Side-S
BY ドミ
第3話 本当に聞きたいコト
事件は、解決した。
幸い、河内さんの怪我は思ったより軽かったし、屋田・・・いや、日原誠人さんの罪は軽くて済みそうだし、きっと立ち直ってくれるだろう。
さて。オレは遠からず、コナンの姿に戻る。
その前に、蘭に、伝えなきゃな。
とは言え、おっちゃんもいるし。
さて、どうしたもんかな?
と、思っていたら。
ドクン!
心臓が大きく音を立てた。
ぐうっ!
き、来やがった!?
おい、まだ丸一日経ってないじゃねえか!
いくら何でも、早過ぎだろ!?
事態を察した服部が、急いで旅館のトイレにオレを連れて行く。
そこでオレは、服部が灰原から聞いたという、驚愕の事実を知らされた。
何!?
解毒剤の効果は、およそ24時間!?
う、ウソだろ?
改良品の筈なのに、何で以前より作用時間が短くなんだよ?
畜生、せっかく工藤新一の姿に戻れたってのに、ろくろく蘭と話も出来なかったじゃねえか!
絶妙なタイミングで「工藤新一」として現れた屋田誠人さんを、ホント恨みたくなるぜ。
もっとも、蘭の目の前で変身してしまったとしたら、それはそれでやばかったのは間違いねえけど。
分かっていたら、分かっていたら、あの時、あの山小屋で、蘭の傍をぜってー離れなかったのによ!
あ?
ああ、分かってるよ、見通しが甘かったオレが、悪いんだって事位はよ!
そしてオレは、コナンに戻っちまった・・・。
オレがいなくなった事を、誤魔化さなきゃいけない服部には、面倒をかけるが。
とにかく今は、姿を隠すしかねえ!
と、そこへ。
隣の個室から、ノックが聞こえた・・・。
そして。
もう1錠解毒剤を飲んだオレは、またも発作を繰り返して、再び、工藤新一の姿に戻った。
灰原が機転利かせてトイレで張り込んでたお陰で、とりあえず、蘭達にコナンの正体がばれる危険は回避したぜ。
やれやれ。
とはいえ、元を正せば、灰原のヤツが、前より作用時間が短いハンパな薬を、風邪薬の瓶に入れてたのが元凶なんだよな。
う〜ん、単純に感謝出来ねえオレは、心が狭いのか?
一応、猶予時間は出来た、が。
おっちゃんもいて、和葉ちゃんもいるこの状況で、蘭に、何をどう伝えよう?
実は、オレの中に、迷いも生まれていた。
工藤新一の姿で、声で、蘭にオレの気持ちを伝えたい。
それは、今も強く思ってる。
けど、解毒剤が切れたらオレはまた、あいつの前からいなくなる。
なのに、気持ちを伝えても良いのか?
それは本当に蘭の支えになるか?
逆に、猜疑心を産むんじゃねえか?
かと言って勿論、前と同じく、「何も伝えないまま」なのも嫌だ。
あいつに泣かれるのも、悲しませるのも・・・諦められるのも、絶対に、嫌だ。
せめて、元に戻る事が事前に分かっていれば。
考える時間が欲しかった。
けどそれは、言っても詮無い事。
いつ元に戻っても良いように、心の準備をしておかなかったオレが、悪い。
蘭に。
何を。
どう伝えよう?
色々考えながらの東京への帰路、高速道路で、事件が起こった。
いや、その前に、高木佐藤両刑事と出会うって事があったんだけどさ。
ここは、ハイウェイだぜ?
なのに、蘭を見つけた佐藤刑事の目の良さと、会話の間、上手い事並走させてた高木刑事のドライブテクには、脱帽だ。
そして、殺人事件。
オレは、事件が起こる事そのものを、喜んではいない。
出来れば、世の中からこのような忌まわしい事が無くなって欲しいと、真剣に願っている。
けれど、事件は起こる。
起こっちまった事件に対して、真相を追及しようとするのは、全力を傾け徹底して解明に当たるのは、オレの性だ。
オレのアイデンティティは、探偵である事と、もうひとつ・・・蘭を想う事。
この二つともが、オレにとって必要な事。
いや。
二つ、じゃない。
オレにとって、蘭を想う事と、探偵として事件を解決しようとする事は、別々の事ではなく、ひとつに繋がっている。
それはおそらく、蘭にとっても同様で。
今この時も、オレが推理をしているこの時も。
蘭もきっと、殺人という忌まわしい陰に、真実という光が射す事を、願っているだろう。
そう。
オレとお前は、同じだ。同じなんだ。
「オレの推理によると、おそらくそれは・・・オメーがオレに聞きたい事と、全く同じだと思うから」
この言葉は、決して、計算して出てきたものじゃなかった。
けれど、この時点で蘭に伝える言葉としては、これがベストだったと思う。
発作を起こして苦しむオレに対し、蘭はまず病院に行くようにと言った。
言いたい事や聞きたい事より、まずはオレの体の心配を優先する。
それが自然に出来るのが、蘭、お前なんだよな。
結局オレが、蘭に伝えられたのは、「2人の気持ちはきっと同じ」、これだけだった。
それを蘭が、どう受け止めてくれたのか。
オレの気持ちが、少しでも通じていると良いと思う。
うん。
でもきっと、今回はあれが、精一杯で、ベストな言葉だったと・・・ははは・・・。
・・・。
・・・・・・。
おい!
いくら耐性が出来るからって、24時間の次はたった4時間たあ、どういう事だ!?
それも、元の薬じゃなく「解毒剤」の方に耐性が出来るって、一体どんな薬なんだよ!?
そして灰原!
お前、今回だって予測が付いてたクセに、またも隠してやがったな!
あいつの秘密主義は今に始まった事じゃねえのに、またも見抜けなかったオレが、バカで間抜けだったよ!
あん?それは八つ当たりだろうって?
んなこた、自分でも重々分かってるさ、畜生!
口に出しては言わねえから、心の中で位、悪態つかせてくれ!
オレは、またもや小さくなった自分の左手を、じっと見詰めた。
蘭は、まだオレの手を握ったままだ。
コナンとして蘭と手を繋ぐ事はしょっちゅうだが。
蘭が想いを込めて「新一」の手を握ってくれたこの手を、オレから離すなんて、勿体なくて、とても出来ねえ。
待ってろ、蘭。
ぜってー、近い内に、戻って来っからよ。
そして、仮初めの姿ではなく、完全に、新一の姿を取り戻したその時には。
その時こそは。
オレは、小さくなっちまった手で、「工藤新一」としての想いを込めて、蘭の手をきゅっと握り返した。
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