めて冷静さを保とうとする。


一行は、工藤優作・有希子夫妻と赤井秀一、ジェイムズ・ブラックの4人。
成田空港に降り立った工藤夫妻を、赤井たち2人が出迎え、一緒に車で××港に向かっていたのだった。

4人を乗せた車は更にスピードを上げて走り出した。







(5)に続く

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<恒例の、後書代りの東海帝王会長とドミの対談>



会長「一難去ってまた一難・・・うーん、緊迫してますねえ」
ドミ「あ、会長さん、生きてらしたんですね」
会長「・・・(ドミさん、やっぱりこの前は俺を見捨てて1人で逃げてたのか・・・)」
ドミ「良かった、危うくエースヘブンが管理人不在になるかと思いましたよ」
会長「(心配するのはそこかい!)それにしても今回は、警察総動員ですね。コナン界に出て来た警察官がほとんど出て来てるじゃないですか。白馬警視総監や小田切警視長まで・・・あ」
ドミ「会長さん、どうされました?」
会長「諸星副総監は出ていませんね」
ドミ「は?諸星?そんな名前の警察官は、『THE SALAD DAYs』には存在していません!(目が据わっている)」
会長「(ゲッ!まずった!ドミさんは今年の映画の存在をコナンとは認めないと言って抹消していたんだっけ、話を逸らそう!)そ、それと少年探偵団が大活躍ですね」
ドミ「思いの他活躍してくれて、はて、主人公は一体誰だったかと思うくらいですよ。私としては本当は新一くんにもっと目立って欲しいのに(泣)」
会長「(ホッ、うまく話を逸らせたか)志保さんと新一が哀ちゃんとコナンだった事が少年探偵団にばれて、この先恋愛模様も混戦しそうですねぇ」
ドミ「最初はこんなに早くばらす予定ではなかった筈なんですけど。最近、某年の差カップルに興味が出て来ちゃって・・・」
会長「それはまた別の意味で楽しみです。さて、この先彼らはどうやって脱出するのか、ベルモットの陰謀とは、そして気絶したまま放置されてるウォッカの運命や如何に?」
ドミ「次回は、某怪盗の影も見え隠れする筈です。ラストでは、ちょっとびっくりのあの人が出て来るかも」
会長「もうそろそろこの話も先が見えてきましたか」
ドミ「いやまだまだエピソードが多過ぎて・・・後何話あったら終わるのか、先が全然見えまっしぇーん。クリスマスのお話で年越しだけはしたくないですぅ」
会長「まあまあ俺も協力しますから、頑張って下さいね」





注)例によって上記の会話はフィクションですが、一部、事実も混じっています(笑)


(3)に戻る。  (5)に続く。