仮想空間の戦い



byドミ(原案協力:東海帝皇)



(6)チーム結成、ジャパンイレギュラーズ



「一体何かな?平次くん?」

コナンくんがにっこり笑って、飛び込んできた子供に言った。
その猫撫で声が最高に恐ろしい事は、私も知っていたが、入って来た子供もわかっていたらしい。

「そない怒るなや、くど・・・こ、こ、こ、コナンくん」
「ったく・・・ちっとは慎重になれよ、バーロ。ここでだから良いが、呼び方には気を付けろって言ってんだろうが!」

私達は訳が解らず点目になって、見た目は七歳の子供同士が、漫才をしているその光景を、見ていた。

そして私は。
最初に色黒の子が呼びかけた言葉から、どうやらコナンくんの本名、姓は「工藤」であるらしいと、気付いた。

「あの・・・江戸川くん、この二人は?」

京極さんが、私と園子の疑問も代弁し、声に出して訊いた。

「大阪の探偵、服部平次くんと遠山和葉さんです。独立して別行動の事が多いけど、いつも情報交換をしているんですよ」
「仲間が増えるんは心強いで、よろしゅう頼んますわ」
「大阪に仲間が居られたのですか。他の地域にも?」
「現実空間で住んでいる地域はあまり問題にならない。と言っても、この事件、日本人が多いJPエリアとJAエリアにまだ限局している。しかしこのまま放置しておくと早晩全世界に流出してしまうでしょう。そうなったら元凶を叩くのも困難になる。で、今のところ実働隊として動いてるのは、俺と蘭姉ちゃん、平次と和葉ちゃんの四人だけだ。あなた達二人が加わってくれればとても心強い」

その後は、成り行きで協力し合う事になった面々同士、お互いに自己紹介を行った。
服部くんたちも、どうやら私達と同世代らしい。

「え〜、たった六人だけでこの大掛かりな事件を解決しようって言うの?無謀じゃない?」

園子が抗議の声を上げた。

「まあ、色々事情があるからね。やたらな人を仲間にする訳にもいかねーし。それに、ハッカーとしてバックアップしてくれる部隊が、灰原を始めとして数人居るんだ。実は、そっちの働きが結構大きいかな?」

コナンくんがそう言っている間に、再び壁が光を発した。

「灰原、随分早かったな」
「敵の中枢に近くなって来たのなら、本腰を入れないとね。超特急で仕上げたわ。と言っても実際の作業をやったのは義父だけどね。かなり張り切ってたわよ」

私と園子、そして京極さんの体が、いきなり光に包まれた。
仮想空間内とは言え、その眩しさに、反射的に目を閉じた。

目を開けると、周囲の様子が変わっているのに気がついた。
何だか、部屋が広くなったような気がする。
テーブル、あんなに高かったっけ?
それに・・・。

私は、園子と京極さんに声を掛けようとして、驚愕した。
二人とも、愛らしい七歳位の子供の姿になっていたのだ。
慌てて自分の手を見、体を見下ろす。
どうやら私も、子供の姿になっているらしい。

「コナンくん、これは?」
「蘭姉ちゃんたちの新しいバーチャルボディだよ。仮想空間の体は仮の物、殆どの人は、現実と違う姿を取っている。だから、子供の姿が本人そのままじゃない事は、理屈では解っている筈なんだ。けど見た目ってのは意外と効果があって、子供の姿の方がやり易い事が多い。それに・・・まあ中にはロリータ趣味の奴も居るけど、子供の姿をとる事で、陵辱されようとする危険もかなり減る筈だ」

今まで、コナンくんが私達と変わらない年代だって、頭では理解してても。
見た目が子供で、視線の高さも何もかも違う為、何となくどこかで本当の「子供」を相手にしているような気分だった。
でも、こうやって私の方も子供の体になり、目線が同じになってしまうと、妙にドキドキしてしまう。

「江戸川くん、後少ししたら、全員分の腕輪が出来上がるわ。江戸川くんたちも、今持っているやつと交換した方が良いわよ。敵の中に、どうやら前のプログラムを破壊出来るソフトを持っているやつが居るようだから。それに、今度のやつは、機械音痴の蘭さんたちでも敵の強制退去を出来るよう、操作が簡単になってるわ」

空から再び、灰原さんの声が降って来た。

「わかった。宜しく頼む。・・・さて、腕輪の説明は届いてからするとして、まずお互いの呼び名の件。俺の『江戸川コナン』はこの世界におけるハンドルネームだから、『江戸川』でも『コナン』でも好きに呼んで貰って構わねーんだが、あんたらは現実世界での呼び名を、そのまま持ち込んでるだろ?せめてお互い『姓』では呼ばねーようにしてくれ。日本では名字の方が個人情報を探し易い。万一、現実世界での本体が突き止められるとまずい事になるかも知れねーから」
「って事は・・・私『京極さん』じゃなくて『真さん』って呼ばないといけないの?出来るかなあ」

私は思わず呟いた。

「蘭、ま、慣れねーだろうけど、気を付けるようにしてくれ」
「ねえ、今気が付いたんだけど、コナンくん、いつの間にか私の呼び名が変わってない?」
「お互い子供の姿なんだから、『蘭姉ちゃん』じゃ変だろ?」
「・・・・・・」

私は、いつの間にかさり気に呼び捨てされている事を言ったのだけれど、どうやらスルリとかわされてしまった様だった。

「せや!」

突然服部くん・・・いえ、平次くんが声を上げた。

「せっかく一緒に戦う仲間になったんや、俺らのチーム名決めへんか?『改方イレギュラーズ』言うんはどないや?」
「何だよそれ?改方って、オメーと和葉ちゃんしか居ねえだろうが!」
「せやかて、イレギュラーズはくど・・・こ、コナンの好きなホームズから取ったんやで?」

コナンくんと平次くんの会話に、園子が乱入する。

「あら、どうせなら『帝丹イレギュラーズ』で、どうお?」
「それやと、姉ちゃん達二人しか居らへんやんか」

やいのやいのと、チーム名を巡って言い争いが続く。
私達の最初の話し合いがこれだなんて、私は何だか頭痛がして来た。

そしてチーム名は紆余曲折の末、結局、「ジャパンイレギュラーズ」に決まった。


その後、灰原さんが腕輪の説明をしてくれた。

「この腕輪、ジャスティス・ブレスは、犯罪者のバーチャルボディを破壊するスーパープログラム・ナイトバロンが仕込んであるの」
「ナイトバロン?」

私がオウム返しに言うと、灰原さんは、詳しく解説してくれた。

「このナイトバロンはね、ネット犯罪者のバーチャルボディは勿論の事、使用PCのCPU、メモリー、ハードディスクドライブ、果てはマザーボードそのものまで、破壊してしまうプログラムなのよ」

園子が口を挟む。

「CPUやハードディスクって・・・」
「ちょお待て!するとパソコンそのものがまるっきり使用不能になる言う事やないか!」

平次くんの言葉に、灰原さんは冷静な声で答えた。

「そうよ。けど、それだけの事をやっているんだから、それ相応の報いは受けてもらわないとね」
「灰原の言う通りだ。俺に言わせれば、それでもまだ甘い方さ。まあ、ああいう事をする奴って、意外とPCへの思い入れが強いから、それが完璧に使用不能になったと知れば、半狂乱になる事疑い無しだ」

そう言って、コナンくんは不気味にニヤッと微笑んだ。

「じゃあ、あの人のPCもそういう状態になってるって事?」

私の言葉に、コナンくんは頷く。

「ああ。おまけに、パーソナル情報が全てのプロバイダに流れて、二度とどこにも契約出来なくなるから、パソコン替えても二度とここには来られない。個人情報も各方面にだだ漏れさ」
「まあ、あれだけの事をしたんですから、それだけの報いを受けて当然でしょう」

京極さん・・・真さんが、穏やかな彼に似合わぬ発言をした。
何しろ、目の前で園子が陵辱されそうになったのだ、それだけ怒りは深いのだろう。

真さんの言葉に一同は頷いた。
たとえ仮想現実とは言え、他人にあれだけの苦痛とトラウマを与えた人達だ。
犯罪を犯した者への罰は報復主義ではいけないと言うが、それ位の報いはあって当然だろうと私も思った。


その後、私達は、ジャスティス・ブレスの使い方の詳しいレクチャーを受けた。
新しい腕輪がとても使いやすく改造されていたのは確かで、メカには弱い私や園子も、一時間程のレクチャーを受けただけで、かなり使いこなせるようになった。


   ☆☆☆


私達の、チームとしての活動が始まった。

と言っても、普段から六人でつるんでいる訳ではなく、今迄通り仮想空間内でそれぞれが気ままに過ごしていて、事あれば協力し合うと言った感じである。
それに、六人全員が揃わないといけない事件は、流石に、滅多にない。
普段は園子と真さん、平次くんと和葉ちゃん、そしてコナンくんと私とで、コンビを組む事が多かった。
コナンくんと私はともかく、後の二組は、最初から仮想空間内で一緒に行動していたんだものね。
それぞれに、息はピッタリ合っていた。

平次くんと和葉ちゃんは、幼馴染同志という事だ。
私には「ただの幼馴染」には見えず、まるで夫婦のような感じと思うのだけれど・・・今の時点ではまだ、本当に「ただの幼馴染み」らしい。

けれど、チームとしてお互い協力し合う内に、全員が少しずつ仲良くなって来た。
男性同士はどうなのか分からないけれど、時には事件を離れ、女の子同士で遊びに行くようにもなった。

ある日の事。
真さんや平次くんは、現実世界で用があり、コナン君も姿を現さず、私は園子と和葉ちゃんと三人で、仮想空間のカフェでお茶していた。
女の子達だけでのお喋りは、気を使わずにすみ、楽しい。
元からの親友である園子とだけでなく、和葉ちゃんとも話が弾む仲になっていた。

「園子ちゃんと真さんって、ラブラブでええなあ。羨ましいわ」

和葉ちゃんがそう言って溜息を吐いた。

「何言ってんのよ、和葉ちゃんだって平次くんと・・・」

私が言うと、和葉ちゃんが手を振って言う。

「平次とはただの腐れ縁、幼馴染。アタシは平次のお姉さん役やから、そんなんやないって。それより、蘭ちゃん達こそどうなん?」
「え?どうって?」
「そう、蘭、私も気になってたのよ。コナンくんとはどうなってるの?」

園子までが言い、私は頬に血が上るのを感じた。
多分、こちらの世界では、赤くなってないだろうけど、現実の私の体は、真っ赤になっているだろう。

「こ、コナンくんとって・・・!だって、相手はまだ、子供じゃない!」
「蘭、あんたねえ。あの姿が現実のままって思ってる訳じゃないでしょ?」
「そうそう、子供ゆうたら、今のアタシ達、全員子供やで?コナンくんは少なくとも、アタシらより年下やないって思うんやけどな」

私は俯いてしまった。

「それは・・・その位分かってるけど・・・でもね、私、あの人の現実での姿も年齢も名前も、何にも知らないんだよ?」

私はやっとそれだけを言った。
実際、コンビを組んで随分経つのに、彼からは何も教えて貰っていない。
名前も年も知らない。
アメリカのロサンゼルスに居る事は何かの拍子に聞いたが、住所も知らない。
普段何をやっている人なのかも、知らない。

私は何だか、悲しくなってしまった。

「平次はコナンくんの現実での姿、知ってるらしいんやけど、アタシには教えてくれへんのや。けど多分、アタシ達とタメ位やと思うで。蘭ちゃんと一緒に居るところは、ラブラブな様に見えるんやけどなあ」
「うん。私もそう見える。ねえ、蘭の気持ちはどうなの?」
「ど、ど、どうって・・・だから、姿も名前も判らない相手に、何で恋しなきゃなんないのよ!?」
「だって蘭、一時期、メールだけでしか相手を知らないネット恋愛ってのが、はやったじゃん。それに比べれば・・・たとえ相手の姿を知らなくても、蘭はここで、あやつと言葉を交わしているでしょ。あやつの方は蘭の現実での姿知ってるし、充分恋は出来ると思うよ」
「もう、そんなんじゃないって。私達はあくまでも、志を同じくする『仲間』なんだよ。少しでも早く、あのおぞましい犯罪をなくす為の」

園子と和葉ちゃんは、呆れた目をして溜息を吐いていたが、私はそ知らぬ振りをして、ストローを咥えてジュースを飲んだ。

私達は、あくまで戦いの為のコンビなのだと、園子や和葉ちゃんにも言い、自分にもそう言い聞かせていた。
でも、そうじゃない事は、本当は自分が一番よく解っていたのだった。




(7)に続く


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<後書き>

ああ。
ここら辺、挿絵か漫画で描きたかったなあ。
チビ新蘭・・・もとい、コ・チビ蘭、チビ平和、チビ真園。
かろうじて、表紙で、コナン君とチビ蘭ちゃんは、描いたんですけどねえ。
鉛筆で書いた絵をスキャナで取りこんで・・・。

なら、今からでも新たに描けって言われそうですが(汗)、それはご勘弁を。
元から絵が得意ではない上に、子供は苦手。
プロならともかく、同人界で、子供を上手に描ける人は、そう多くないですけどね。

チビ達がわらわらと活躍する姿を頭の中で想像するのが、とても楽しかったです。
少年探偵団のノリと違い、6人全員が、「体は子供・頭脳は大人」なのが、書いてる私の萌えポイントでしたねえ。

この時点で、平和は幼馴染み、真園は最初から恋人同士でラブラブ。
で、コ蘭は、幼馴染みですらなく、まだ何事も起きていませんが、蘭ちゃんの気持ちに、変化があっている模様(笑)。

次回、コ蘭・・・いや、新蘭的に急展開、です。


(5)「大切な人を守りたい」に戻る。  (7)「現実世界にて、思い出の日」に続く。