仮想空間の戦い



byドミ(原案協力:東海帝皇)



(5)大切な人を守りたい



コナンくんからショッキングな話を聞かされて間もなくの事。
私は、コナンくんから渡された例のプログラムを感知する腕輪型の装置を持って、仮想空間をうろついていた。
中々非効率なやり方だけど、これで一日二、三件は事件を拾うのだから、どれだけその手の事件が頻発しているのか知れない。

装置が反応した。
私は急いで装置の指し示す場所に行った。
そこで私は初めて「仮想空間内の性犯罪」と対峙する事になった。

そしてそれは、ある意味・・・もの凄い僥倖でも、あったのだった。

「そ、園子っ!!」

私は悲鳴を上げた。
男達に組み伏せられているのは、私の大親友である園子だったのだ。

私は怒りに我を忘れて、思わず男達に蹴りを入れようとした。
しかし悲しいかな、ここでは武道の技も相手にダメージを与える事は出来ないのである。

園子はまだ服も乱されていないが、これから何が起こるか予想してか、その顔が絶望と恐怖に歪んでいる。
私はとにかく園子を逃がすのが先と、必死で腕輪のボタンを操作した。
すぐに園子の姿が掻き消え、私は安堵の溜息を吐いた。

次いで、赤いものが視界に入り・・・ふと見ると、現実だったら回復不可能な大怪我をして倒れている男性が居た。

「京極さん・・・!」

私は思わず駆け寄った。
虫の息で
「そのこ・・・さん・・・」
と必死で呼ぶ京極さんの姿に、胸が痛んだ。

おそらく彼は、必死で園子を守ろうとしたのだ。
これが現実世界であったなら、たとえ大勢を相手にしても、京極さんが、こんな男達に負けるなんて、絶対有り得ないのに!

「あんた、いいとこ邪魔してくれたなあ」
「それともあんたが代わりに相手してくれんの?」
「ほ〜、さっきのより上玉じゃん。現実の姿はどうか知らんが、俺達を楽しませる為にそんな姿を取ってんだよねえ」

男達が勝手な事を言う。
私は怒りで腸が煮えくり返っていたが、私ではこの男達を強制送還する事は出来ないから、ここは京極さんを逃がして私も待避するしかない。

そう思って私は腕輪の装置を京極さんに向けスイッチを押そうとした。
その途端、腕輪がはじけて粉々に砕けた。

「ああっ!?」

私は絶望の叫びを上げた。

男達がにじり寄って来た。
私は京極さんを背後に庇うようにして、男達を睨みつけた。

たとえどんな目に遭わされたって、ここで、魂まで、こんな男達に屈する訳には行かないのだ。

「ほほお。最近、現場に現れては邪魔をして強制送還をしてくれるやつらが居ると風の噂には聞いていたが、あんたがその一人なのか。けど、そのプログラム装置は破壊した。楽しみを邪魔させられた責任を取って貰おうか」

そう言って近付いて来る先頭の男が、突然光に包まれて消え失せた。

「コナンくん!」
「蘭姉ちゃん!無事か!?」

コナンくんが突然その場に出現した。
男達は、瞬時に光に包まれ全員消え失せた。

「コナンくん!どうしてここへ?」

実は、腕輪は通信装置も兼ねていたので、コナンくんには逐一私の方の様子が解るようになっている。
だから、今までにも、危機一髪で助けられた事は、何度もある。

けれど今回は、その腕輪が破壊されたので、まさかコナンくんが駆け付けてくれるとは、思っていなかったのだ。

「バーロ。腕輪が破壊された時にもわかる様になってんだよ!ん?この人は・・・?」
「園子を守ろうとしてこんな事に・・・コナンくん、お願い!」

私の装置は破壊されてしまったので、京極さんを助ける事は出来ない。
コナンくんは頷くと、京極さんの傍に膝間付いた。

コナンくんが腕輪で何らかの操作をすると、京極さんの体は光に包まれた。
私は、京極さんがここから消えるものだと思っていたが、光がおさまるとそこには、傷ひとつない京極さんの姿があった。

「大丈夫ですか?もし出来るのなら、あなたに話を伺いたいのですが」

コナンくんが京極さんに話しかける。

「園子さん!園子さんは!?」

京極さんが周囲を見回して叫ぶ。
私は安心させる為に告げた。

「大丈夫です、園子はちゃんと待避させましたから。まだ、あいつらには、指一本触れられて居ません」

それを聞いて、京極さんは、大きく安堵の溜息を吐いた。

「ああ!それにしても私は・・・!香港にまで行って強くなる為の修行をしていた筈だと言うのに、愛する女性を守る事も出来ないとは、なんと情けない・・・!」

顔を覆って京極さんが嘆く。

「あなたの所為ではありませんよ」と、喉元まで出かかったけど。
彼にとってそれは何の慰めにもならない事は重々わかっていたから、私は結局何も言わなかった。

「真さん・・・!」

その場にふいに園子が現れた為、私達は皆驚いた。
退避させた筈だったのに、ここに再び現れるのはもの凄く恐ろしかっただろうに、おそらく京極さんの身を案じて戻って来たのだ。

「園子さん!」

二人はしっかりと抱き合って泣いた。

ここでは、抱き合っても、お互いの感触をリアルに感じる事は出来ないだろうが、それこそ二人に取ってどうでも良い事だろう。
私とコナンくんも邪魔をせず、暫らく黙って二人を見守っていた。



「そうですか・・・仮想空間内でそんな事件が多発しているとは・・・不覚にも知りませんでした」

私達から話を聞いて、京極さんは溜息を吐きながらそう言った。



   ☆☆☆



私達は、見た目は馬鹿でかい洋館の中に居た。
コナンくんの仮想空間での家、という事だった。

一昔前のホームページに当たるが、そこのアドレスは公開されていないし、入るのには暗証番号も必要だ。
他にも簡単に入れない仕掛けがあるらしく、「セキュリティ万全」なのだ。

「現実では遠距離恋愛中のあなた達に、この仮想空間に入るなと言うのは、酷な話だと思います。この際、町をぶらつくのは諦めて、どこかきちんとしたセキュリティが働く空間を確保するのが最善でしょう」

コナンくんが京極さんに説明する。

京極さんが丁寧語なのは誰にでもだけど、コナンくんも京極さんに対しては丁寧語を使うという事は・・・もしかしたらコナンくん、京極さんよりは年下で、私や園子とは、タメなのかしら?
こんな場合だと言うのに、私は妙な事を考えてしまっていた。

「ええ、私達が会う場所は確保したいと思いますが・・・そのような犯罪が罷り通っているのを捨て置く事など出来そうもありません。愛する人を守る事が出来ない、あの絶望感。私も二度と嫌ですが、他の人にも味わわせたくありませんよ。僭越ながら、私もお仲間に加えて頂く訳にはまいりませんか?」

京極さんが真っ直ぐにコナンくんを見詰めて言った。

「え?しかし・・・」
「私達は毛利さんとあなたのお陰で助かりました。少しでも恩義をお返ししたいのです」

園子も、京極さんの言葉にしっかり頷いて見せた。

突然、私達がいる居間の壁が光り、そこがスクリーンとなって文字列が映し出された。
コナンくんがそれに見入る。
私達には何の事やら訳が解らない意味不明の文字配列。
どうやら、暗号になっているらしい。

文字列の最後に、行を変えてSHIHΩとあった。

「フン。先程の男達の一人は、流石に蘭姉ちゃんの腕輪型プログラムを破壊しただけあって、トカゲの尻尾よりは少し上の位置に居たらしい。奴の情報を解析する事で、色々解って来た。まあ、奴はもう二度とここに来る事は出来ねえけどな」

コナンくんはニヤリと笑ってそう呟いた後、その壁に向かって言った。

「灰原。聞いてんだろ?」

すると宙からアルトの声が返って来た。

「江戸川君、何の用よ?声に出すなんて、盗聴されたらどうするの?」

私はその声に聞き覚えがあるような気がして首を傾げたが、その時は何処で聞いた声なのか思い出す事は出来なかった。

「こことそこを繋ぐ回線はセキュリティ万全だってお墨付きしたのは、灰原、オメーだろうが。さっき頼んだ蘭の腕輪の作り直しの他に、後二つ出来るだけ急いで作って欲しい。それと、毛利蘭、京極真、鈴木園子、三人分のバーチャルボディ、用意出来るか?」
「やれやれ、人使いが荒いわね。急ぎは料金が嵩むわよ」
「出来るだけ早く頼む」
「一時間程待って貰える?もうひとつの仕事と重なって忙しいのよ」

「ねえコナンくん、今のは?それに、私達のバーチャルボディって?」
「灰原は、俺達に協力してくれる優秀なハッカー(注)なんだ。様々な情報を提供してくれる。それに、彼女の義父に当たる人が仮想空間内でのアイテムを開発してくれるから、その依頼窓口にもなっているんだ」

突然、セキュリティ万全な筈の玄関ドアが開いて、大きな子供の声が響き渡った。

「工藤、おるか〜?何や、来客中かいな」

そう言いながら飛び込んで来たのは、私がこの前見た色黒の男の子とポニーテールの女の子だった。




(注)この話ではハッカーとは、俗に解釈されている「プログラムを違法改変して犯罪行為を行う人(クラッカー)」ではなく、「コンピュータープログラムの達人」という本来の意味で使われている。




(6)に続く


+++++++++++++++++++++


<後書き>

サイトアップの為に、細かな手直しをしていますが。
この話を書いた頃の私って、やたらと漢字を使ってたんだなーとか、句読点なしで長い文章を書いてたんだなーとか。
感じています。

今更ですが、このお話のカップリングは、新(コ)蘭平和真園。
真園は、新蘭より先に、ラブついています。
平和は、原作のような幼馴染みテイストです。


(4)「戦いの始まり」に戻る。  (6)「チーム結成、ジャパンイレギュラーズ」に続く。