Adventure of the Christmas




byドミ(原案協力:東海帝皇)



(6)



「新ちゃん、蘭ちゃん、無事だったのね!」

駆け寄って飛びついてくる有希子を煩そうに押しのけながら新一が言う。

「あったりめーだ、俺を誰だと思ってるんだよ。天下無敵の工藤優作と藤峰有希子の1人息子がそう簡単に死んだりしねーっての」

優作がいつもの余裕の笑みを取り戻して言った。

「やれやれ新一、相変わらずだね・・・でも今回はかなり危なかったんじゃないか?」



ベルモットに銃を突きつけたままのジョディを見て、蘭が叫んだ。

「ジョディ先生!・・・じゃあ私を攫ったジョディ先生は一体?」
「ん?蘭、おめーを攫ったのはジョディ先生の姿をしていたのか?」
「うん」
「そいつはシャロンの変装だな。蘭、おめーも覚えてっだろ、シャロンが変装の名人だった事」
「うん・・・そっか、だからジョディ先生を見かけたとき、何か違和感あったんだ・・・。でも・・・ジョディ先生があんな事したんじゃないのはほっとしたけど、まさかシャロンさんが生きてて、今回の事を・・・大ファンだったのに・・・そんな人とは思えなかったのに・・・すっごくショックだよ・・・」
「蘭・・・」
「でも何でシャロンさんが娘のクリスさんの姿に変装してるの?」
「いや蘭、あれは変装じゃねえ」
「え?」


赤井秀一とジェイムズ・ブラックが、ベルモット――シャロン・ヴィンヤードに詰め寄った。

「お前の負けだ、観念するんだな」

シャロンの顔に嘲りの表情が浮かぶ。

「フフフ、甘いわね。勝ったつもりでいるの?」

シャロンは妖しく微笑むと、手の中に握り締めた何かのスイッチを押した。



ドガーーーーン!!



遠く離れた場所で、爆発が起こった。
それを見て、シャロンの顔に初めて焦りの色が浮かぶ。

「あそこは!Cool-guy!何をしたの!?」
「ああ、あんたがここら辺に仕掛けていた爆弾は外して、ついでに別のところに仕掛けさせてもらったよ。おめーが大切なものを隠していた、ある場所にな!」

その作業を手伝った少年探偵団の3人が、得意満面で口々に言う。

「僕たちが同じ手に何度も引っかかるとは思わないで下さいね!」
「ベルベルト、おめーの思い通りにはさせねーぞ」
「私たち少年探偵団は無敵なんだから!」

3人の姿を、平次が呆れた様にジト目で見ていた。

志保が冷静な口調で、ある事実をシャロンに衝き付ける。

「貯蔵してあったアポトキシン4869Ω(オメガ)とΣ(シグマ)、それにデータが入っているコンピューターとDVD‐R、そして書類も、全て処分させてもらったわ。今頃はもう全部灰になってるでしょうね」
「くっ!!」

シャロンが憤怒の形相で素早く銃を取り出し、そして銃口を志保に向けた。
赤井とジェイムズがシャロンに向けて銃を構えようとする。
しかしそれより早く、新一が時計型麻酔銃から撃った針がシャロンの手に当たり、シャロンは銃を取り落とす。

「うっ!!」

そこにいる者で麻酔針の事を知っている面々は、てっきりシャロンが意識を失って倒れると思った。

しかし――シャロンは、苦痛の絶叫を放つ。



「アアアアアアアアアアアッッ!!!」



そして少しずつ・・・シャロンの体に何かの変化が訪れていた。


歩美が叫ぶ。

「な、何あれ!?」

光彦が目を見張る。

「あの人の姿が変わっていきますよ!」

元太が素っ頓狂な声を上げる。

「ベルベルト、どうしちまったんだよ!?」



「Cool-guy!! What did you do!?」

シャロンは苦痛に呻きながら新一を見て叫ぶ。


シャロンの姿が変貌していく。
若く瑞々しかった肌から張りが失われ、顔にも手にも、皺が刻まれて行く。


そして――


50歳過ぎのシャロン・ヴィンヤードの姿が現れた。


新一が、残酷な事実をシャロンに衝き付ける。

「今の針に仕込んであったのは、アポトキシン4869の解毒剤だよ」
「What!?」
「おめーの居た黒の組織のボスが裁判を待たずに獄死したのは何でだと思う?80歳過ぎの老人の姿になって、それまでの心身への負担が一挙に押し寄せて老衰で死んだんだ!!本来の老人の姿に戻ったんだよ、今おめーに使ったのと同じ解毒剤でな!」

「No〜〜〜〜〜〜〜!!」

新一の言葉の意味を悟ったシャロンは、初めて絶望の叫びを上げた。
新一たちによって薬もデータも爆破されてしまった為、もはや、新しい不老不死の薬を手に入れることも出来ない。
シャロンは懐を探り隠し持っていたカプセルを1つだけ見つけ出すと、咄嗟にそれを素早く飲み下す。

「Mummy!!」
「シャロン!!」

ジョディと有希子が叫んだ。

しかし、暫らく経ってもシャロンの体には何の変化も起こらない。

「Why?Why?Why couldn’t I die!?(どうして?どうして?どうして死なないの!?)」

シャロンが呆然と呟く。

志保が言った。

「無駄よ。さっきの解毒剤は、究極の不老不死の薬であるアポトキシン4869Ω(オメガ)だけでなく、究極の毒薬であるアポトキシン4869Σ(シグマ)にも有効なのよ」

新一が言った。

「裁きを受けずに勝手に死んじまうなんて、そんな事は許さねーからな!!」

志保が更に言う。

「時を捻じ曲げようとするものは必ず罰を受ける。蘭さんや円谷君たちを酷い目に遭わせた貴女に相応しい罰を受けるがいいわ!」



シャロンの瞳は光を失い、呆然と座り込んでいた。


シャロンとしての人生を捨て、家族を捨て、若さと美貌への妄執の果てに何もかもを失った哀れな女の姿がそこにはあった。

ジョディが銃を下ろしてホルダーに収め、シャロンに歩み寄って腰を落とす。
そして優しくシャロンを抱きしめて声を掛ける。

「行きましょう、Mummy」

シャロンはジョディに取り縋って、子供のように大声を上げて泣き出した。
ジョディはその背中をあやすように撫でる。







「なあ工藤」
「ん?何だよ、服部」
「マミーって呼んでる、って事は、あの姉ちゃんも、シャロン・ヴィンヤードの娘なんか?」
「ああ・・・彼女が本物のクリス・ヴィンヤードだ」
「ななな何やて!?けどあの姉ちゃん、前にちょお工藤と調べてみた時、どう見ても変装してる様子は無かったやないか。それに短期間ならともかく、長い事他人に変装し続ける言うんは、かなり無理があるで」
「変装の必要なんかねーさ。ジョディ先生のあの姿、あれがクリス・ヴィンヤードの素顔だからな」
「何やて〜〜〜っ!?」
「スクリーンのクリス・ヴィンヤードは、若い頃の母親――シャロンに似せて変装した姿だったんだよ」
「何ちゅうこっちゃ・・・道理で私生活が謎に包まれてるわけや」
「けど、それは彼女の本意では無かったんだろう。やがて何かの理由で嫌気がさし、本物のクリスは失踪する。そして、黒の組織と接触してアポトキシン4869の試作品を手に入れ、若返りが出来るようになったシャロンが、自分は死んだ事にしてクリスに成りすます」

暫らく黙って新一と平次の会話に耳をすませていた蘭が、初めて口を挟む。

「じゃあ、スクリーンのクリス・ヴィンヤードは、初期は本物のクリスさんの変装した姿で、途中からは若返ったシャロンさんにすり換わってた訳?」
「そういうこった。・・・けど何年も前の事だから、アポトキシン4869は俺たちが飲まされたのより、もっと未完成だったはず」

志保が口を挟む。

「ええ。多分その頃の薬だったら、幼児化はせずにすんだけど、効果は1日くらいで切れていた筈。若返りの度に、地獄の苦しみを味わわなければならなかったと思うわ」

平次が溜息を吐いて言った。

「女の妄執ほど恐ろしい物は無いで・・・」

その後平次が蘭、志保、有希子、そして歩美からギロッと睨まれたのは言うまでも無い。







やがて遠くからサイレンの音が響いて来た。

「やれやれ、ようやく警察のご登場か」


何台ものパトカーが次々に到着する。
先頭を切っているのは、何と群馬県警の車である。

「ら〜〜〜〜〜〜ん!!」
「蘭、無事だったのね!!」

群馬県警のパトカーに先導されたレンタカーから、転がり出るようにして小五郎と英理が蘭の方に駆けて来る。

「お父さん!お母さん!」


次に止まったのは佐藤刑事の車。
その中から駆け出して来たのは、園子、和葉、阿笠博士。
園子と和葉は凄い勢いで蘭のところまで来て、今まさに蘭を抱きしめようとしていた毛利小五郎を突き飛ばすようにして蘭に抱きつく。

「蘭!心配したよぉ!」
「蘭ちゃん!無事やったんやな、良かったで!」
「園子、和葉ちゃん、ごめんね心配かけて」

蘭と園子、和葉は、3人で抱き合って泣き出した。



突き飛ばされた小五郎は手を空中で泳がせ、憮然として言った。

「俺は父親だぞ・・・愛情では負けねー筈なのに、この差は何なんだ・・・」

英理が冷たく言い放った。

「若さの差でしょ」



「志保!」

阿笠博士が志保のところに駆けて来る。
年甲斐も無く駆けて来たために、かなり息が上がっていた。

「博士・・・最近ジョギングをサボっているでしょ。いきなり運動したら心臓にくるわよ」
「志保がワシに心配掛ける方がよっぽど心臓に悪いわい!大切な娘が心配ばかり掛けるから、その所為でワシの寿命が縮むばかりじゃ!!」

滅多に聞けない博士の怒鳴り声に、志保はしゅんとなる。

「ごめんなさい・・・」
「あ、いや、ついワシも怒鳴ってしまって悪かったわい」

慌てたような博士の言葉に志保はクスリと笑い、そして柔らかな微笑を浮かべて言った。

「心配ばかり掛けてごめんね、・・・お父さん」

志保のその言葉に阿笠博士は感極まって、天を仰いで必死で涙を堪えていた。





目暮警部が近付くと、ジョディはシャロンを立たせ、警部に向かって頭を下げる。

「母の事、宜しくお願いします」

目暮警部は戸惑ったが、新一と平次、それに優作が無言で肯いた為、シャロンに手錠を掛けて連行した。

ジョディ、そして有希子は寂しそうにその姿を見送っていた。







赤井秀一が心配そうな顔でジョディに声を掛ける。

「Miss Sainte-million・・・」
「Red, I’m all right(レッド、私は大丈夫よ)」

赤井は顔を顰める。

「Stop to call me Red, Please(そのレッドって呼ぶの止めてくれないか)」

ジョディは上目遣いに悪戯っぽい表情で赤井を見て言う。

「Sorry, but it’s too difficult to call “Akai” for me(ごめんなさい、だって私には“赤井”って呼ぶのは難しすぎるんですもの)」
「What are you saying, you can speak Japanese fluently(何を言うか、あんた日本語ペラペラだろうが)」

赤井秀一は、『女と言う生き物にはやっぱり敵わない』と内心で溜息を吐いた。





  ☆☆☆





「ところで今何時だ?げっ、もうすぐ日付が変わるぞ!」

新一が時計を見ながら言った。
少年探偵団の3人は慌てまくる。

「あー、どうしよう、私お母さんに怒られる」
「母ちゃん、大目玉だろうな・・・」
「そこまで考えていませんでしたね・・・」

阿笠博士が呆れ顔で少年探偵団に声を掛ける。

「ワシが親御さんたちに電話を掛けて今夜は家に泊めると連絡しといたわい!全く向う見ずもいいところじゃ、親御さんに2度と許して貰えなくなっても知らんからの」

「博士、ありがとう」
「さすがは阿笠博士ですね」
「博士は俺たち少年探偵団の保護者だもんな」

3人は口々に阿笠博士に礼を言う。

「博士、気が利くな」

新一が感心したように言った。
阿笠博士は半目で新一をジロリと見て言った。

「困り者の子供たちの面倒を見ていたら、嫌でも気が利くようになるわい!!」

博士の言う「困り者の子供たち」の中には、新一や志保も含まれている事を感じ取って、新一は苦笑した。





  ☆☆☆





新一、蘭、平次、和葉の4人は、高木刑事の運転するパトカーに乗って送って貰う事になった。

今日は既に時刻も遅く、また、事が事だけに、事情聴取は後日改めて、警察官の中でも階級が上の者から行われる事になっている。

少年探偵団と志保の4人は阿笠博士の運転するビーグルに、園子は毛利小五郎の運転するレンタカーに、そして工藤優作・有希子夫妻とジェイムズ・ブラックは赤井秀一が運転する車に、それぞれ分乗していた。

平次が運転して来た有希子のバイクは別に運んで貰っている。



ジョディ・サンテミリオンは、自分が運転して来た車にそのまま乗って帰って行く。

「じゃあ、Cool-guy, Angel, そして皆さん、また近い内に会いましょうねー」

ジョディは明るくそう言って皆と別れた。
新一達はそれを複雑な気持ちで見送った。



  ☆☆☆



「結局、あの小母はんが何で工藤と宮野の姉ちゃんを狙ったのかが良く判れへんのやけど」

平次が帰りのパトカーの中で口を開いた。

「ああ、まあ何て言うかな・・・この先は推理じゃなくて推論になっちまうけど、シャロンは不老不死を手に入れただけでは飽き足らず、長い時間を共にするパートナーが欲しかったんだろう。しかし、白羽の矢を立てた相手――多分ジン辺りだと思うけど――に拒絶された」
「ほほお?」
「で、後は逆恨みさ。ジンが執着していた女と、ジンを刑務所に入れた男へのな」
「逆恨み・・・女の妄執はやっぱり怖ろしいで」

平次が大袈裟に身を震わせて言い、和葉と蘭が平次をジロッと睨み、運転している高木刑事は額に汗を浮かべた。

「あの女、多分組織のボスからパートナーにと望まれて、特別に薬も手に入れてたんだろうよ。けど、シャロンに取っては、組織やボスはどうでも良かったんだ。元々悪い人ではなかったみたいだけど、不老不死の方法を手に入れて狂っちまったんだな」

蘭が口を挟む。

「ねえ新一、いつからベルモットさんがシャロンさんだって気付いてたの?」
「疑い始めたのは、『神なんて居ない』って言う彼女の言葉を聞いた時だよ。そして確信したのは、ジョディ先生と対峙している姿を見た時だな」
「ジョディはん・・・ホンマもんのクリスはんも、何や可哀想な人やな。自分を捨てたお母んを追って捕まえるために日本まで来とったんか」
「きっとこれ以上罪を重ねて欲しくなかったんだよ。不老不死と引き換えに失ってしまった人間の心を取り戻して欲しかったんだろうさ」

蘭が痛ましそうな顔をして言った。

「そっか・・・シャロンさん、ジョディ先生の気持ちに早く気付いて、心を取り戻してくれると良いね」



  ☆☆☆



その夜更け。

一行が工藤邸と阿笠邸に別れて泊まり、夢の中を漂っている頃。

工藤優作は警視庁にて目暮警部、佐藤刑事、高木刑事と話をしていた。

「本来はトップシークレットとなっている事柄だが、あなたたちには知っていて欲しいと思う」

と前置きして、優作は全ての秘密を話す。

組織の事、江戸川コナンの事・・・。

3人は驚きながら話を聞いた。



「私も秘密主義というのは好きではないが、この件に関しては公に出来ないという事情を理解して貰えたかと思いますが」

優作がそう言って話を締め括る。

「そうですな・・・不老不死の秘法がある事や、高校生が子供の姿になってしまった事が世間に知れたら、確かに世の中が引っ繰り返るほどの大騒ぎになりますな」

目暮警部は、この間の上層部に対しての不審感・不満が拭われたような気持ちで、優作の言葉に頷く。

佐藤・高木両刑事も頷いた。

そのような事実がもし世間に知れたら――

「不老不死の秘法」は、麻薬などよりもずっと怖ろしい、人の心を荒廃に導きかねない、禁断の魔法と言える。



優作が再び口を開く。

「人は限りある命だからこそ、他人を愛し、子を産み慈しみ育て、世の中をより良くしようと努力もするのです。時の流れに逆らわずそれを受け入れていく――それこそが人間のあるべき姿ではないでしょうか」







(7)に続く

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<恒例の、後書代りの東海帝王会長とドミの対談>

ドミ「あー、やっとここまで来ましたねー。今回もきっと皆さん驚くと思いますよ、前回のラストでは今ひとつシャロン、クリス、ジョディの関係がはっきりしませんでしたからね」
会長「このややこしい設定を文章にしてもらって、ホント、ありがたいと思ってますよ」
ドミ「でも、シャロンさんを勝手に悪役に設定してしまって、ファンの方と青山先生には本当に申し訳ないですぅ」
会長「パロディ書いてると嫌でもその問題にぶつかるんですよね。かと言って全ての悪役をオリジナルにするのも無理がありますし」
ドミ「で、この話も次が最終回です」
会長「どうぞ最後までお付き合い下さい」
ドミ「今回は妙に真面目な対談でしたね」
会長「まあ、たまには良いじゃないですか」



注)例によって上記の会話はフィクションですが、一部、事実も混じっています(笑)


(5)に戻る。  (7)に続く。