Adventure of the Christmas




byドミ(原案協力:東海帝皇)



(5)



服部平次は、爆発が続く建物の中を必死で走り回る。

「工藤!姉ちゃん!チビたち!どこや〜っ!」


建物の中心部と思しきところ(モニターなどが並び、司令室といった感じのところ)で、平次は倒れている男を見つける。

黒尽くめでサングラスを掛けた大男。

「こいつも、組織のもんやな」

平次はその男から慎重に拳銃などの武器を取り上げた後、活を入れる。

「うっ・・・」

男は呻いて頭を抑えながら起き上がった。

「気ぃ付いたか。もうすぐここも火が回るよって、早よ脱出せえや」
「貴様・・・、何故俺を助けたりする?」
「どんな犯罪者でも、見捨てる訳にはあかんからなぁ。かと言って俺もあんたを連れて出るほど暇や無いで、後は自力で何とかしてえな。ほな」

そう言い捨てて平次は去って行った。



ウォッカ――倒れていた男は、勿論ウォッカであった――は、平次を何とかしたくても、体がまだ思うように動かず、武器も取り上げられていた。

まだ麻酔薬の影響が残っており、呻きながら起き上がる。



時折振動が響き、ひび割れた壁の欠片がぱらぱらと落ちて来た。

ウォッカは我に返る。

「爆発?建物が爆破されてるのか・・・!?」

廃ビルが崩壊しようとしている中で、今まで行動を共にしてきたベルモットへの疑念が浮かんだ。

「ベルモット・・・あの女、どこへ行った?」

ベルモットが自分を見捨てた事は何とも思わない。
黒の組織内には「協力」はあっても「助け合いの精神」はないのである。

ただ・・・組織の再建と、捕まったジンや他の幹部を助ける為と言われて協力していたのだが、どうもベルモットの行動には不可解な点が多すぎる。

「ジンの兄貴を助けるために必要な誘拐だとあの女は言ったが、何故建物を爆発させる必要がある?」

ベルモットがジンに執着していたのはウォッカも知っている。
だから助けると言う言葉に嘘は無いだろうと思っていたが・・・。

「シェリーを今更捕まえてどうする気だ?兄貴が執着した女だから消す気だとしか思えねぇ」

組織崩壊の時、ジンはウォッカに、

「お前だけでも組織の事は忘れて生き延びろ」

と言って逃がしてくれた。

氷のような冷たい男なのに、ウォッカには何故かいつも目を掛けて可愛がってくれていたのだ。

「たとえベルモットが助けると言ったところで、あの潔いジンの兄貴が、今更脱出するはずがねぇ。くそっ、せっかく兄貴に逃がしてもらったのに、どうやらあの女にうまく丸め込まれたぜ」

既にベルモットは1人脱出しているだろう。

ウォッカは出口に向かって歩き出す。
この先どうしようという当ては無い。

「兄貴が生きろと言ってくれたからには、無駄に命は捨てられねぇ」

ただ、今はここから脱出するのみだ。




  ☆☆☆




群馬県警のパトカーに先導されて走るレンタカーの中で、携帯電話が鳴った。
助手席の英理がそれを取る。

「はい毛利・・・」
『妃弁護士ですか、今××の港で爆炎が確認されました!』
「爆炎!?」

思わず英理が声を上げ、運転席の小五郎が聞き耳を立てる。

『おそらく蘭さんはそちらに監禁されて居られるものと思われます。先導している群馬県警には連絡しておりますので、至急そちらの方に向かって下さい』
「白鳥さん・・・!!はい、わかりました、ご連絡ありがとうございます」

英理は電話を切るとその内容を運転中の夫・小五郎に伝える。

「ら〜〜〜〜ん、待ってろ、今行くぞ〜〜〜〜〜っ!」

小五郎は、先導車を追い越しかねない勢いでアクセルを踏み込んだ。





  ☆☆☆





廊下を塞いでしまっているシャッターを前に、新一は何とか手立てが無いものかと必死で考えを巡らせる。

「ボール射出ベルトはもう2回使っちまったから駄目だし・・・何か蹴る物はねーか?」

蘭が駄目元で空手技を掛けようとするのを見て、慌てて志保が止めに入る。

「これは普通のシャッターと違うわ、特別性の強度が半端じゃない物よ!いくら腕に覚えがあっても、腕や足が骨折するのがおちよ、無茶しないで!」
「でもっ・・・!」

新一が手近にある物を片っ端から蹴ってシャッターにぶつけてみるが、キック力増強シューズの威力でも、シャッターは僅かに歪んだだけでビクともしない。
志保が拳銃を取り出すが、シャッターをこじ開けるのは不可能である事は判り切っていた。

「でもどこかポイントになる所があれば・・・!」


時折爆発音がして壁や床が振動する。
そのたびに壁にヒビが入り、剥がれたモルタルがパラパラと落ちて来る。

火の手がもう近くまで迫って来ている。

「も、もう駄目だぁ」

元太が情け無い声を出した。
新一が次に蹴るものを必死で探しながら、強く言う。

「元太、最後まで諦めるな!俺たちは今まで何度も、どんな危険だって潜り抜けて来たじゃねーか!」
「そうですよ、何か方法がある筈です!」
「私たち、どんな事件でも解決してきたじゃない!」

光彦と歩美が言う。

「そ、そうだな、俺たち、少年探偵団だもんな!」

元太が必死に勇気を奮い起こしながら応えて言う。
新一が3人に向かって不敵に笑ってみせた。

「その意気だ!」

蘭と志保は、信頼を込めて新一を見る。

彼が居ればどんな時でも大丈夫。

そう思わせる力が新一にはあった。



更に新一が蹴る物を探していると――

「工藤〜〜〜っ、どこや〜〜〜〜っ」

微かに聞こえてくる声があった。

「服部!!」
「服部くん!」

服部平次は、新一たちの声を聞きつけると、シャッターのすぐ側まで駆けて来た。

「工藤・・・!この向こうか!」
「服部、多分そっち側にある配線を切れば、これはすぐ開くはずだ。頼む!」
「おう、任しとけ!」

平次は素早く周囲に目を走らせる。
見つけた配線は、到底手が届かない高い所にあった。

「くそっ、あんなとこに・・・!何や方法ないか?」

ただ物を投げ付けただけでは線は切れない。
平次は必死で考え、ポケットを探る。
その手に冷たいものが触れた。

ウォッカから取り上げた拳銃。

「よっしゃ、ええもんがあったで!」

平次は、慣れているとは言わないまでも、一通り銃は扱える。
高い所にある配線に向けて、拳銃の狙いを慎重に定めた。
そして引き金を引こうとした瞬間――。


シパッ!


どこかから飛んできた物が配線を切って壁に突き刺さった。

ガーッと音を立ててシャッターが開き、少年探偵団3人、志保、蘭、新一の順で飛び出してきた。

「服部、助かったよ、サンキュー」

新一が礼を言うと、平次は配線を切った物を指差しながら言った。

「いや、残念やけど工藤たちを助けたのは俺やあらへん」

配線を切って壁に突き刺さった物――それは、トランプ模様のカードであった。

『キッドのトランプ銃!あいつ・・・!』

平次が苦笑する。

「俺が助ける筈やったんに、今回1番美味しいとこ取って行かれてしもうたで」

新一は頭を一振りする。
今は感慨に耽っている場合ではない。

「さあ行くぞみんな。早いとこ脱出だ!」
「おーっ!!」

新一の号令に乗り良く少年探偵団が応え、一行は出口を目指した。





  ☆☆☆





「フフフ、・・・Good-by. Sherry, Cool-guy, Angel, and Kids・・・」

暗闇の中、廃ビルは炎に巻かれ、赤黒い不気味な爆炎を巻き上げながら崩壊していく。

ちらちらと雪が舞い落ちる。

昼間から降り続いた雪が積もり、あたりは白一面になっているのだが、今は炎を受けて赤く染まっている。
人気が無いその一帯は、しんと静まり返り、ただビルが崩れ落ち、激しく燃え盛る音だけが響いていた。

少し離れた場所で、崩れ行くビルを見ている金髪美女が1人。
言わずと知れたベルモットである。
あでやかな妖しい微笑を浮かべて佇む。
炎を受けて、美しい顔と金色の髪が赤く輝いていた。

ふと背後に人の気配を感じ、撃鉄を起こす微かな音が聞こえて、ベルモットは振り返る。
そこに立っているのは、ショートカットの金髪で眼鏡をかけた女性――帝丹高校の英語教師、ジョディ・サンテミリオンだった。

ジョディがベルモットに銃を向けたまま言う。

「Stop it, Mummy!(もう止めて、ママ!)」

ベルモットが驚愕の表情で呟く。

「Coulisse! What are you doing !?(クリス!何をするの!?)」
「No,Mummy, I’ m not Coulisse. Coulisse was died. My name is Jody. Jody Sainte-million(いいえ、ママ、私はクリスじゃない。クリスは死んだわ。私はジョディ。ジョディ・サンテミリオンよ)」


(以下斜体字は英語での会話です)


クリス、お前が母親である私に銃を向けるとは・・・私に逆らった事など無いお前が・・・!
夫を殺し、娘を捨てたあなたに、母親として敬われる資格があるとでも思っているの?私はあなたを自分の手で捕らえるために、クリス・ヴィンヤードの名前を捨ててここまで来たのよ!
フフフ、あなたの父親を殺した私への復讐というわけ?あのくだらない男!ただ天寿を全うする事にしか興味が無いような男!私の美貌を無駄に老いさらばえさせ、私の人生を台無しにしてしまったあんな男のために?
Mummy!!あなたの人生での後悔をDaddyの所為にしないで!そんな事卑怯だわ!
何とでも言うが良いわ!私はもう過去の事なんてどうでもいいのよ、誰もが憧れて止まない永遠の若さと美貌を手に入れたのだもの!



1台の車が走ってきて、対峙しているジョディとベルモットのすぐ側で止まった。
中から転がり出るようにしてベルモットの方に駆けて来る女性がいた。
その女性――工藤有希子が叫んだ。

「シャロン!!」



「シャロン、その姿は!?あなたまさか・・・!!」

シャロンと呼ばれたベルモットが呟くように言う。

「有希子・・・」
「新ちゃんと蘭ちゃんは!?シャロン、あの子達をどうしたの!?
フフフ、残念ね、Cool-guyとAngelはあの中よ。もう間に合わないわ
そんな・・・!シャロン、何故!?何故こんな事を!?
・・・有希子。もう40に手が届こうかと言うのに、20代でも通用する若さと美貌を保つあなた・・・私は本当はあなたが憎かった。でも、私はもうあなたをうらやむ事は無い!あなたもいずれは老婆となる日が来るのですもの!!フフフフフフ
「新ちゃーーん!蘭ちゃーーん!!」
「新一っ!」

有希子と優作が炎に向かって悲痛な声を上げる。

「ベルモット、貴様、何と言う事を!!」

赤井秀一がベルモットを睨んで叫ぶ。
車の中からもう1人、ジェイムズが降りて来た。
ジョディが銃を構えたまま赤井とジェイムズをちらっと見て言った。

「Red!Black!You are too late!(レッド!ブラック!遅過ぎるわよ!)」

赤井は憮然とした顔になり、ジェイムズがジョディに問い掛ける。

「Sorry・・・by the way, where are Cool-guy and others?(済まない・・・ところでクールガイたちはどこに?)」

ジョディが痛ましそうな顔で言う。

「They are in that fire・・・(あの火の中よ・・・)」

ジェイムズ・ブラックは天を仰いで嘆息した。

「Oh!My God!!(何て事だ!!)」







燃え盛り崩れ落ちようとする廃ビルを、工藤優作・有希子夫妻、ジェイムズ・ブラック、赤井秀一は呆然と見詰めていた。
ベルモットが勝ち誇ったように笑う。

「Ha-ha-ha-ha・・・Maybe, now, they are going up the stairs to Heaven, or, going down to stairs to Hades!(多分今頃は天国への階段を上っているか、地獄への階段を下っているでしょうよ!)」


「生憎だが、どっちも今のところ行く予定はねぇな」

テノールの声が凛と響き渡る。

「Who!?」
「誰って・・・あんたが殺したつもりの相手に決まってんじゃん。ベルモット・・・いや、シャロン・ヴィンヤード!!」


「新ちゃん!!」
「新一!!」
「工藤君!!」
「Cool-guy!!」(×3人)

いつの間にか、新一をはじめ、蘭、平次、志保、少年探偵団3人が背後に姿を現していたのだった。





(6)に続く

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<恒例の、後書代りの東海帝王会長とドミの対談>

ドミ「さーて問題のこの回・・・きっと度肝抜かれた方が多いでしょうね」
会長「読者の方達を驚かせる事が出来たら本望ですよ、ホッホッホ」
ドミ「この設定は会長さんの考えた事なので、私は知りません。文句がある人は会長さんに言うように!」
会長「そ、そんな、面白そうだと言って文章にしたのはドミさんだから、共同責任でしょ?で、ドミさん、どこに向かって言ってるんです?」
ドミ「独り言です、気にしないで下さい」
会長「気にするなと言われても・・・」
ドミ「この回以降、やたらとたくさん英語が出てきますが、これは私と会長さんがない知恵を絞って訳したものなので、たとえおかしな所があっても、笑って許してやって下さい」
会長「特に、BBSには決して書き込まないで下さいね。こっそりメールで教えていただくと助かります」
ドミ「会長さんの方こそ、どこに向かって喋ってるんですか?」
会長「まあまあ、良いじゃないですか」
ドミ「ところで、ようやくこの話、峠を越しましたね」
会長「何とかお互い無事クリスマスを迎えられそうですね♪」





注)例によって上記の会話はフィクションですが、一部、事実も混じっています(笑)


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