Adventure of the Christmas
byドミ(原案協力:東海帝皇)
(7)
1夜明けて12月24日、クリスマスイブ。
昨日の内に積もった雪は、半ば解けかけていたが、今日は更に時々雪が舞い落ちている。
今夜はホワイトクリスマスになるだろうという予報であった。
昨日の大冒険で疲れ果てた一行は、昼前頃にようやく目覚めると、今夜のパーティの準備を始めた。
北側の物置に保管してあった物を新一が台所に運び込むと、和葉と志保が感嘆の声を上げた。
「うっわっ、蘭ちゃん、七面鳥やなんて、本格的やなあ!!」
「そうね、あちらではクリスマスの定番だけど、日本ではまだあまり馴染みが無いものね。それにしてもこれは大きいわ」
蘭が嬉しそうに七面鳥を捌きながら言った。
「工藤邸のキッチンにはおっきなオーブンがあるからね、いっぺんローストターキーをクリスマスに作ってみたかったの。子供の時クリスマスキャロルを読んでから、ずっと七面鳥に憧れてたんだもん」
確かに工藤邸のキッチンには、プロでも不足は無い程の道具が揃っている。
オーブンは普通のオーブンレンジの他に、ガスを使う大きなコンベクションオーブンが備えられていた。
「昔はお義母さまがホームパーティを開く時なんかにフル稼働させてたみたい。でも今は、家族2人だけだからこんな機会でもないと滅多に使う事も無いしね」
冷蔵庫・冷凍庫も、普通の家庭よりかなり大きな物があり、蘭が勉強などで忙しい時、作り置きをしておくのに非常に重宝していた。
しかし、特別注文したターキー(七面鳥)は、大き過ぎて流石の工藤邸の冷蔵庫にも入りきれなかった。
そこで、料理にかかるまで日の射さない北側の物置の中に保管されてあった。
今日それをキッチンに運び込んだのだが、空手で鍛えた蘭にも重過ぎるため、新一がキッチンまで運んだほどである。
女たちは料理に取り掛かる。
詰め物をしたターキーの丸焼き、シチューのパイ包み、温野菜のサラダ、スープ、パン、伊勢海老と殻付帆立貝のグラタン、パスタ、御飯党の為の炊き込みご飯、ローストビーフと付け合せの野菜、海老チリ、八宝菜、蟹クリームコロッケ、フルーツポンチ、手作りゼリー、プディング、そしてケーキ・・・夜までに作らなければならないご馳走は山のようにある。
「蘭ちゃん、ホンマにこれ全部手作りで作るんか?」
「まだ若いのに蘭さんの料理って、そこらの主婦の域を超えているわね」
本当は昨日から始めるはずだった作業を今日半日で行わなければならない。
手早く料理を作るのに慣れている蘭が中心になっていてさえ、女たちはてんてこ舞いだった。
「蘭、何か手伝う事ねーか?」
リビングの飾り付けが終わった新一が訊いてくる。
「新一・・・そうね、じゃああっちの野菜を刻んでくれる?あ、服部くんはこっちのジャガイモつぶしてね。熱いうちに手早くよ」
「それはええねんけどな・・・鈴木の姉ちゃんはどないしたんや」
「空港まで京極さん迎えに行ってるわ」
「あの姉ちゃん・・・うまい事逃げよったな」
「平次、園子ちゃんは夏以来久し振りに京極さんに会えるんやで。文句言わんと、早よポテトつぶしてぇな!」
少年探偵団は、今日は阿笠博士に連れられてトロピカルランドに出かけている。
夕方には工藤邸に戻ってくる事になっていた。
「蘭ちゃん、ケーキ焼きあがったで。冷めたらジャムとクリームはさんで、クリームとフルーツで飾り付けやな」
「蘭さんの手作りのケーキ、さぞかし美味しいでしょうね。子供たちも喜ぶと思うわ」
「でも、本当はクリスマスらしい飾りを付けたかったんだけどね・・・」
蘭は昨日、買い物帰りにジョディ先生に変装したシャロンに攫われた際に、買い物袋を落としてしまった。
その中には、ケーキの飾付けも入っていたのである。
「新一・・・ごめんね・・・」
作業をしながら蘭は新一に話しかける。
「いきなり何だよ、蘭」
「私・・・新一から貰った携帯・・・落としちゃった・・・」
「蘭・・・何言ってんだ、携帯なんか・・・蘭が無事で居てくれれば、それで良いんだよ。だから・・気にすんな」
「うん・・・」
けれどあの携帯は、新一から贈られた大切な物というだけでなく、新一からのメールのデータもこっそりと保存してあったのである。
将来いつか買い換えなければならなくなっても、手元に大切に保存して置く心算だったのだが・・・。
ピンポ〜ン。
来客を告げるインターホンが鳴った。
「宅配便でーす、印鑑お願いします」
蘭が玄関まで出て行き、新一は宅配の心当たりがなく、首を捻る。
『まあ今でも父さん宛にお歳暮やクリスマスプレゼントが何軒かは届くけど・・・』
蘭が包みを抱えてキッチンまで戻って来た。
包みを開けると、中から出て来たのは――
「え?何これ?私のバッグと買い物袋!?」
そして添えられたカードが1枚。
「落し物をお届けにあがりました
ある時は宅配便業者の 怪盗キッド」
蘭は、自分が無くしたと思っていた携帯などが手元に戻ってきたため、単純に喜んでいる。
「あんの野郎・・・」
新一はとっくにここを去って行ったに違いない怪盗キッドこと黒羽快斗の事を考え、相変わらず気障な野郎だと内心で毒づいていた。
☆☆☆
「チョコレート製の『Merry Christmas』の文字飾りと、マジパン細工のお家とモミの木とサンタさん・・・これよこれ!」
和葉が、蘭から受け取った飾りをケーキの上に乗せて行く。
ふとその手が止まる。
「蘭ちゃん、このサンタさん、何やおかしいで?」
「え?そんな筈・・・あ、あら?」
マジパン細工のサンタクロース人形・・・それはよく見ると、顔が普通のサンタと違っていた。
モノクルに、赤い帽子の陰からはみ出しているシルクハット・・・サンタに扮した怪盗キッドの人形であった。
ご丁寧に、小さなカードが付いており、米粒のような字で
「サンタクロースは頂いた キッド」
と書いてあった・・・。
「あいつ、何考えてんだ・・・」
新一の口の端がヒクヒクと震える。
「ねえ新一・・・」
「あんだよ、蘭」
「怪盗キッドって・・・お菓子作りも出来るの?」
「・・・・・・」
☆☆☆
さて場面は変わり、江古田地区、警視庁捜査2課の中森警部の自宅にて――
中森警部の一人娘の青子と、その幼馴染で先頃恋人に昇格した黒羽快斗が、クリスマスパーティの準備をしていた。
「快斗、次はこのお星様をツリーのてっぺんに飾るのよ!」
「へいへい・・・青子、今日はオレえらくこき使われてる気がすんだけど?」
「だって、このままじゃ飾り付けが今夜のパーティに間に合わないんだもの。元はと言えば、快斗が昨日も今日も急に居なくなっちゃうからでしょ!」
「悪かったってば・・・どうしてもはずせねー用事があってさ・・・」
「用事って何よ?」
「そ、それは・・・」
「青子には言えない事なんだ。・・・何か寂しいな、そういうのって・・・青子にとっては快斗が1番なのに、快斗に秘密にしてる事なんて無いのにさ・・・快斗にとって青子は、その程度の存在なんだね・・・」
黒羽快斗は、最愛の少女の寂しそうな顔を見て慌てまくる。
「ち、違う、青子、それは誤解だっ!」
「んもう、離してよ!」
2人もみ合う内に、快斗のポケットから転がり出た物がある。
それはマジパン細工のサンタ人形。
「快斗、何これ?」
「あ、そ、そ、それは・・・!」
「もしかして、女の子からのプレゼントね!?」
「ち、違うって!(女の子から・・・と言えばそうだけど、貰ったんじゃなくて・・・第一、こんなもんプレゼントでくれる相手なんかいねえぞ、普通)」
「その顔は・・・やっぱりそうなんだ・・・恋人は青子だけじゃなかったのね!快斗の馬鹿〜〜〜〜〜っ!!」
「だーーっ、だから、誤解だ〜〜〜〜っ!!」
快斗がついつい悪戯心で、工藤蘭が落とした買い物袋の中から、自分が手作りした怪盗キッドサンタ人形とすり替えて貰って来たマジパン細工のサンタ人形が、こんな誤解を生んでしまうとは・・・。
この後快斗が青子の誤解を解くためにどれ程苦労をする事になるか・・・それは皆さんの想像にお任せしよう。
☆☆☆
場面は再び工藤邸。
ピンポ〜ン。
再びインターホンが鳴り、新一がついつい警戒心むき出しで玄関まで出て行ってみると――
「ハ〜〜イ!Merry Christmas!!Cool-guy, Angel, 皆さん、こんにちは!!」
妙に明るい声で現れたのは、ジョディ・サンテミリオンであった。
「ジョディ先生・・・(近い内に・・・とは言ってたけど、昨日の今日だぜ、おい)何しに来られたんですか?」
「おや、Cool-guy、何か不満でもあるのですか〜?」
「や、別に不満があるわけじゃ・・・」
「貴方はオチビちゃんだった時の方が可愛くて格好良かったですね〜、女性相手にそんな仏頂面をしてはいけませんですよ〜」
「・・・ほっといてくれ!」
「ジョディ先生、いらっしゃい!!」
奥から蘭が出てきて笑顔で挨拶する。
「Oh、Angel、Merry Christmas!! 遊びに来ました〜、もしかして邪魔だったですか〜?」
「いいえ、とんでもない!・・・あ、もし良かったら、先生も今夜のパーティに参加しませんか?」
「Oh, Christmas Party!!ですか〜、喜んで御招待受けますで〜す。今準備中ですか、なら私も手伝いま〜す」
ジョディはさっさと上がり込み、楽しそうに蘭と話をしながらキッチンへと向かう。
「新一、何してるの?時間もあまり無いんだから、早く作業の続きをやってよね」
呆然としていた新一は、蘭の声で我に帰る。
「何だ何だ何だ!?パーティを企画した最初の頃は、『ごめんね』とか、『新一が駄目って言うのなら』とか言ってたくせによ、今はジョディ先生を招待するのに俺になんの断りもなしか!?」
愛しい妻がいつの間にか「可愛い恋人」から「たくましい主婦」へと変貌し始めているような気がして、新一は愕然としてしまったのだった・・・。
☆☆☆
あれほど大変だったご馳走作りもようやく峠を越え、後の作業はオーブンや冷蔵庫に任せて片付けやテーブルのセッティングの作業が始まっていた。
ジョデイが持ってきた花とキャンドルが、テーブルを華やかに飾る。
「すっごい綺麗・・・!先生、ありがとうございます!」
蘭が言うと、ジョディは少し寂しげに目を伏せていった。
「皆さんには迷惑掛けましたですからね〜、特にAngel, 貴女には怖い思いさせてしまいましたですから〜。こんな物ではお詫びにもなりませんけど〜」
「先生・・・!そんな・・・私たちは無事だったんだし・・・」
そのやり取りを見て、新一は少し良心の呵責を覚えていた。
『俺って馬鹿だよなー、罪を犯した母親を追ってきたジョディ先生のこと、蘭が放って置けるはず無いじゃん。特に蘭は、母親の事では色々辛い思いしてんだしさ・・・。それも解らなかったなんて、ああ、俺って馬鹿!』
新一は先程蘭に対して「たくましい主婦へと変貌して行っている」ような気がした事を後悔していたのである。
勿論、口に出したわけではなかったのだが。
☆☆☆
「皆さん、お久し振りです!工藤くん、毛利さ・・・いえ、蘭さん、御招待ありがとうございます!」
京極真が園子と共に工藤邸にやって来た。
「詳細は園子さんから聞きました。色々と大変だったのですね」
「まあでも、終わり良ければ全て良し。こうして皆無事で、楽しいクリスマスパーティを開けるんですから、それだけでも感謝しなければと思ってますよ」
真と新一の会話に、平次が茶々を入れてくる。
「何や工藤、えらいじじむさい事言うとるやんか。今度の事件で人生観変わったんか?」
「・・・服部。おめー1人今から大阪に帰るか?」
「工藤、そないな殺生な事言わんといてや〜〜」
「何なら、遠山刑事部長におめーが今夜何するつもりかチクっても良いんだぜ」
「くくく工藤!!頼むからそれだけは勘弁や〜〜〜〜っ!!」
「?何なんやろ、平次が今夜するつもりの事って」
「ああ、和葉ちゃん、それはね・・・」
蘭がこそこそと和葉に耳打ちする。
「ななな何やて〜〜〜〜〜っ!?平次がそないな事!?」
「新一の推測だけど、あの様子じゃビンゴだったみたいね」
和葉は耳まで真っ赤になった。
同じ事を考えていた園子もこのやり取りを聞いて赤くなっている。
志保がくすっと笑って言った。
「今夜はクリスマスイブ・・・本当だったら、2000年も昔に生まれたある宗教の開祖の誕生日前夜祭だけれど・・・日本では恋人たちが甘い夜を過ごす日――それで良いんじゃないの?」
☆☆☆
出来上がったご馳走を、テーブルに運んで並べる。
その作業をしながら、ジョディ先生からシャロンの話を聞かされる。
「Mummyは下積み時代は苦労したですけど〜、その美貌と抜群の演技力で一世を風靡した女優でした〜。でも、家庭では良き妻、良き母親だったので〜す。忙しい中でも、いつも私たちの事考えてくれてました〜。私の事、大切に大切に育ててくれました〜。
それが・・・あの悪魔の秘法を手に入れたばっかりに〜あんな事に・・・」
いつしか皆思わず作業の手を止めてジョディの話に聞き入っていた。
「私は演技は好きでしたけど〜、Mummyから変装術教えてもらった後〜、戯れにMummyの若い頃の姿に変装して映画のオーディションを受けたら〜、これが当たってしまいましてね〜。
本来の姿で出直すか、辞めるか、したかったんですが〜、Mummyが許してくれませんでした〜。
あの頃の私はMummyに逆らえなかったですし〜、今思うとMummyは自分の若かりし頃の姿に執着してたんですね〜。
そんな頃〜、黒の組織のボスが、私に接触して来たんで〜す。
あの男・・・年取って行く事に〜、あの組織のボスは焦ってました〜。
けど、あの薬・・・未完成ながらも若返りが出来るようになりました〜。
そしてボスは、自分のパートナーを探し始めて〜、最初に白羽の矢を立てたのがクリス・ヴィンヤード・・・私ですね〜。けど、クリスのスクリーンでの姿は変装だという事が判ってから、対象を母・シャロンに変えたので〜す。
元々あの男は〜、若かりし頃のスクリーンのシャロン・ヴィンヤードのファンでしたからね〜。
母は、不老不死の秘法の存在を知って狂ってしまいました〜。
最初は完全な物では無かったらしいですけど〜、あの若く美しい姿に戻れるという誘惑には、勝てなかったので〜す。
MummyがDaddyを殺したと知った時は、愕然としました〜。
その頃私は〜、黒の組織に敵対しているRedやBlackの存在を知って〜、協力するようになったので〜す。
Mummyの目を覚まさせようと、私は、お墓の前でDaddyの姿に変装して現れて、その後行方をくらましたけど〜、もう悪魔に魂売ってしまってた母は〜、何とも思わなかったみたいですね〜。
私の替わりに若返った姿でクリス・ヴィンヤードとして活動してましたからね〜。
あの頃の不完全な薬では、効き目は僅かな時間でしたけど〜、Mummyはそれを逆手にとって〜、シャロンとクリスの2重生活を10年間も送ったので〜す。
一昨年、薬の完成の目途がついた頃〜、Mummyはシャロンとしての自分の存在を終わらせてしまいました〜。
そして昨年、完成したアポトキシン4869Ωで不老不死を手に入れると〜、気になる相手が日本に居たらしく〜、女優の活動を休んで日本に来ていたんですね〜。
私はRedたちの協力で〜、Mummyを追って日本まで来ていたので〜す。
けど、組織崩壊の後、Mummyは行方が判らなくなっていました〜。日本に居るのだけは確かだったんですけどね〜。
元々mummyにとって組織はどうでも良い存在でしたし〜、自分が知った情報も自分で握って〜、組織には秘密にしてたようですし〜、さっさか自分だけ逃げてたようですね〜。
Mummyは私がジョディ・サンテミリオンとして帝丹高校英語教師になってた事も〜、どうやら知ってたようで〜す。
でも、会おうともしてくれなかったですしね〜、私が追う立場だから仕方ないですけどね〜。
まさか、AngelやCool-guyたちをあんな目に遭わせるなんて・・・本当にごめんなさいで〜す」
暫らく誰も口を利かなかった。
不老不死に魅せられてしまった女の妄執と、その娘の哀しみに、誰も何も言う事が出来なかった。
戸外を舞う雪は、一段と激しくなっていた。
☆☆☆
「ただいま〜〜〜!!」
突然玄関の扉がバタンと音を立てて開き、雪まみれになった子供たちが元気な声を上げてリビングに駆け込んで来る。
一行は呪縛から解き放たれたようにほっとした顔になる。
「お帰りなさい」
蘭が優しい微笑で子供たちを迎え入れ、それを見て新一は工藤家の未来を想像し、頬が緩む。
大地に足を付け、1日1日を大切に生きて行く、愛に溢れた心優しい女の姿がそこにある。
新一が蘭に心惹かれて止まないのは、正にそういう所であり、蘭だったら決して「不老不死」の誘惑に陥ってしまう事など無いだろうと信じられるのだ。
そして、蘭がいるからこそ、自分は探偵として真実の追究を続けていけるのだと新一は思う。
「デレデレと自分の女房に見惚れてからに・・・見ておれんわ、ホンマ」
平次が新一にからかいの言葉を掛けて来る。
子供たちの登場で、その場の空気は一気に和やかなものに変わっていた。
志保が新一の所に来て言う。
「あの子達の存在で、本当に私たちって救われたわよね」
「宮野・・・ああ、そうだな。今思えば、あの日々を耐えることが出来たのは、いろんな人の助けがあったからだって心底思うよ」
☆☆☆
クリスマスらしく飾り付けられた室内と、準備が出来ていた御馳走に、子供たちは歓声を上げる。
そして工藤邸でのクリスマスパーティが始まった。
子供たちを送り届けた阿笠博士は自分の家へ帰って行く。
「博士、一緒にパーティするんじゃなかったのかよ」
元太が抗議の声を上げる。
「悪いのぉ。ワシはあちらで大人たちだけのパーティをするんじゃ。こっちは若者と子供たちだけで楽しみなさい」
「あの、あちらで大人たちだけって、どなたがおられるんですか?」
光彦が尋ねる。
「蘭くんと新一くんの両親が昨日からワシの家に泊まっていてな。今日は大人たちだけでささやかにパーティじゃ」
「博士、私たちは仲間はずれなんて、ずっるーい」
歩美が口を尖らせる。
「歩美ちゃん、仲間外れなのはワシらの方なんじゃよ・・・未来の夢が見られなくなり、ともすれば不老不死の誘惑に陥りそうな年寄りたちの慰め合いのパーティなんじゃ・・・未来ある子供たちが参加するもんじゃない」
「・・・博士、よくわかんないよ」
「今はわからなくても、いつかわかる日が来る。それが大人になるという事じゃろうかの・・・」
博士の声の哀しい調子に子供たちも何かを感じたのか、それ以上は何も言わなかった。
☆☆☆
「お義母さま、大丈夫かしら」
自宅に帰る阿笠博士の後姿を見送りながら、蘭が呟く。
「父さんや、お義母さんたちが付いてる。大丈夫だよ」
新一が蘭の肩を抱き寄せて言った。
有希子は親友だと思っていたシャロンが罪を犯し、あまっさえ自分の息子とその大切な女性を――しかもシャロン自身が会った事のある相手を手に掛けようとしたという事実に強いショックを受けていた。
有希子は昨夜から工藤邸のほうには戻らず、阿笠邸に優作と共に泊り込んでいたのである。
そして毛利夫妻も、取り敢えず、蘭の無事な姿を見て安心し、(小五郎は不満を言っていたが)若夫婦を邪魔したくないとの英理の意見もあり、隣の阿笠邸に泊まっていた。
ショックを受けている有希子の事を、高校時代からの親友(悪友?)である英理も心配して慰めているようだった。
玄関先で阿笠博士を見送りながら有希子の事を心配している若夫婦を、廊下の向こうからじっとジョディが見詰めている事に、若い2人は気付かなかった。
☆☆☆
「メリー・クリスマス!!」
子供たちはシャンメリーで、高校生以上はスパークリングワインで、乾杯をし、そしてパーティが始まった。
「美味しい!!」
「ほんと、凄く美味しいですよ!」
「うめぇ!けどよ、やっぱ鰻(うな)重が欲しかったな」
子供たちが御馳走を平らげながら感想を述べる。
元太の「鰻重食いたい」発言には、皆苦笑する。
「小嶋くん、今は鰻(うなぎ)も1年中出回っているけどね、本来は夏に食べるものなのよ」
志保がご馳走に文句をつけた元太を軽く睨む。
元太が頭を掻き、それがまた場の笑いを誘う。
「日本では〜、アルコール飲んで良いのは〜20歳以上ではなかったのですか〜?」
ジョディが指摘する。
グラス1杯のワインでもう顔を赤くした園子が反論した。
「先生、今日は無礼講ですよ〜、第一アメリカではワインはアルコールの内に入らないんでしょ?」
「それはフランスの話ですし〜、それにここはアメリカじゃなくて日本で〜す」
「ジョディ先生、サンテミリオンって、フランスの葡萄とワインの産地ですよね・・・」
新一が顎に手を掛けながら言う。
「良く判りましたね〜、Cool-guy、そうで〜す、昔々、私のご先祖様が居たところなので〜す」
ジョディは明るく陽気に言う。
新一は、ジョディが母・シャロンの事を一方では憎みもしながらどれ程に愛していたのだろうかと思う。
シャロンの元々の姓「ヴィンヤード」とは葡萄畑。
「サンテミリオン」の名が、それにちなんでいるのは間違いない。
ジョディは、母と決別しようと思い「クリス・ヴィンヤード」の名を捨てた。
けれど結局全てを捨て去る事など出来なかったのだろう。
『母さん・・・、本当に辛かったのは誰だと思ってんだよ』
新一は、母有希子の事が心配でもあったが、明るく振舞うジョディの姿を見るにつけ、少し情けなくもなって来る。
「なあ工藤くん、ちょお訊きたい事あるんやけどな」
和葉が新一に声を掛けて来る。
「あ?なんだい、和葉ちゃん」
平次の目付きが険しくなり、じっとこちらを見詰めている事を背中で感じながら新一が答える。
「何であのシャロンって言う小母はん、今頃になって行動起こしたんや。組織崩壊からもう1年位経っとんのやろ?」
「それはやな」
新一が口を開くより早く、平次が説明を始める。
「あの小母はんに協力しとった科学者とか数人が捕まって口割って明らかになったんやけどな・・・」
『あたしは工藤くんに訊いてんねんけどな・・・』
和葉は内心で呆れたが、黙って耳を傾ける。
「組織崩壊のとき、あの小母はん、何人かの科学者と一緒にデータを持って逃げ出したんやけど、逃げ果せたメンバーだけであのデータのブロックを外して解析するのに1年近う掛かってもうたんやと。やっと予備の薬が作れるようになって、誰か他の者を仲間にする事も出来るようになったとこで、行動を起こしたんやな」
新一がチラリと向こうの方で志保や園子たちと会話しているジョディの様子を見て、話を聞かれていないのを確かめてから補足説明する。
「少し前にジンの面会に来たのが『クリス・ヴィンヤード』を名乗る白人女性だったからな、ジンを共に生きる仲間として誘いに来たのはまあ間違いねえと思う。けどジンはその誘いに乗らなかった。で、後は・・・」
蘭が涙ぐみながら口を挟んできた。
「シャロンさん・・・可哀想な人。本当に彼女を愛してくれた人達を裏切って、何が大切なのかも見えなくなってしまってたなんて・・・」
新一が蘭の肩を抱いて言った。
「ああ、そうだな。けど、ジョディ先生が居る。きっとシャロンにも解るよ。一番大切なものをきっと取り戻せる」
和葉がしんみりした口調で言う。
「あたしらにも、下手するとあんなになってまう部分、きっとあるんやろな。そう考えると、誘惑のあったシャロンはんは可哀想やったな・・・けどこれで組織はホンマに滅んでもうて、問題の薬のデータも残ってへんし、もうあんな可哀想な人が出る可能性は無くなったんやな」
「ああ・・・」
新一の瞳に微かに陰が過る。
新一は敢えて皆には告げなかったけれども、実は1人――ウォッカだけがとうとう行方が掴めないままだった。
けれど彼が組織を再建する事は不可能であり、そういった意味での脅威はもう完全に去ったと言えるのではあるが・・・。
☆☆☆
成田空港から国際便で飛び立とうとする男が1人。
サングラスをはずし、黒尽くめの服を脱いだ姿は、今までと全く違うイメージを与える。
人が良さそうに見える大男だった。
その男は、空港の待合室からある方向を見詰めて呟く。
「兄貴・・・俺は生き延びて見せますぜ。兄貴が生きろと言ってくれたからには、絶対に生き延びて・・・奴等の行く末を見届けて見せますぜ。さらばだ、兄貴」
そして男は飛行機に乗り込み、2度とは振り返らなかった。
その男が見詰めていた方向には、ある刑務所が存在しているのだが、その事は誰も知らない。
☆☆☆
そして再び東京都米花市――
パーティが賑やかに盛り上がっている工藤邸。
「ねえ志保さん、例の薬、若返りの部分だけでも何とかならな〜い?」
園子が志保に向かって言う。
「鈴木さん、それ以上に若返るって・・・子供の姿になりたいわけ?」
志保が冷静に切り返す。
「ち、違うわよ!でも、若さを保てたら本当に良いなって思わない?これから段々年取っていくと思うと、憂鬱で」
「無理ね。薬もデータも全て処分されたわ。今私の手元に残っているのは、解毒剤のデータだけよ」
「その、解毒剤のデータから何とか復元できないの?」
なおも食い下がる園子に、真が声を掛ける。
「園子さん、人は定めに従うのが一番ですよ。私は今のあなたを愛していますが、共に年を取って、お婆ちゃんになったあなたの事も、きっとこの上なく愛しいと思います」
「そうね・・・真さんがそう言うのなら」
園子が素直に頷く。
その場に居た皆が、いきなり始まった園子と真のラブラブに思わず明後日の方を向く。
ジョディが少し哀しげに目を伏せて言った。
「鈴木さ〜ん、不老不死とは〜、自分自身が生き続けるのですから〜、子孫が必要無いと言う事なので〜す。子供を生み育てる必要が無く、子供を愛する事も出来なくなりま〜す。そのような存在に、あなたはなりたいですか〜?」
ジョディの言葉は重みを持ち、園子は恥ずかしさに赤くなった。
「先生、ごめんなさい・・・」
「鈴木さん、『口は災いの元』言いますね〜、悪気は無くともあなたはもっと気を付けた方が良いで〜す」
ジョディが明るく言ったため、その場の空気が暗く沈みこまずに済んだ。
平次が横から茶々を入れる。
「ジョディはん、諺やら難しい言葉ようけ知っとんのに、何やおかしな日本語喋るのは何でやねん?もう日本語下手な振りする必要も無いねんで?」
「これはジョディ語で〜す。あなたのおかしな日本語と一緒で〜す」
「大阪弁は立派な日本語や!標準語だけが日本語ちゃうで!!」
「ならジョディ語も立派な日本語で〜す!」
「平次、負けとんなあ」
和葉が呆れたように言う。
「はは・・・俺だって喋ってんのは標準語とは言いがたいしな、江戸弁つうか東京弁つうか・・・」
新一が苦笑いして言った。
「ねえ先生、これからどうなさるのですか?」
蘭がジョディに尋ねる。
「そうですね〜、私の任務は終わりましたから〜、States(United States of America=アメリカ合衆国の略称)に帰っても良いのですけど〜、まだ暫らくは日本に居て〜、帝丹高校の英語教師を続けま〜す」
「せんせ、ほんとですか〜?きっとみんな喜ぶわ」
園子が本当に嬉しそうな顔で言った。
「残念ながら〜、あなたたちはもうすぐ卒業してしまいますから〜、私の教え子ではなくなってしまいますけど〜、何と言っても日本はゲームがたくさんありますから〜、暫らくはこちらでゲームを楽しみま〜す」
ジョディの冗談めかした言い方に、その場は笑いに包まれる。
けれど、本当は皆にも判っていた。
ジョディの母・シャロン・ヴィンヤードがこれから日本で裁きを受け、刑に服す事は間違いないのだ。
だから当分の間、ジョディが日本を離れる事はおそらく無いであろう。
「志保さん、1つお訊きしたいのですが・・・」
光彦が志保にだけ聞こえる声でそっと尋ねる。
「円谷くん・・・なあに?」
「あの・・・灰原さんのまま、僕たちと一緒に居る事は出来ないのでしょうか?」
志保はちょっと目を見張ると、少し悲しげに目を伏せる。
「灰原哀のままで居たら、円谷くんたちが大人になっても、私だけはずっと小学校一年生の姿のまま、成長できないのよ。だから、私は・・・」
「じゃあもしも、僕たちと一緒に大人になれるのだったら、灰原さんのままで居てくれたのでしょうか?」
「ええ。それは間違いないわ。私は工藤くんと違うから・・・彼には、『工藤新一』という存在を待っている人達がいて、そこに帰らなければならなかったけれど、私は、出来る事なら、灰原哀のまま、あなたたちと共に居たかった・・・」
「志保さん・・・良かった、あなたが僕たちと共に居たかったと言ってくれて・・・僕、怖かったんです。志保さんは他に居場所があるから、僕たちの元を去ったんじゃないかって・・・」
「ううん。言ったでしょ、あなたたちの存在が、灰原哀にとって慰めになったって」
2人、胸の内を渦巻く思いは様々だが、今はお互いそれ以上の事を言うことは出来なかった。
☆☆☆
賑やかな笑い声が今宵は外まで漏れている工藤邸――その灯を見上げながら佇む人影が2つ。
「これで終わったな・・・さて、ジェイムズ、今度こそ帰りましょうか、Statesへ」
「ああ・・・秀一、君はジョディに会って行かなくても良いのか?」
「・・・自分の母親を敵と狙っていた男とは、今は顔を合わせ辛いでしょう。縁があるのなら、その内いつかまた会う日があるでしょうよ」
「そうか、君の父上は組織の謎を追っていてシャロンに・・・。縁、か。日系人らしい考え方だな。そうだな、我々はいつかまた会う事があるのかも知れん・・・」
そして2人は雪道を歩き出した。
ジェイムズ・ブラックは、1回だけ振り返ると、微かに呟いた。
「Good by, Cool-guy, and Irregulars・・・」
☆☆☆
警視庁――
今日は大きな事件も無く、昨日の事件の後処理などは色々残っているが、取り敢えずは当直の者を残して捜査1課は終業していた。
白鳥警視は、佐藤美和子警部補に声を掛ける。
「お疲れ様。どうですか、今から慰労を兼ねて私の行きつけのレストランでディナーでも・・・」
「ありがとう。でもごめんなさい、今日は今から高木くんと約束があるの」
美和子は飛び切りの笑顔で、あっけらかんと明るく返し、そのまま鼻歌を歌いながらロッカールームへと向かって行った。
美和子が既に高木ワタル刑事と恋仲になっているのを百も承知で、それでも果敢にアタックし、見事に振られて白鳥刑事はがっくりと肩を落とす。
美和子と一緒に帰ろうと待っていた交通課の宮本由美巡査が、その光景を目撃し、半ば呆れ、半ば白鳥に同情しながら呟いた。
「いい加減に諦めればいいのに・・・」
☆☆☆
阿笠邸――
傷心の有希子を慰める大人の集まり――の筈が、蘭が心配で旅行を切り上げて帰って来たと言うのに肝心の蘭とろくに話も出来なかったため拗ねてしまった毛利小五郎が自棄酒に走ったため、かなり様子が違っていた。
管を巻いて絡む小五郎の相手を、苦笑顔の優作と阿笠博士が務め、英理は夫の姿に内心で溜息を吐きながら有希子を慰めていた。
突然、阿笠邸の玄関が開いて、元気な声が降って来る。
「Merry Christmas!!」
新一と蘭、そしてジョディがそこに立っていた。
3人それぞれ、手に大きな荷物を抱えている。
「新一くん、突然どうしたんじゃ!!パーティはどうなっておる?」
「ちょっとだけ抜け出して来たんだ。今、場が盛り上がってそれぞれ楽しく過ごしているから、問題はねぇよ」
「せっかくだし、私たちだけでは食べきれないから、料理のお裾分けに・・・」
「私はそれに〜有希子さんに会いたかったで〜す」
阿笠邸のリビングに新一たちが入ると、蘭が危惧していた通り、酒は散乱しているがろくな食べ物が無かった。
一同の中で唯一まともに料理を作れる有希子が、そんな精神的余裕が無かったからである。
「お酒も良いけど、ちゃんと栄養も摂ってよね。体に悪いよ」
「らららら〜〜〜ん」
蘭の言葉と差し入れに、小五郎が泣かんばかりにしている。
蘭は微笑んで言った。
「お父さん、お母さん、飛んで来てくれてありがとう。とっても嬉しかったよ。私は、みんなが助けてくれたから、無事帰って来られたの。新一や、服部くん、志保さん、園子、和葉ちゃん、歩美ちゃん、元太くん、光彦くん、勿論、阿笠博士も。そして警察の人達。たくさんの人達に助けてもらっちゃったから、少しでもみんなにお返ししていかなくちゃね」
蘭の言葉は下手な叱責よりも、自分の事で頭がいっぱいだった小五郎に反省を促す力があった。
いつの間にか大人になってしまった娘を、小五郎は眩しそうに、英理は嬉しそうに見詰めていた。
「クリス?」
有希子が泣き腫らして真っ赤になった目でジョディを見て言った。
ジョディが微笑んで答える。
「有希子さん、母のために泣いてくれてありがとうで〜す。とっても嬉しいで〜す。母はとんでもない事しでかしましたけど〜、こんなに思ってくれている友達がいて、本当に幸せだと思いま〜す。
その内きっと母も〜、自分を思ってくれている人達の事に気が付いて〜、自分が幸せだって事〜、分かるでしょう。
これからも〜、母の友達で居てあげて下さいね〜」
有希子は、鼻をすすり上げると、恥じ入った表情でジョディの手を握る。
「クリス!!い、いえ、ジョディってお呼びしないといけないのかしら。ごめんなさい、忘れてたわ。私なんかよりずっと辛い人が居るって事。
なのに、私のことまで気遣ってくれて・・・本当にありがとう」
有希子は場を見回す。
優作も阿笠博士も英理も、そして多分小五郎も、自分の事を心配して一生懸命慰めようとしてくれたのだ。
そして、新一と蘭、ジョディの3人が今この場に来てくれたのは、差し入れという理由もあるが、1番には有希子の事を心配してだと分かる。
「ごめんなさい、そしてありがとう。私は大丈夫よ、みんながこんなに私の事を思ってくれているのですもの」
☆☆☆
工藤邸――
夜も更け、楽しいパーティも終わり、それぞれ寝室に引き上げていく。
工藤邸は大きく、客間も多い。
園子と真、平次と和葉は、それぞれにツインベッドルームへ(「防音完璧だからな」という新一の言葉にさすがにそれぞれが真っ赤になっていた)引き上げる。
志保とジョディ、子供たちは広い和室に布団を敷いて、休む事になった。
いつの間にか雪はやんで、冴え渡った空に浮かぶ月が一面の銀世界を照らし出している。
「綺麗・・・」
蘭が呟く。
新一と蘭はベランダに寄り添って立ち、この美しい光景を眺めていた。
「ああ、そうだな・・・」
相槌を打ちながら新一が見ているのは、蘭の横顔。
新一がこの世で1番美しいと思うものだった。
「蘭、おめーが無事で本当に良かった。おめーがいねぇと俺は、俺じゃなくなっちまうからな」
「新一?」
「蘭、覚悟しとけよ。たとえおめーが嫌だっつったって、俺は絶対にお前を離さないからな」
「もう・・・馬鹿」
真っ赤になった蘭を新一は抱き寄せ、顔をじっと見詰めた後、唇を重ねた。
「ん・・・・・・」
お互いに暫らく夢中で唇を求め合い、口付けはだんだん深く激しくなる。
カタリ。
微かな物音がして、我に帰った新一が蘭の唇を開放して室内を振り返って見ると――
何故か、もう寝室に引き上げた筈の者達が全員固唾を呑んで2人のキスシーンを見ていたのであった。
「仲良き事は美しきかな〜。うらやましいですね〜、私も恋人欲しくなっちゃいました〜」
ジョディが悪びれずににっこり笑って言った。
「背後にはいつも気をつけなさいね、名探偵」
志保がからかい口調で言う。
「あ、ただお休みなさいの挨拶をと思っただけで、別にデバガメするつもりは・・・」
園子がアタフタしながら言って、和葉がうんうんと頷く。
平次と真は言い訳もせず、赤くなって明後日の方を向いている。
少年探偵団の3人は、ジーっと目を見開いて固まっていた。
「コラ!子供が見るもんじゃないの!!」
園子が叱り付け、少年探偵団は「えーっ」と抗議の声を上げる。
歩美の目には、実は涙が溢れそうに盛り上がっていたのだが、その事に気付いたのは、志保ともう1人――元太だけだった。
蘭は真っ赤になって突っ立ち、新一は青筋を立てて拳をプルプルと震わせる。
「てめーら、覚悟しろ!!」
新一が怒鳴って追いかけて来たため、一同は蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
窓の外には――
雪景色に紛れて白い装束の男が1人、木の上から先程まで新一と蘭が立っていたベランダを見ていた。
白いスーツにマント、シルクハット、それにモノクル。
言わずと知れた怪盗キッドである。
「良かったな、名探偵」
そう呟いた後、くしゃみを1つして、ハンググライダーを広げて飛び立つ。
「さーて、俺も青子の所に帰ろっと」
夜目に紛れて見えないが、キッドの顔が実は青痣だらけだった事、結局青子に本当の事を全部話して許して貰えるまで、物凄く苦労した事などは、ここだけの秘密である。
やがて家々の窓の灯が消え、全ての者が眠りに就き、町は静けさに包まれる。
月が優しく全てを包み込むように世界を照らす。
今夜は、聖なる夜。
願わくば、全ての人々の上に幸あらん事を。
Merry Christmas!!
Fin.
++++++++++++++++++++++
<後書代りの座談会>
ドミ「ぜはぜは、やっと・・・終わりました・・・」
会長「最終回は、長くなりましたね〜」
ドミ「でも、この内容はさすがに分割したくなかったからですね」
新一「今回はとんでもない話だったな。このシリーズ、最初は黒の組織はもうつぶれたって設定になってた筈なのに」
蘭 「それに私だって攫われタイプのお姫様役じゃない筈でしょ」
ドミ「え?何であんたたちがここに?」
新一「表題見てみろよ、今回は対談じゃなくて座談会だぜ」
ドミ「キャー新一くんだぁ、キャーキャーキャー!!」
新一「おい会長、この馬鹿女、何とかしてくれ!!」
会長「それは無理というものですよ、ホッホッホ」
新一「・・・・・・(怒)」
会長「新一くん、蘭ちゃん、お疲れ様でした」
新一「おい、元はと言えばおめーのせいで俺たちはとんでもない目に遭わされたんだろうが!!また暫らく行方不明になりたいか!?(会長の襟首を掴んで締め上げる)」
会長「ひ、ひええええええ」
蘭 「まあまあ新一、そこまで怒らなくても」
会長「ら、蘭ちゃ〜ん♪」
新一「蘭、1番ひでー目に遭ったのはおめーだろうが。こんなやつを許すのか?」
蘭 「でももう終わったんだし、それにエースヘブンがなくなったらこの話の続きもなくなっちゃうし」
新一「ったくしょうがねーな(渋々会長を離す)」
ドミ「ま、今回は何はともあれめでたしめでたしと言う事で」
新一「無理やり締め括ったな」
会長「・・・(ドミさん、今俺が締め上げられてる間、一体どこに隠れてたんだ?)」
注)上記の会話はフィクションであり、実在する団体・人物とは、たとえ相似している様に見えても一切関係ありません。
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